グロムバーグ家の人々(2003年アメリカ)

It Runs In The Family

あくまで映画という枠組みの中での話しになりますが...
ハリウッドを代表する親子スター、カーク・ダグラスとマイケル・ダグラスが初共演した
一見、裕福な家庭ながらも、徐々に内部崩壊が進んでいく様子を描いたヒューマン・ドラマ。

99年に『アメリカン・ビューティー』が大ヒットしただけに、
現代アメリカの家庭像を辛らつなタッチで描いたのかと思いきや、本作はかなりマイルドな内容。

異例なまでにダグラス一家総出の映画となりましたが、
それだけ、何故かマイケル・ダグラスの本作に対する意気込みが強かったのでしょうね。
製作にも直接的に関与したらしく、彼がどうしても実現させたかった企画だったのでしょう。

確かに本作、当たり障りのない無難な出来と言われればそれまでですが、
目立った綻びも無く、ソツなく上手く崩壊から再生までを描いており、
日本劇場未公開という不遇の扱いを受けてしまった作品としては、極めてレヴェルの高い作品だと思います。
そもそもがシナリオ自体が良く書けていて、それだけでも十分に映画を引っ張ることができています。

いや、だけどホントはカーク・ダグラスをスクリーンに引っ張り出したことに価値があるんですよ。
かなり思い切ったことを言うと、マイケル・ダグラスのホントの目的は“そこ”にあったのではないかと思えます。

あと、比較的、小さな役ではありましたが、
主人公の息子アシャーのガールフレンドとして、ミシェル・モナハンが出ているのにも注目。
彼女は最近は『イーグル・アイ』や『近距離恋愛』で準主役級の役にキャストされるようになりましたが、
本作に出演していた頃はまだ映画に出たての頃で、まだブレイクする前ですからね。
(確かに本作での彼女はチョット観客の目を引く存在感でした...)

約10年ぶりに映画に出演したカーク・ダグラスですが、
本作撮影当時の年齢はなんと86歳。劇中、ジョギング・シーンがあるのですが、ヒヤヒヤものですね(苦笑)。
そして彼の妻、つまり主人公の母親役で出演しているのは、ダイアナ・ダグラスで彼女も80歳でした。
驚いたことに彼女は、マイケル・ダグラスの実の母親なのですが、43年にカーク・ダグラスと結婚し、
54年に2人は離婚してるんですね。よくもまぁ・・・ダイアナ・ダグラスも本作に協力したものです。

監督はフレッド・スケピシで、経験豊かなディレクターなのですが、
一切冒険しない無難な演出で、これは突飛な演出で映画を壊したくないという意図があるのかもしれません。

そういう意味で功を奏していると言えるのは、
極端な出来事を起こすことによって、グロムバーグ家の崩壊を表現するのではなく、
小さな出来事の積み重ねが、徐々に家族をバラバラにしていく様子を克明に描けている点ですね。

主人公のアレックスは一時の心の揺れ動きで、不倫に気持ちが傾いてしまった過去に苦しみ、
更に畳み掛けるように次から次へと舞い込む、仕事の電話や家族の問題に頭を悩まします。
彼の妻レベッカは、アレックスの不倫疑惑に悩み、2人の息子の養育にも頭を悩まします。
アレックスの父マイケルは施設に入所している兄や、自身の肉体の衰え、時代の変化との間で葛藤している。

アレックスの2人の息子たちも、それぞれに精神的な悩みを抱えており、
これらを群像劇のようにクロスオーヴァーさせながら描くことにより、見事なアンサンブルを演出している。
こういう仕事こそ、ホントは難しく、もっと高く評価されるべきだと僕は思うんですがねぇ。

但し、この映画でアレックスの息子アシャーを演じたキャメロン・ダグラスに関して、
皮肉な後日談があって、実は彼、99年と07年と09年に3回にわたって私生活で逮捕されています。
容疑は麻薬取引とコカイン所持とのことで、実はこの映画で彼が演じた通りのことが現実になっています。

この事実にはマイケル・ダグラスもそうとうにショックだったようで、
さすがに現実は「知らなかったんだ...」と泣きながら懇願しても、許してはもらえなかったようですね。

実際、キャメロン・ダグラスは2回目の逮捕の容疑に於いては、
かなり重たい量刑となることが予想されると報じられており、どうやら3代目のスターとはならない模様です。
この映画を観る限り、父親のマイケルや祖父のカークとはあんまり似たルックスではないのですが、
どちらかと言えば甘いマスクで、上手くプロデュースすれば売れそうだっただけに残念でなりませんね。
やはり、こういうスターの一家に生まれた場合って、常にスキャンダルと隣り合わせなんですね。。。

どうせならアレックスの妻役でキャサリンゼタ=ジョーンズを出せば良かったのに・・・とは思いますが、
さすがに20歳過ぎた息子がいるという設定で彼女を出演させるというのは、気が引けたのかな...(笑)。

まぁ映画の企画を実現させる当初の目的は、
カーク・ダグラスをスクリーンの世界に戻すことにあったのかもしれませんが、
結果的にそれだけで映画が終わらなかったところは流石ですね。
この辺はハリウッドのプロダクションの底力といった感じで、映画のツボを押さえてあります。

ただ、この映画で物足りないと感じる部分は映画のラストのあり方だ。
個人的にはもっと強く訴求するような“何か”が欲しいと思うし、あまりにアッサリ終わらせ過ぎたと思う。

パーフェクトというわけではないにしろ、家族の問題は徐々に解消されつつある状態の中で、
彼らが何を経験して、何を教訓として得たのか、もっとハッキリと“家族の証し”として浮き彫りにして欲しい。
敢えて抽象的なラストを選択したのでしょうが、僕はもっと力強く描くべきだったと思いますね。

さりとて、まずまず見応えのあるヒューマン・ドラマとして、軽く及第点を超えたのは素直に嬉しい一本ですね。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 フレッド・スケピシ
製作 マイケル・ダグラス
脚本 ジェシー・ウィグトウ
撮影 イアン・ベイカー
音楽 ポール・グラボウスキー
出演 マイケル・ダグラス
    カーク・ダグラス
    ダイアナ・ダグラス
    キャメロン・ダグラス
    バーナデット・ピータース
    ロリー・カルキン
    ミシェル・モナハン