アイアンマン2(2010年アメリカ)

Iron Man 2

世界的に大ヒットしたマーベル・コミック原作の第1作に続いて、
再びメガヒットを記録した人気シリーズの第2弾で、主演のロバート・ダウニーJrは変わっていませんが、
軍人のローズ役が前作のテレンス・ハワードから、本作では『クラッシュ』のドン・チードルに交代している。

正直、映画の前半はこの内容、どうかなぁと思っていたのだけれども、
後半に差し掛かると、エンジンがかかったようにそこそこ面白くなってきて、安心しました(笑)。

映画の前半で主人公トニーの父親に対して恨みを持つイワン役でミッキー・ロークが出演していて、
イワンがトニーの“アイアンマン”のスーツに対抗心を燃やして、謎のモービル・スーツを開発して、
モナコのサーキット場で暴れ回る姿に、どこかギャグっぽさを感じてしまいましたが、イワンの目的がハッキリとして、
ドローン仕様のロボットをハッキングして、トニーに集中砲火的に攻撃を仕掛けるあたりから、面白くなっていきました。

監督は前作から変わらずジョン・ファブローですが、さすがにこの続編は難しかったでしょうね。
前作のメガヒット自体がプレッシャーになったでしょうけど、アクションよりもストーリーに注力したような内容に
シフトしているせいか、映画に対するアプローチ自体が前作からかなり大きく変わったような印象がありました。

決して前作も、ストーリーがどうでも良かったというわけではなかったと思いますが、
破天荒なアクション自体は前作と比較して、かなり少なくなり、トニーが社長業から下りて、
秘書だったペッパー会社の社長に就任したり、トニーとペッパーの恋愛など、サイド・ストーリーのウェイトが高い。

そう、前作では半ば添え物のような扱いに近かったグウィネス・パルトロウの持ち時間がかなり増えましたね。

トニーとペッパーの恋愛については、第1作でも微妙な関係を“匂わせる”演出でしたが、
本作では2人のロマンスが明確に描かれていて、第1作からは一歩踏み込んだ描き方をしている。
この辺はハッキリと描くことに賛否はあると思いますが、シリーズ化にあたって避けては通れないことだったのかも。

まぁ・・・こうしないと、映画のシリーズ化は難しいという側面もあるのでしょうね。
原作通りに描いてはいるのでしょうが、前作がヒットした原動力であったはずのアクションのウェイトが減り、
ドラマ部分のウェイトが高くなると、映画の印象が大きく変わってしまいますね。この辺は賛否があるかもしれません。

モナコのサーキット場でイワンが暴れ回るシーンでは、まるでヘビのように電磁ムチのようなものを振り回し、
突然襲われたトニーも対抗しようとしますが、思った以上にアッサリと捕まってしまうのが勿体ない。

マーベル・コミックの同一世界観の映画シリーズの系譜として、
『マイティ・ソー』とか『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』、『アベンジャーズ』、『アントマン』などが
次々と製作されて大ヒットとなりましたが、こうして続くキッカケを作ったのが『アイアンマン』シリーズですからね。
そのフォーマットを作り上げたジョン・ファブローの手腕は流石だし、前作のラストで“アベンジャーズ”の存在を
匂わせたことも、この第2作を踏み台として更にブラッシュ・アップする内容となっていて、新キャラクターに注目だ。

特に本作ではスカーレット・ヨハンソン演じるブラック・ウィドウは大きな話題となりましたが、
クール・ビューティーなイメージを生かして、映画のアクセントとして機能して、後々に彼女が主演の映画もできました。

車の中でお着替えし始めるなど、サービスかよとツッコミの一つでも入れたくなるような
シーンがありますが、確かに彼女のアクション・シーンとしての見せ場はほぼ無かったので、もっと観たかった。
そこを埋め合わせるようにスピンオフ企画が立ち上がったのでしょうが、さすがはハリウッド、商魂たくましいですね(笑)。

主人公のトニーは前作では、どちらかと言えば、スーツの開発者として自らが着用して
相手と闘うためにトレーニングを積み重ねるというキャラクターでしたが、本作では科学者としての側面は
ほぼ強調されずに、あくまでスーツを着て縦横無尽に闘う戦士としてのみ描かれており、少しイメージが変わったかな。

この辺は賛否が分かれるところでしょう。前作の魅力の一つとして、トニーの開発者としての苦悩があって、
“アイアンマン”の良さ、利用価値を正しく理解してもらうことの難しさを描いているという側面もあることでしたから。

