あなたに降る夢(1994年アメリカ)

It Could Happen To You

アクション・スターとしてブレイクする前のニコラス・ケイジがニューヨークで一番のお人好し警官に扮し、
立ち寄ったカフェのウェートレスにチップを渡す小銭が無かったために、たまたま買っていた宝くじの当選金を
チップ代わりに半分渡すと、彼の妻には言わずに約束したことから始まる騒動を描いた、ロマンチック・コメディ。

監督は脚本家出身のアンドリュー・バーグマンで、映画の出来はスゴく良いと思います。

製作当時は、どちらかと言えば、ニコラス・ケイジよりもヒロインを演じたブリジット・フォンダの方が
知名度の高い役者だったと思うのですが、ブリジット・フォンダもとっても良い感じで輝いていると言っていい。
90年代後半以降は低迷してしまいましたが、僕が思うに本作は彼女が最も輝いていた出演作品だと思います。

大幅に脚色されているとのことですが、本作は実話をモデルに映画化したというわけで、
現実に起こったことは、ピザ屋のウェートレスがチップ代わりに店に立ち寄った警官から、宝くじの数字を選んで
もし当選したら賞金を均等割りしようと提案され、実際に高額当選して山分けしたエピソードが下地になっている。

映画で描かれるのは、主人公の警官とウェートレスが宝くじの当選金の山分けを約束して、
実際に当選してしまうと、狂喜する妻に「実は・・・」と打ち明けることから映画が大きく動き始めて、
自らのイメージアップのために生活苦にあえぐウェートレスと山分けすることを渋々承諾するものの、
財テクに熱心な妻に嫌気が差した警官が、次第にウェートレスと距離が近づいてロマンスに発展してしまう過程です。

まぁ・・・普通に考えると、これはこれで主人公は離婚していないので、
言わば不倫なわけですが、展開としては御伽噺のように描かれる。この財テクに熱心になる妻役として、
キャスティングされたロージー・ペレスが絶妙に巧い。これだけ豹変すると、さすがに夫とは言え看過できないだろう。
しかし、ニコラス・ケイジ演じるチャーリーはお人好しなのが仇(あだ)となって、妻にも何も言えないのがもどかしい。

出会ったタイミングの問題もあったのかもしれませんが、
チャーリーにしたら、そりゃブリジット・フォンダ演じるウェートレスの方が良く見えてしまうでしょうね。

不倫ではありますが、この映画は上手い具合にオブラートに包んで撮っているような感じで、
ドロドロとした愛憎劇として描くことなく、どことなく舞台劇のような雰囲気でサラリと見せてしまうので、観易い。
映画自体はあくまでロマンチック・コメディなので、あまり深刻な雰囲気にならずに裁判を描いたのは賢かったと思う。

また、この映画のブリジット・フォンダは男心くすぐるところありますね。
映画の序盤でもイライラする様子を表現しますが、メガネを額につけたままメガネを探す仕草もカワイイし、
嫌味にならない程度に純真な姿を見せるのも良い。この手の映画で光り輝くための要素を、見事に兼ね備えている。

対するロージー・ペレスも上手く、引き立てているのは確か。
嫌われ役をかって出たに近いですが、これだけケバケバしく徹底して演じることができるのはスゴいと思う。
本作のロージー・ペレスはもっと評価されていいと思いますね。欲を言えば、最後も彼女はしっかり描いて欲しかった。
(シーモア・カッセル演じる投資家のアヤしいオッサンとの“その後”をナレーションで語るだけというのは寂しい・・・)

チャーリーの妻は金銭への執着がスゴいですけど、毛皮を欲しがったりとどこか成金趣味。
デパートで買った毛皮を羽織っているからと言って、デパートを出てきたらすぐに動物愛護団体が支援する
活動家にいきなりペンキをぶっかけられるなんて、時代ですね(苦笑)。今だったら考えられない、暴行罪ですよ。

まぁ、この妻も悪いことをしたというわけではないので、もう少し報われるところがあっても良かったかな。

ハートウォーミングな映画ですので、悪い気にはさせられないことが大事ですが、
本作はそのギリギリのところで頑張った感じで、この辺の塩梅加減はアンドリュー・バーグマンが上手かったですね。
あまりドタバタしたコメディ映画というわけでもなく、落ち着いて観れるあたりも実に丁度いいバランス感覚である。

