ジャックとジル(2011年アメリカ)

Jack And Jill

これ、よくアル・パチーノが引き受けましたねぇ(笑)。

舞台劇俳優としての歴史を持つベテラン俳優のアル・パチーノが、
セルフ・パロディというか、自分自身の役として出演したアダム・サンドラーお得意のコメディ映画。

ロサンゼルスでCMディレクターとして活躍するジャックは、豪勢な邸宅を構えて、
妻と2人の子供との日々を忙しく生きてきたものの、感謝祭が近づくにつれて憂鬱になっていきます。
それは、ジャックの双子の妹ジルがニューヨークからやって来ることで、孤独に一人で暮らすジルのお騒がせな
性格に手を焼くジャックは、なんとか感謝祭をやり過ごそうとしますが、ジルは長居する様子でジャックは苛立ちます。

一方でCMディレクターとしての仕事で、大口顧客であるダンキン・ドーナツからの依頼で
実力派俳優アル・パチーノの名前をもじった新商品“ダンカチーノ”を発売するためにCMにキャスティングしろと
厳しい課題を与えられ、なんとかバスケットボールの試合にお忍びで来るアル・パチーノの接近しようとします・・・。

ここで、何故かアル・パチーノがジルに“運命の女性”であると、
やたらと彼女に執着して、ジャックが戸惑うという無理矢理なストーリー展開になるのですが、
そもそもコメディ映画に出演することが珍しいアル・パチーノが出演したことと、よりによってこのような自虐的な
キャラクターを嬉々として演じるなんて、以前のアル・パチーノだったら考えられない仕事ぶりだったと思います。

まぁ、これはアダム・サンドラーの人気にあやかったというか、
アダム・サンドラー自身が製作を兼務した企画ですから、アダム・サンドラーの趣味のような映画ではありますが、
ジョニー・デップやジョン・マッケンローなどのゲスト出演の面々もスゴいですね。これもアダム・サンドラーの人脈かな。

残念ながら、この映画はヒットせずに全く支持されなかったようですが、
正直言って、僕はアル・パチーノのファンとして、この映画が大好きです(笑)。コメディとしてはイマイチですが。
何度観ても、映画のラストシーンにある“ダンカチーノ”のCMで歌って踊るアル・パチーノは貴重な映像です。
だからこそ、彼自身、「あと2秒カットします」と言われて、「誰にも見せてはならん」とコメントしたのかもしれませんが。

舞台劇を演じている最中に、観客席で携帯電話のコールが鳴ってブチギレた姿を、
客席から動画で撮られ、Youtubeにアップされる姿を自ら演じたり、出演を予定している『ラ・マンチャの男』の
コスチュームそのままにバーに来て、ジルに進言するなど謎のコミカル演技でアル・パチーノも大奮闘(笑)。

いずれにしても、賛否はあると思うが、これはアル・パチーノのファンなら必見の作品だと思う。
こういうコミカルな芝居も出来るというのは当然ですが、ここまで見事にセルフ・パロディをしてしまうとは驚きでした。

まぁ・・・アダム・サンドラーの独特な笑いのセンスが吹き込まれた映画ですので、
日本人の感覚からいくと、よく分からない笑いもあることは否定できない。正直、アメリカの人にしか分からない
ギャグもあったりして、相変わらずのアダム・サンドラーの調子で進む映画という印象はあるのですが、
それでもジャックとジルの一人二役で、メイクを駆使して奮闘しただけあって、本作のアダム・サンドラーはスゴい。
やはり、ロビン・ウィリアムス亡き今は、こういう仕事が出来るのはハリウッドでもアダム・サンドラーくらいでしょう。

この映画を観ていると、不思議とキワものに見えていたジルが段々、可愛らしく見えてくる(笑)。
これこそがアダム・サンドラーの狙いなのだろうけど、彼女のキャラクターにどことなく彼のヒューマニズムを感じる。

でもさぁ!(笑)
やっぱり、そういったハートウォーミングなところがありながらも、映画の最後に“ダンカチーノ”はズルいよ(笑)。
あれをラストに持って来ちゃうと、どうしてもこの映画の印象って、“ダンカチーノ”になっちゃうよ〜!
ってなわけで、凸凹な兄妹が織り成す家族愛を主題としながらも、アル・パチーノの怪演に全てを奪われた映画だ。
この辺は作り手の狙い通りなのかもしれないけど、僕は「ホントにこれで良かったのだろうか・・・」と思えてならない。

必ずしも、アル・パチーノのファンだけが観る映画ってわけじゃないですからねぇ・・・。
個人的には映画全体のことを考えると、もっと違う終わり方に編集した方が良かったと思うんですよね。

とは言え、個人的にはラジー賞(ゴールデン・ラズベリー賞)を総なめするほど酷い出来の映画だとは思わない。
アダム・サンドラーにとっては、半ば“お約束の”受賞なのかもしれませんが、もっと酷い映画はたくさんあります。
まぁ・・・アダム・サンドラーの二役には賛否が分かれそうですけど、でも、本作はこうでなくっちゃ成り立たない。

