JAWS/ジョーズ(1975年アメリカ)

Jaws

これは天才、スピルバーグが作った、一世一代のマスターピースですね。

以前、スピルバーグのインタビューを観たときに初めて知りましたが、
本作製作当時、ハリウッドのプロダクションはこの企画がヒットするか大きな疑義がかかっていて、
スピルバーグに多額の資金融資があったときも、ほとんどの関係者が疑問だったようなので、
スピルバーグにとっては人生を賭けた大きなギャンブルであったらしいのですが、不安でたまらなかったようだ。

そこで、映画会社でのラッシュ(試写会)でスピルバーグは不安でスクリーンの部屋にいられず、
待合室のベンチでボーッとしていたところ、ボートに乗っている男性が人食いザメに襲撃されたシーンで、
鑑賞室から慌てて出てきた観客の男性が、嘔吐して、すぐに鑑賞室に戻っていった様子を見て、
当時のスピルバーグは「よしッ! これは大ヒットするはずだぁ!!」と確信したらしいのです。

70年代に入って、73年の『エクソシスト』などを観れば一目瞭然ですが、
映画をアトラクション化する傾向は顕著になっておりましたが、本作はその流れを決定的にしました。

スピルバーグは72年のテレビ・ムービー『激突!』で既にそういった時代を予見して、
先取りしたような創作活動をしておりましたが、本作の誕生でスリラー映画のスタンダードを確立しましたね。
本作での成功が大きかったのか、スピルバーグは一気にハリウッドのトップメーカーに成長していきます。

人食い鮫の恐怖というのは、本作誕生以前から語られ続けてきたことではあると思うのですが、
ここまで的確に映像として具現化できたというのは映画史上、初めてだったのでしょう。
本作の誕生は、かなりセンセーショナルな出来事として映画界でも衝撃的な出来事でした。

映画のクライマックスの攻防はオーソドックスな内容で、
あくまで“当時として考えれば”迫真の出来ではあると思うけれども、割りと平凡な仕上がり。

しかし、この映画は特に映画の前半が凄く良い。

ある意味で、ヒッチコックの手法を用いたという見方もできるのですが、
人食い鮫の恐怖を描いた映画であるという前提条件が観客には明らかになっているからこそ、
「いつ、その襲撃があるのか・・・」という心理的要因からくる緊張感をスピルバーグは利用しており、
徐々に忍び寄る恐怖を象徴させたり、一気にスリルを盛り上げたりと、巧みに緩急をつけながら構成し、
ありとあらゆる方法論で従来には無いタイプの映画を生み出そうと、いろいろな工夫を凝らしています。

凄く単純な気持ちだと思うのですが、
おそらく当時のスピルバーグは「なんとかしてみんながビックリする映画を作りたい!」とだけしか、
考えていなかったのではないでしょうか...その強い思いが結実したのが本作だという気がします。

そして、この映画はロバート・ショーとリチャード・ドレイファスの存在が良い。
どこかギラギラしたようなロバート・ショーに、如何にも70年代の若者風に“新人類”的なオーラを出す、
リチャード・ドレイファスと、この2人の描き方が特に秀でており、映画を上手く引き立てている。

ハッキリ言って、ストーリーの基本は大きなサプライズがあるものではなく、
極めてオーソドックスで誰もが予想できる内容であり、作り手が見せたいものも明白な企画である。

それでも十分に素晴らしい仕上がりになって、映画史に残す大傑作として君臨しているということは、
やはり映画を撮るにあって、大事なことはシナリオだけではなく、意外性を作るということでもないということなんですね。
おそらく当時のスピルバーグも少しずつドラマを描きたいという欲にもかられていたようで、
それを裏付けるように、本作では夏の観光需要を逃したくはないアミティの市長が、サメの危険よりも
観光収入を選択する姿を描いており、こういった描写は彼のデビュー作『激突!』よりも多くなっている。

こういったチャレンジが正解だったか否かは、おそらく賛否が分かれるところだろうけど、
個人的には当時のスピルバーグのそういった気概は“買いたい”ところだし、
後々、ハリウッドを代表するトップメーカーとなり、数々の映画を手掛けるためには、
やはりこういった野心的な部分も、当時の彼には必要な部分であったと考える方が自然だと思う。

ところで、本作の原作であるピーター・ベンチリーの小説は、
1916年にニュージャージー州で実際に起きた、ホホジロザメによる襲撃事件がモデルとなっており、
多くの現地の人々が犠牲になっているという、たいへん痛ましい出来事で、ほぼ本作と同様である。

そんな恐怖に悩みに悩んだ男たちが立ち上がって、
サメ退治に乗り出すという展開は脚色していますが、これは当初、スピルバーグは人間よりも
むしろ退治される対象となってしまったサメに同情的になってしまい、サメが逃げ切ることを期待していたようだ。

ある意味で、スピルバーグらしい発想と言えば、らしいですね。やっぱり、究極の恐怖を描く天才なんです。

一連のサメに襲われる人々の最期を実にショッキングな描き方に終始するのですが、
思えば本作で一番残酷な最期と感じたのは、やはりロバート・ショー演じるクイントの凄惨な最期だろう。
如何にも“海の男”といった具合に豪華に振舞っていたクイントですが、サメに食い千切られる有様を
スピルバーグは真正面から、ほぼ誤魔化し無しで描いており、血を吐きながら苦しむ姿はほとんどスプラッタだ。

73年の『エクソシスト』あたりから、映画にアトラクション性を持たせる潮流が明確になったように思いますが、
本作の世界的なヒットは、映画産業が次のステージへと進むキッカケになったと言っても過言ではありません。

しかしながら、本作だけには留まらないのですが...
このようなパニック映画にとって、大きな失敗であったのは、多くのハリウッドのプロデューサーが
第1作での成功に味をしめて、“続編ビジネス”に手を染めてしまったことです。

本作も結果的には第4作までシリーズ化されました。
ハッキリ言って、許せるのは第2作までです。その第2作も、そこまで出来が良いわけではなく、
どうしても本作第1作のインパクトに勝ることはなく、大方の映画ファンの想像内の作品に仕上がってしまったのです。

実に数多くのヒット作品が“続編ビジネス”に手を染めてしまいましたが、
どの作品もパッとせず、最終作に至っては観るも無残な出来になってしまった例も少なくはありません・・・。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 スティーブン・スピルバーグ
製作 リチャード・D・ザナック
    デビッド・ブラウン
原作 ピーター・ベンチリー
脚本 ピーター・ベンチリー
    カール・ゴットリーブ
撮影 ビル・バトラー
美術 ジョセフ・アルヴスJr
編集 ヴァーナ・フィールズ
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 ロイ・シャイダー
    ロバート・ショー
    リチャード・ドレイファス
    ロレイン・ゲイリー
    カール・ゴットリーブ
    マーレー・ハミルトン
    ジェフリー・クレーマー

1975年度アカデミー作品賞 ノミネート
1975年度アカデミー作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) 受賞
1975年度アカデミー音響賞 受賞
1975年度アカデミー編集賞(ヴァーナ・フィールズ) 受賞
1975年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) 受賞
1975年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ジョン・ウィリアムズ) 受賞