アイアンマン(2008年アメリカ)

Iron Man

マーベル・コミック原作の人気ヒーローを主人公にした大ヒットしたアクション映画。

内容的には如何にもアメコミの映画化という感じですが、しっかり見せてくれる構成になっている。
これは満足のいく出来だ。丁度良いくらいに、良い意味でいい加減なところが本作の強みだ。

かつてドラッグ中毒で苦しんでいたロバート・ダウニーJrも、本作の大ヒットで彼の代表作とできたし、
この第1作の世界的な大ヒットのおかげで、続編も製作することができて、その続編も大ヒット。
日本では熱心なコミックのファンにしか認知されていなかった原作のコミックにも、スポットライトは当たるし、
ハリウッドのビジネス・モデル的にも、大成功と言っていい。失礼ながらもオッサンが主人公というのも珍しいけど。

主人公トニーの秘書であるペッパーをグウィネス・パルトロウが演じるというのも少々意外でしたが、
まぁ本作自体が、少々アダルトで経済的に余裕のある方々の“戯れ”という感じなのでしょう。

映画は、武器製造会社の経営者でありながら、自身が発明を伴った商品開発を手掛ける、
トニー・スタークを主人公に、米軍と強いコネクションで結ばれていたことから、自社の新製品である
クラスター・ミサイルジェリコ≠フ性能をプレゼンするために訪れたアフガニスタンの米空軍のキャンプから
車で移動中に敵軍に襲撃され、拉致された挙句、電磁石を体に取りつけられるという“改造”をされた彼は、
敵軍にジェリコ≠フ提供を求められますが、脱出するためにジェリコ≠製作していると見せかけ、
彼自身が着用するパワースーツを製作し、一気に敵軍を撃退して米軍に保護され、帰国の途につきます。

帰国後のトニーは、それまでのいい加減な生き方を反省して大きく方向転換。
自社製品が戦争の道具として使われている事実を問題視し、自社の主力商品である武器の製造を
中止すると発表し、共同経営者であるオバディアをも驚かせ、会社の役員会から退任を迫られる姿を描きます。

さり気なく、会社の経営者間で権力闘争をも描かれているのですが、
トニーが改心して、いきなり会社の主力商品である武器の製造販売を止めると公言されては、
モラルは一旦置いておいて、そりゃどの会社だって同じことが起きれば、社内は大混乱になるでしょう。

それでもトニーには技術力があり、自身で製品改良する能力もあったからこそ、
パワースーツもより強靭で信頼度の高い製品へと変貌を遂げていきます。これはなかなかいない経営者です。

企業経済の欧米化は進んでいますので、その潮流を組んでプロの経営者なる人々がいますし、
「経営はプロに任せておければ良い」と言って、「経営のプロであれば技術力はいらない」と言う人もいる、
個人的にはトニーのような技術を持った人が経営者になるということは、やっぱり応援したいですよね。
なんせ自分でパワースーツを作って、自分で着て世直ししちゃうわけですから、凄いヒーローですよ(笑)。

そんな彼と対決するのはオバディアを演じたベテラン俳優のジェフ・ブリッジス。
彼のような役者が本作のようなエンターテイメント性高い作品に出演すること自体、意外と言えば意外ですが、
ただ単に出演するだけではなく、一緒になってパワースーツを着て、闘うというのだから余計にスゴい映画だ(笑)。

オバディアの描き方に、この映画のシニカルなエッセンスが感じられますが、
結局、軍需産業って軍隊組織とつながっていて、飛躍的に考えるとテロリストたちもクライアントである。
だから戦争を止めるということに全面的に賛成かと聞かれると、実はそうでもないのかもしれないということだ。
勿論、抑止力として、若しくは自衛として武器を所有する軍隊ということなのだろうけど、実際に戦争に発展すれば、
使用する武器・弾薬の数量は格段に増えることは間違いないだろうし、それに伴って軍需産業が潤う。

従って、軍需産業が裏世界で暗躍することがあるとすれば、オバディアみたく異国のテロリストと内通していて、
企業側の意のままにテロリストたちが動くということもありえると言えば、それは否定できず、これは恐ろしい構図だ。

そこで突如として正義に目覚めたトニーが、「武器の製造販売はやめる」と公言すれば、
当然、市場はパニックになるわけで、役員会から追い出されることも至極当然の流れなのかもしれません。
勿論、現実世界の軍需産業も好戦的なポジションというわけではないだろうが、戦争や紛争が起こることで
利益を増やしているという側面は否定できないはずで、あらためて「世の中、いろいろ複雑だなぁ〜」と思わせられる。