この映画に内包されたメッセージは、過剰なルッキズムに対する牽制でもあるような気がしますけど、
この辺の教訓的な説教臭さは、アダム・サンドラーの描くシナリオには反映されがちなので、
それ自体をギャグにしてしまって、観客に考えさせるというのは、アダム・サンドラーの映画のセオリーに感じる。

個人的には、もう少しこの説教臭さに関しては、抑制して作って欲しかったんだけれども。。。

それにしても、この映画のスゴいところは、
実際にダンキン・ドーナツが“ダンカチーノ”という商品名でカプチーノを発売したことだ(笑)。
さすがに映画のラストで流れる、「あのCM」は使われなかったようですが、でも実際に商品化したというのはスゴい。
(できることなら、「あのCM」を実際に使って全米に大々的に宣伝して欲しかったところだが・・・)

ダンキン・ドーナツはアメリカにはいっぱいある大手ドーナツ・チェーンで、
日本でもかつてフランチャイズで出店していましたが、諸事情により日本国内を撤退。
残されているのは、米軍基地内のみとのことで今の日本では味わうことができないと言っても過言ではありません。

よくよく調べてみると“ダンカチーノ”、ダンキン・ドーナツが販売するドリンクの中では、
結構な人気商品のようで、スパイシーなホットチョコレートとのことですね。一度冬に、飲んでみたい・・・。

結果として、酷評されてしまった作品になったので、ダンキン・ドーナツとしてもタイアップした
契約があったのかもしれませんが、“ダンカチーノ”が未だ続く人気商品になるとは予想していなかったかもしれません。
これだけでも、アル・パチーノが踊り踊った功績はあったのかも。他に探しても、あんなシーン、無いですからねぇ(笑)。

監督のデニス・デューガンは99年の『ビッグ・ダディ』からアダム・サンドラーと何度も組んでいますが、
元々、コメディ映画を専門的に活動していて、彼の持ち味がよく分かった仕事ぶりで安定感がある。
映画のテンポもそこそこ良くって、こういうディレクターにアル・パチーノを使わせると、こうなるんだと学びました(笑)。

ちなみに82年の『トッツィー』は、ダスティン・ホフマンが女装するコメディ映画でしたが、
本作のアダム・サンドラーは女装というより、映画の大半は女性役として出演している。彼の女装自体は、
女性にとても近いとは言い難いし、女性的な仕草を追求したものとは言い難いので、これは賛否が分かれるでしょう。
この辺は本作のギャグで笑えるか、笑えないかのターニング・ポイントのような気がする。ジルは映画のベースですから。

彼の女装芝居も含めてギャグと言えばギャグなんだけど、それならば無理にジルという妹をたてずに、
『トッツィー』のように、諸事情により女装せざるをえなくなった双子の兄弟という設定でも良かった気もしますけどね。

アイデアの良さ、アル・パチーノを本人役でキャスティングできたことが大きかったけれども、
映画の内容に賛否が分かれ易いのは、やはりアダム・サンドラーの芸風というか、ギャグ自体にあるのかもしれません。
まぁ、00年代前半まではハリウッドでも勢いのあったアダム・サンドラーですが、以降の出演作はキビしいですからね。

とは言え、僕はそこそこ満足できましたし、ラジー賞を総なめするほど悪い出来ではないと思いますがねぇ。。。

(上映時間90分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 デニス・デューガン
製作 アダム・サンドラー
   ジャック・ジャラプト
   トッド・ガーナー
原案 ベン・ズーク
脚本 スティーブ・コーレン
   アダム・サンドラー
撮影 ディーン・カンディ
編集 トム・コステイン
音楽 ルパート・グレグソン=ウィリアムズ
   ワディ・ワクテル
出演 アダム・サンドラー
   ケイティ・ホームズ
   アル・パチーノ
   エウヘニオ・デルベス
   デビッド・スペード
   ニック・スウォードソン
   ロブ・シュナイダー
   ティム・メドウス
   アレン・コヴァート
   ダナ・カーヴィ
   ジョン・マッケンロー
   ビリー・フランクス
   ジョニー・デップ

2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 受賞
2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(アダム・サンドラー) 受賞
2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(アダム・サンドラー) 受賞
2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(アル・パチーノ、ニック・スウォードソン) 受賞
2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演女優賞(デビッド・スペード、ケイティ・ホームズ) 受賞
2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(デニス・デューガン) 受賞
2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(スティーブ・コーレン、アダム・サンドラー) 受賞
2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(アダム・サンドラー、アル・パチーノ、ケイティ・ホームズ) 受賞
2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・アンサンブル演技賞 受賞
2011年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト前編・リメーク・盗作・続編賞 受賞