ちなみに映画の冒頭からストーリーテラーとなる黒人男性を演じたのがアイザック・ヘイズ。
Theme From Shaft(黒いジャガーのテーマ)などで知られるミュージシャンですが、俳優でもありました。
残念ながら08年に他界してしまいましたが、本作では結構印象に残る役どころで、良い仕事していましたね。

正直に生きる者は救われるということを描いた映画ではありますが、
そんな主人公カップルを見守るように登場してくるので、奇跡を起こすトリガーとなる存在のように描かれる。

一般にラブコメは女性向け映画のような扱いを受けがちですが、本作は女性向けというわけではないと思います。
「お金で幸せを買うことはできない」と論じているようで、高額当選者になったチャーリーにしても人生の選択を迫られ、
それでも自分を貫くことでブリジット・フォンダ演じるイヴォンヌと出会い、新たなロマンスへと発展していきます。
こういった展開を上手くコミカルに描けており、一概に女性向け映画として切り捨ててしまうのは勿体ないと思う。

いくらチャーリーがお人好しとは言え、高額当選者となってイヴォンヌとの約束を
守らなきゃと苦悩して、自分を貫くという決断はなかなか下せるものではないです。モデルとしてエピソードにしても、
この約束を守ったというところがミソで、結局は普通だったら黙ってやり過ごそうとするところを、
それでも人道的な決断を貫き通すことの尊さが、映画化するスト−リーとして魅力的なところなのでしょう。

あまり語られていませんが、本作はキャレブ・デシャネルのカメラが温かくて素晴らしい。
少しボヤッとする質感なのですが、特に夜の屋外撮影のシーンは良いですね。もっと評価されて欲しかったですね。

現代に起こる奇跡という観点では、本作はまるでフランク・キャプラが撮るような映画に思える。
フランク・キャプラなら、韓国人が経営する店に強盗が入って、チャーリーが取り押さえるシーンは
撮らないかもしれませんが、あれはあれでお人好しで正義感が強いながらも、痛みに弱いという弱々しさを描いている。
アクション・スターとしてのニコラス・ケイジとは相反するキャラクターですが、彼はこういう役を演じさせても上手いですね。

そういう意味では、魅力的かつ機能的なキャスティングが実現した時点で、
本作は成功が約束されたようなものでしたが、コメディ・パートとロマンスの配分も絶妙なバランスを保ち、
温もり溢れる素晴らしいカメラを武器に、アンドリュー・バーグマンは実に素晴らしい作品に仕上げましたね。

残念ながら日本ではあまりヒットしなかったせいか、知名度が高くはない作品ですが、
個人的には90年代に製作されたラブコメというジャンルで見ても、有数の傑作ではないかと思っています。

03年に映画音楽家のダニー・エルフマンと結婚してからは、女優業から引退したブリジット・フォンダですが、
90年代前半は数多くの作品に出演しており、93年の『アサシン −暗・殺・者−』で初めてアクション映画の
ヒロインとして主演に抜擢されて、着実にキャリアを積み上げていた頃なだけに、本作でも生き生きしていて良いですね。
本作は彼女の魅力をフルに生かすことにスタッフも全集中したような映画で、見事にそれが結実していますね。

まぁ、お金はあることに越したことはないと僕は思うけれども、
この映画で描かれたチャーリーの気持ちもよく分かって、億万長者の道を歩むことになって
マスコミから注目される存在になって、周囲の目線も「どうせ金あるんだろ・・・」みたいな感じなると、
なかなか元の平凡な生活を過ごせなくなり、チャーリーの性格から言って、金持ちライフは性根に合わない。

近所の子たちと路上で野球をやるような日々が懐かしく思えるようになり、
ついついお金を近所の子たちに遣ってしまう。この行為自体に賛否はあるとは思うけれども、
言ってしまえば、他人のお金の遣い方にとやかく言う資格は誰にもないわけで、これがチャーリーの生き方なのだろう。

そういう意味で、本作は人生にとって何が大切なのかを静かに語りかけているような映画でもある。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 アンドリュー・バーグマン
製作 マイク・ロベル
脚本 ジェーン・アンダーソン
撮影 キャレブ・デシャネル
音楽 カーター・バーウェル
出演 ニコラス・ケイジ
   ブリジット・フォンダ
   ロージー・ペレス
   ウェンデル・ピアース
   アイザック・ヘイズ
   シーモア・カッセル
   スタンリー・トゥッチ
   レット・バトンズ
   リチャード・ジェンキンス