この変容はシリーズとして継続させる上での宿命でもあったと思うのですが、
第1作のファンに如何に違和感なく受け入れてもらえるかがポイントとなるわけで、この塩梅がとても難しいですね。
実際、本作の場合は僕は第2作以降でも、トニーの科学者としての想いを映画の中身に反映させるべきだったと思うし、
ただ単にスーツを着て超人的な闘いをするだけというのであれば、他の映画との差別化は図れないと思いますね。
なんせ、ロバート・ダウニーJrという中年のオッサンを主人公とした映画なのですから、他とは違うものを示して欲しい。

これはトニーが新しい元素を発見しない限り、“アイアンマン”を続ける限り体に毒素が溜まるという
妙な現象に悩まされるエピソードなんか、もっと新しい元素を発見するに至る苦労を描けば、印象は変わったと思う。
実際、新しい元素を発見する歴史的な出来事なんて、あんな3Dホログラフみたいなのを触っているだけで
発見できるものでもなく、地味で何度も同じことを反復して、いろんなミクロな側面をかき集めて証明しなければならず、
本作でそこまで描けとは言わずとも、科学者としての苦労を僅かながらでも劇中で描けば、映画は変わったでしょう。

前作の畳みかけるアクションや、トニーというキャラクターの掘り下げ方を比較すると、
本作は悪くはないが、どこか物足りないというか、シリーズものの難しさを感じずにはいられない内容だと思う。
実際、本作も世界的大ヒットにはなりましたが、監督のジョン・ファブローは本作をもって降板しました。

ミッキー・ローク演じるイワンも強面で強そうなのに、トニーとの直接対決に乏しいのが残念。
これでは映画が盛り上がるはずがない。この2人はCGでもなんでもいいから、何度も派手にぶつかり合うべきでした。
こういうところを観ると、多くの観客が観たいものと、作り手のビジョンが今一つマッチしていない作品という気もします。

そういう意味では、トニーのライバルであるハマーを演じたサム・ロックウェルも
もっと嫌らしい役柄を期待していたのに、映画の最後の最後までしっかりトニーに絡んでこないし物足りない。
これらを補完するものが映画の中に無かったことが心残りで、やはり大きな収穫はブラック・ウィドウぐらいかもしれない。

ハマーはもっと強敵感をださなきゃ、映画が盛り上がらないですよね。
イワンを目立たせるために、意図的にハマーを前に出さないように描いたような気もするのですが、
一緒になってスーツ着て戦えとまでは言わずとも、もっと往生際の悪いところを見せるとか、
何かしらのインパクトが欲しかったし、少なくとも前作のジェフ・ブリッジスくらいの存在感は出して欲しかったなぁ。

まぁ・・・やっぱり、続編は難しいなぁと感じた一本ではありますね。
単純に比較すると、第1作のパワーは落ちてしまったかなぁ。マーベル・コミックのファンなら楽しめるんだろうけど、
特にファンでもない方々からすると、ただひたすらコミックの世界観だけで押し通すので、ノレないかもしれません。

第1作のときは目新しさもあったけど、シリーズ化された第2作ともなると、もう見方が厳しくなるでしょうしね。

ところで、映画の前半に風邪をひいているペッパーに「マスクしたらどうだい?」と
トニーが言うシーンがありますが、コロナ禍以前の欧米の方々の感覚からすると、極めて異例な台詞に感じます。
マスクに関する議論は、日本でも未だに多くなされていますが、欧米ではあまり無い習慣ですからね。

かつて、病院をテーマに描いた映画というのも数多くありましたけど、
マスクを着用するといったら、手術のシーンくらいなもので、ほとんど見られなかったですからね。
この台詞で、トニーの潔癖なところを表現でもしたかったのでしょうかね。まぁ、映画の本筋に関係ないところですが。

あと、もう一つ言いたいのは...この内容ならば、あと15分くらいは短くまとめて欲しい。

(上映時間124分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジョン・ファブロー
製作 ケビン・ファイギ
脚本 ジャスティン・セロー
撮影 マシュー・リバティーク
編集 リチャード・ピアソン
   ダン・レーベンタール
音楽 ジョン・デブニー
出演 ロバート・ダウニーJr
   グウィネス・パルトロウ
   ドン・チードル
   スカーレット・ヨハンソン
   サム・ロックウェル
   ミッキー・ローク
   サミュエル・L・ジャクソン
   クラーク・グレッグ
   ジョン・ファブロー
   ケイト・マーラ
   レスリー・ビブ

2010年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート