あなただけ今晩は(1963年アメリカ)

Irma La Douce

ミュージカルを原作としたラブ・コメディで、今や名画の域に達した一本である。

60年の『アパートの鍵貸します』が世界的に評価され、再びシャーリー・マクレーンとジャック・レモンが
ビリー・ワイルダーのプロダクションの元でコンビを組んだ作品なのですが、
正直言って、映画の出来としては『アパートの鍵貸します』の方がずっと上だし、ずっと面白いと思う。

だけど誤解しないで欲しい、僕はこの映画が大好きだ。
ひじょうに可愛らしい、良い映画だと思う。ビリー・ワイルダーらしさも随所に出ている。

かなり大規模なセット撮影を要したはずなのですが、これが見事にキマっている。
一部、パリの市街地と思われるロケしたシーンもあるけど、映画の大半はスタジオ・セットでの撮影だ。
この美術関係の素晴らしさは特筆に値するし、カメラ・ワークもお見事としか言いようがない。

そしてビリー・ワイルダーのシーン演出もなかなかのもので、
全体的にダラダラとした印象は拭えない一方で、イルマのアパートで朝を迎えたシーンなどで、
ネスターが鏡に映ったイルマと会話をするなど、当時としては斬新な演出も散見される。

ネスターがイルマに客を取らせないためにと出した苦肉の策である、
架空の紳士X卿が地下室から路上へと上がって登場するエレベーターの仕掛けなども実にユニーク。

日本で言えば、一昔前の少女マンガのような世界観で、
そんなメルヘンを堂々と半ば開き直って展開させるあたりは、痛快と言っていいですね。
この辺はビリー・ワイルダーの能力の高さでもあり、ディレクターとしての要領の良さを象徴していますね。
おそらく今の映画界には、ここまで開き直って映画を撮れる映像作家は皆無でしょうね。
そういう意味では出来がイマイチとは言え、本作のような作品でこそビリー・ワイルダーの偉大さを実感します。

ただ、どうせならもっと本格的なミュージカル・シーンを撮って欲しかった。
途中、イルマがX卿から500フランもらったことに大喜びして、バーで踊り出すシーンがあるにはあるのですが、
何だか中途半端。この映画のコンセプトの一つとして、ミュージカル的要素は確実にあったはずですから、
このような中途半端な形で終わってしまっているというのは、チョット残念ですね。

それから上映時間146分という事実が物語る通り、映画の尺自体がかなり長い。
しかもセオリー通りのラブコメなもんだから、正直言って、余計に上映時間が長く感じられるかもしれません。

この辺はシナリオの段階から、もっと詰めても良かったんじゃないかと思いますね。
やはりこの内容で2時間を大きく超えるのはキツいですね。よくラッシュも通ったものです(笑)。
エピソード的にもかなり削れるとは思うのですが、この辺は作り手に強い意図があるのかもしれませんね。
でも、正直に白状しますと、僕にはその作為的意図がよく分かりませんでした。

しっかし、この頃のシャーリー・マクレーンはホントにカワイイですね〜。
まぁ『アパートの鍵貸します』の方がもっとカワイイとは思うのですが、それでも本作でも十分にカワイイ。
今から50年以上も前からスクリーンで活躍していた女優さんというのに、チョット驚きですね。

当時の女優さんでも、いくら数多いハリウッドとは言え、
彼女ほどのファニー・フェイスと言ったら、オードリー・ヘップバーンぐらいだったかもしれませんね。
だからもっとシャーリー・マクレーンは活躍できたはずだと、僕は思うんですけどねぇ〜。。。

まるでコントのようなノリで楽しそうに芝居してますけど、
ネスターを演じたジャック・レモンも相変わらず軽妙な芝居で絶好調。シャーリー・マクレーンとの相性もピッタリだ。

特に最初にバーの地下室でX卿の変装をして、メイクした顔をカメラにフレームインさせるタイミングが絶妙。
バーでケンカが始まると決まって水を噴射させるのですが、女性同士のケンカで嬉々としてネスターが
水を当事者たちに噴射させるショットなんかの表情も、基本に忠実な芝居ではありますが、実に上手い。

ただ、やっぱりビリー・ワイルダーの作品としては、やや落ちる出来かとは思う。
ビリー・ワイルダーの映画特有の小気味良さ、テンポの良さが感じられない。
映画の冒頭でイルマが相手する男から、金を頂くシーンで3人もエピソードを紹介するのも、少々クドいかも。
この辺を観るに、他作品と比べると話しの整理が上手くついていない印象を受けますね。

演出面では単発的に見れば前述の通り、悪くはないと思うけど、
映画通して共通して言えることは、ダラダラしてしまった印象が残ってしまうこと。
思わず「ビリー・ワイルダーの画面になり切れていないなぁ〜」と感じてしまうのが残念でしたね。

しっかし、この映画のカラー撮影は良いですね。
そんなカラー撮影を映えさせるようにイルマの下着を緑色で統一させたり、色彩感覚が活きている。

それにしてもイルマが他の男をイチャつくのが嫌だからって、
ヒモが自分で変装して、自分が客になって自分が払ったお金をイルマが自分に渡す(笑)。
しかも資金源が無くなったからと言って、パリの朝市で肉体労働に出る主人公の涙ぐましい努力が凄い(笑)。
重そうにネスターが豚の半丸を担ぐシーンがありますけど、あれホントに重いんですよねぇ〜。
(豚の半丸って、60〜70kgはありますし持ちにくいから、かなり腰にくる重労働なのです。。。)

(上映時間146分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ビリー・ワイルダー
製作 ビリー・ワイルダー
脚本 ビリー・ワイルダー
    I・A・ダイアモンド
撮影 ジョセフ・ラシェル
音楽 アンドレ・プレヴィン
出演 ジャック・レモン
    シャーリー・マクレーン
    ルー・ジャコビ
    ハーシェル・ベルナルディ
    ホープ・ホリデイ
    ポール・デュボフ
    ハワード・マクネワ
    クリフ・オズモンド

1963年度アカデミー主演女優賞(シャーリー・マクレーン) ノミネート
1963年度アカデミー撮影賞<カラー部門>(ジョセフ・ラシェル) ノミネート
1963年度アカデミー音楽賞(アンドレ・プレヴィン) 受賞
1963年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>(シャーリー・マクレーン) 受賞