パパは雪だるま/ジャック・フロスト(1998年アメリカ)

Jack Frost

これは意外や、意外。素直に白状すると、これは感動した!

愛する家族を残したまま、クリスマスの夜に事故死したロック・ミュージシャンのパパが、
雪だるまとなって、愛する家族の下へと帰ってくるというファンタジックなファミリー映画。

ILMが担当した特撮もとても上手く出来ており、
ありがちなファミリー映画と思っていると、なかなか良く出来ていて驚かされると思いますね。
日本劇場未公開作という扱いの悪さなのですが、それは全く勿体ない話しですね。
映画の冒頭のライブシーンなども迫力があり、実に力の入った映画である。

主演のマイケル・キートンと彼の妻を演じたケリー・プレストンの息の合ったコンビも悪くなく、
彼らの息子役を演じたジョセフ・クロスもどことなく光り輝くものを感じさせる存在感だ。
彼は本作がスクリーン・デビュー作となりましたが、昨今もハリウッドで活躍しているそうで、
ひょっとしたら本作は今後、貴重な映画となっていくのかもしれません。

事故死した父親が1年後のクリスマスに雪だるまとなって現れるという設定が面白い。
雪だるまということは気温が高くなると溶けてしまうわけで、奇跡は永遠に続かないという、
不変のテーマを常に意識させながら映画を展開させているあたりは、実にクレバーな選択でしたね。

トロイ・ミラーというディレクターについては深く知りませんが、
この映画を観る限りでは、ひじょうにバランス感覚の良い映像作家ですね。
分かり易く言えば、映画撮影に際して映画の全体像を常に見据えながら、上手く撮れているということ。
このタイプの映画って、予定調和的になり過ぎたり、意図的に破綻させたりして、
映画のオチを付けようとしちゃうことがあるんだけれども、この映画はそうはなっていないですね。

まぁトロイ・ミラーがデキる映画監督なのか否かはともかく、
ここまで全体のバランスのとれた映画を撮るということは、決して容易なことではないと思うんです。
ましてやマーケッティングの段階では、明らかにファミリー向け映画という位置づけがあったでしょうからね。
そういったある一定の制約がある中で、こういったバランスの良い映画を撮れてることに感心しますね。

まぁ本作のラストは多くの方が容易に想像できる内容だと思うのですが、
この映画の場合は、「分かっていても泣けてしまう」...そんなタイプの映画と言えます。

こういうタイプの映画を出会うたびに実感しますね。
映画は闇雲に、奇をてらったことを描けばいいってもんじゃないってことを。
90年代後半に入ると、脚本偏重型の映画の評価が浸透してきたあたりから、
僕はこの奇をてらうという点については、大きく危惧していましたから、本作のような映画を余計に大事にします。

主演のマイケル・キートンは登場時間約30分という寂しい扱いですが、
それでも映画の最初っから、飛ばし気味にキャラを作って演じているだけに、存在感は抜群ですね。
まぁこれで良かった思いますね。本作においては、間違いなく父親の存在感の強さが必要だったわけですから。

最近はこういうファミリー映画が少なくなってきた感があって寂しいですね。
本作なんかはバランスも良くて、映画として訴求力を強く持っていて好感が持てるだけに、
この過小評価とも言える扱いの悪さが残念でなりません。是非とも劇場公開はしてあげて欲しかった。

幸せの絶頂で事故死し、家族を残したまま先立ったものの、
愛する息子や妻、そして友人たちへ多くのメッセージを伝え忘れたままだったことへの後悔。
主人公のジャックは限られた時間の中で、その埋め合わせをするために雪だるまとなって戻ってきます。
そこで彼は次第に道を誤りつつあった息子に接触し、彼の想いや懺悔の気持ちを息子に伝えます。
気温が高く、ツラいということが明白な中で、どうしても見て欲しかったホッケーの試合に向かう朝、
息子が雪だるまに言います、「無理しなくていいからね」。ホントに泣けてきます、こんな難しい状況なんて。。。

僕は欧米で冬を越えたことがありませんので、詳細は分かりませんが、
こういう映画を観るたびに感じるのは、クリスマスへの認識の違いですね。
日本では既に“プレゼントをもらう日”というイメージが強いですが、本来的には違う意味があるだろう。
欧米なんかは家族ができるだけ一緒にいる日という意味合いが強く感じるし、ホームカミング的な感じだろう。
少なくとも日本のクリスマス像とは大きくかけ離れたもののように感じますね。

日本でも某ファストフード・チェーンのように、ホーム・クリスマスをキャンペーンするような向きもありますが、
反対にクリスマスは外出するというのが習慣化している人も多いかとは思います。
(もっとも、日本のクリスマスは平日だから夜まで仕事って人も少なくはないと思うけど・・・)

まぁ広く言えば、異文化におけるクリスマスの意味を知るということで、貴重な映画とも言えます。

ともあれ、幾多の凡作が誕生する映画界の中で、
コテコテのファミリー映画がここまでのバランス感覚を持って、成立した作品はそう多くありません。
できるだけ多くの方々に観て頂きたい好編と言っていいぐらいの秀作です。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 トロイ・ミラー
製作 アービング・アゾフ
    マーク・キャントン
脚本 マーク・スティーブン・ジョンソン
    スティーブン・ブルーム
    ジョナサン・ロバーツ
    ジェフ・セサリオ
撮影 ラズロ・コバックス
特撮 ILM
音楽 トレバー・ラビン
出演 マイケル・キートン
    ケリー・プレストン
    ジョセフ・クロス
    ヘンリー・ロリンズ
    アーメット・ザッパ