実際、軍需産業の偉い人は政府関係者に内通している部分はあるのだろうし、
意図的なものではないにしろ、闇取引につながるルートがあるのかもしれません。あらゆる手を使って、
軍部にも懐柔しているのだろうし、軍備増強や防衛投資を行うともなれば、すぐに対応できるようにしているのだろう。

劇中描かれた「スターク・インダストリーズ」は架空の設定ですが、
現実にこのような企業は、戦争・内紛・クーデターにはかなり敏感に反応しているだろうし、
彼らの業績に直接的かつ大きく影響するでしょうね。軍需産業を否定はできませんが、多角経営は必要なのかも。

監督のジョン・ファブローは本作にも出演しているくらいで、コメディ俳優としても活躍していますが、
そのおかげで彼が監督する作品もコメディ映画ばかりだ。その中で上手く超人的なアクションを伴って、
少々の笑いをブレンドするという趣向で、本作は彼にとって絶好の大チャンスであったのでしょうね。
実際、彼は第2作まで監督を務めていて、おそらく本シリーズが彼の監督としての代表作となるでしょう。

本作ではラストシーンにサミュエル・L・ジャクソンが登場して、
「“アベンジャーズ”のことについて聞きたい」と謎めいた台詞を言い残して映画が終わるので、
この第1作を撮影していた頃から、本作のヒットはある程度望めて、シリーズ化することは視野に入っていたのでしょう。

ファンにとっては暴言かもしれませんが、僕には“アイアンマン”のシルエットって、
どこか“ウルトラマン”とカブる部分が多かった。そりゃ、大きくなって怪獣と闘うわけではありませんけど、
まるで、いつぞやの塾のCMで話題になった“やる気スイッチ”のように体に光るランプが埋め込まれ、
超人的なスピードとパワーを手にして、敵と異次元のファイトを繰り広げるなんて、昔なら円谷プロの仕事ですよ(笑)。

どことなく、直感的にそう感じていたのは、あながち外れたことでもなかったのか、
マーベル・コミックで“ウルトラマン”が、新たなイメージで描かれたそうですね。もはや、世界のヒーローです。

もともとの原作は1963年から連載開始だということなので、アメコミでも古典的名作ですね。
日本でもかなり早い段階で、アメコミ・ヒーローとして放送されていたようですが、正直、僕は知りませんでした。
本作も老若男女楽しめるくらいの歴史を持っていただけに、欧米を中心にメガヒットになったのでしょうけど、
本作のヒットを受けて、主人公を10代にアレンジしたアニメ『アイアンマン ザ・アドベンチャーズ』も製作されました。

日本で言うと、“ヒーロー戦隊もの”のような感覚なのかもしれませんね。
日本の“ヒーロー戦隊もの”よりも『アイアンマン』の方がドラマ性高い気がしますが、主人公がオッサンというのも・・・。
日本だと、ロバート・ダウニーJrのような中年男性が主人公のヒーローになることは、まずないですよね(笑)。

欲を言えば、映画の序盤の説明的な部分をスリムにして、上映時間は2時間以内に収めて欲しかった。
少し冗長な部分もあって、なかなか前に進まない側面があったようにも感じられ、映画のスピード感は今一つかな。

個人的にはもう少し笑いがあっても良かったかなぁとも思いますが、
戦争に於ける需要と供給を考える、良い題材であっただけに、過剰にコメディ的にする必要はなかったのでしょう。
これは“中年の星”とでも言うべき、有能な科学者を描いたニュー・シリーズとして、続編に期待したい。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・ファブロー
製作 アヴィ・アラッド
   ケビン・ファイギ
脚本 マーク・ファーガス
   ホーク・オストビー
   アート・マーカム
   マット・ハロウェイ
撮影 マシュー・リバティーク
編集 ダン・レーベンタール
音楽 ラミン・ジャヴァティ
出演 ロバート・ダウニーJr
   ジェフ・ブリッジス
   グウィネス・パルトロウ
   テレンス・ハワード
   ショーン・トーブ
   レスリー・ビブ
   ファラン・タヒーフ
   ジョン・ファブロー
   クラーク・グレッグ
   スタン・リー
   サミュエル・L・ジャクソン

2008年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
2008年度アカデミー音響編集賞 ノミネート