ジャッキー・ブラウン(1997年アメリカ)

Jackie Brown

いろいろな意見はあると思うが、これがタランティーノの真骨頂だと思う。

どこかセンチメンタルなニュアンスとも言っていいくらい溢れる、ブラックスプロイテーションへのリスペクト、
その中でもどうしても自分の監督作品に出演して欲しかったとタランティーノ自身が語っている通り、
如何にも「若い頃はスゴい美人だったのだろうなぁ」と感じさせるパム・グリアー演じるヒロインの扱いなど、
これはタランティーノなりにかつて慣れ親しんだカルチャーへの愛を示す映画と言っていい内容だと思う。

麻薬と大金を運ぼうとした罪で逮捕されたCA(キャビン・アテンダント)が、
警察から協力を求められながらも、運び屋の司令塔であったオデールと次なる計画を組んだり、
保釈屋マックスに少しばかりの色気を振りまいて協力を求めるといった、同時進行のクライム・サスペンスですが、
そういった犯罪を題材に描きながらも、この映画はどこか暖かいというか、センチメンタルな空気が漂っている。

映画も2時間30分を超えるというのは、僕も少々冗長に感じる面はあるし、
スゴい大傑作とまでは言えないとは思います。だけど、この暖かさを簡単に切り捨てることもできないですね。
個人的にはタランティーノの代表作『パルプ・フィクション』よりも、こっちの方が好きな映画ですね。

やっぱり、エルモア・レナード原作の映画ということもあってか、
余計なことばかりに時間をかけていて、肝心かなめのストーリーがあまり順調に進まない(笑)。
でも、このダラダラ感を楽しむための映画と言われれば、それはそれで間違ってはいないのかもしれません。

パム・グリアー演じるCAは麻薬と大金の運び屋にされて、社会復帰ができなくなることを恐れます。
そんなCAが犯罪に巻き込まれたことを知っていてか、警察側は本当の狙いは武器密売人のオデールであると
彼女に告げ、オデールへの内偵に協力するよう彼女に迫ります。一方で、“警察に売ったオンナ”として、
オデールの恨みをかうのも嫌った彼女は、警察側の指示を頭に入れつつも、オデールへ警察からの伝達事項を
適度にバラし、オデールには警察へ協力する気がないことを信じ込ませ、オデールが暴走しないようにします。

このヒロインがやったことは、警察側とオデール側が勝手に対決してくれて、
お互いに相討ちになっている間に、自分はトンズラしようと画策するようなもので、
映画を観ていると、彼女は実に良い塩梅で警察にもオデールにも話しをするのです。この見せ方が凄く上手い。

いつもなら、ストーリーテリング上のテクニックにはしりがちなタランティーノですが、
本作では割りとオーソドックスに映画を進めており、編集で小細工をしているタイプの作品でもありません。

そこに絶妙に絡んでくるのがロバート・フォスター演じる保釈屋マックスというわけで、
マックスとヒロインの間には、どこか大人な関係を匂わせる香りが劇中、常に漂っているのが良い。
しかもマックスはどこからどう見ても、そこら辺にいそうな、ただのオッサンだしでルックスが良いわけでもない。
それでも、マックスはマックスで一目で気になったジャッキーを忘れられずに、彼女になんとか近づこうとする。

映画のクライマックスにある、この2人のキスシーンで見せる色気、切なさは半端ないですね!
この感情が表現できるパム・グリアーの魅力を、タランティーノがよく分かっているから、成し得たシーンでしょう。
また、ロバート・フォスターが邪魔したかのような電話を受けながら、なんとも言えない表情をしているのも良い。

この映画、結構な豪華キャストなのですが、ロバート・デ・ニーロにしてもブリジット・フォンダにしても、
チョイ役と言ってもいいくらい扱いが軽いです。まぁ、ブリジット・フォンダがダルそうな顔してソファーに横になって、
彼女の父親であるピーター・フォンダが主演の『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』を観ているのが、面白かったけど、
彼女たちのような実力派俳優をも贅沢な起用をできるというのが、当時のタランティーノの凄さでもありますね。

映画はクライマックスに近づくにつれ、ゆっくりと動き始めます。
特に受け渡し現場となった、巨大ショッピングモールでのやり取りは視点を変えて、
主要登場人物3人それぞれの視点から別々に描くというのがユニークで、なかなか面白かった。
その中でも、ロバート・デ・ニーロとブリジット・フォンダの視点で描くときに、僅かな時間、どことなくカメラ視線で
ロバート・フォスターが映るのが、インパクト絶大でクセ者ばかりを映した本作の大きな特徴だと感じました。

それ以前にも、サミュエル・L・ジャクソン演じるオデールの愛人である、
ブリジット・フォンダ演じるメラニーを住ませているアパートで、オデールが見せて熱弁ふるっている、
ビデオも何故かビキニ美女がマシンガンを連射しているVTRで、如何にも80年代の映像って感じで、チープ(笑)。

たぶん、タランティーノがこういうカルチャーがスゴい好きなんでしょうね。
確か若い頃、彼は大のビデオ・オタクでビデオ・ショップでアルバイトしていたはずですから、
こういうコアなファンがついていそうな映像が好きで、それを映画の中に反映させた可能性があります。

タランティーノはエルモア・レナードの大ファンであったらしく、
本作の製作は念願の仕事であったようだ。しかも、本作でマイケル・キートンが演じた捜査官レイは、
同じエルモア・レナードの原作を映画化した『アウト・オブ・サイト』でも同じキャクラターが登場しており、
もう一度マイケル・キートンが演じている。主人公でもない役柄でこういうことは、とても珍しいことだと思う。

なんだか『アウト・オブ・サイト』のキャラクターとは大違いな気がするけど、
それだけタランティーノや『アウト・オブ・サイト』を撮ったスティーブン・ソダーバーグは、
エルモア・レナードの小説に強く魅力を感じて、映画化を願っていたことの象徴だと思うんですよねぇ。
(本作を観れば観るほど思いますが、確かにレイも“愛すべきクセ者”というキャラクターですね)

スラングの応酬もほぼ無いし、バイオレンス・シーンも大人しい描写に終始。
くだらない雑談にまみれた会話も皆無で、ダラダラした映画のテンポで冗長に思える部分はあるが、
如何にタランティーノがパム・グリアーのことを映したくて撮ったのかが、よく分かる映画に仕上がっている。

これは映画の冒頭から、そんな雰囲気がプンプン漂っているのですよね。

ヒロインが空港の長い長い廊下を歩いていく姿を延々と撮るオープニングなのですが、
そこでタイトル・クレジットを映しながら、バックで流れるのがボビー・ウーマックが実にイカしている。
(流れる主題歌『Across 110th Street』(110番街交差点)がメチャクチャ、カッコ良い!)

たぶん、エルモア・レナードの原作は別にブラックスプロイテーションへのリスペクトがある
内容というわけでもないでしょうが、その原作にタランティーノが個人的に敬愛するパム・グリアーへの
熱い想いを、半ば無理矢理にでる融合するという発想を実現したことが、素直にスゴいとしか言いようがありません。

その他にもクルセイダーズ≠フ『Street Life』(ストリート・ライフ)など、
ブラックスプロイテーションが好きな方々には、この映画のサントラもたまらないでしょうね。

さて、映画の出来やインパクトはそこまでではないとは思うけれども、
タランティーノの良さを生かしながら、彼自身が実に楽しそうに愛情をもって映画を撮ったことが
ダイレクトに伝わってくる好編であると言っていいと思います。なかなかこういう映画も撮れないでしょう。

どうやらパム・グリアーに『パルプ・フィクション』に出演して欲しかったみたいですが、
彼女に似合う役柄を用意することができず泣く泣く断念し、その代わりにヒロインを受けてもらえるように、
最初っからパム・グリアーを意識してシナリオを書いたというから、タランティーノの強い意気込みが分かりますね。

(上映時間154分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 クエンティン・タランティーノ
製作 ローレンス・ベンダー
原作 エルモア・レナード
脚本 クエンティン・タランティーノ
撮影 ギレルモ・ナヴァロ
編集 サリー・メンケ
出演 パム・グリアー
   サミュエル・L・ジャクソン
   ロバート・フォスター
   ブリジット・フォンダ
   マイケル・キートン
   ロバート・デ・ニーロ
   マイケル・ボーウェン
   クリス・タッカー
   リサ・ゲイ・ハミルトン

1997年度アカデミー助演男優賞(ロバート・フォスター) ノミネート
1997年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演男優賞(ロバート・フォスター) 受賞
1997年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演女優賞(パム・グリアー) 受賞
1998年度ベルリン国際映画祭男優賞(サミュエル・L・ジャクソン) 受賞