眠れぬ夜のために(1984年アメリカ)

Into The Night

どこかユルい映画だが、それはジョン・ランディスの映画だから仕方ないか・・・。

妻の不貞であったり、どこか煮え切らない日々を送っていたせいで、
不眠症に陥ってしまったロサンゼルスの技術師が、とある眠れぬ夜に外出した無人の空港駐車場で、
突然一人の女性が助けを求めてきたことがキッカケで、2晩にわたるスリリングな逃走劇を繰り広げます。

映画は80年代、『ブルース・ブラザーズ』の世界的なヒットで、
勢いに乗っていたと思われていたジョン・ランディスでしたが、『トワイライトゾーン/超次元の体験』での
撮影中の事故で被疑者として告発されたりと、スキャンダルに見舞われていた時期で、
本作の監督にあたっては、色々と難しい時期であったのではないかと推察されます。

そんな実情があったのかは分かりませんが、
ハリウッドを舞台にした映画ということもあって、カメオ出演だけは凄く豪華。
おそらく当時としては、ありえないぐらいの豪華さで、何故かロジェ・バディムなど他の映画では
見られない業界人もカメオ出演していて、当時、如何にジョン・ランディスが応援されていたかが分かります。

B.B.キングのアーバン・ブルースに合わせて、夜のロサンゼルスの街並みを駆け抜ける男女。
まるでヒッチコックの映画のようだと形容された、いわゆる“巻き込まれ型サスペンス”で、
やたらと女性のヌードを映したり、不必要にコミカルなコントのように見せる演出があるのを除けば、
映画はいたってまともな仕上がりで、思いのほか奇をてらったシーン演出はほとんどありません。
おそらくジョン・ランディス自身も映画全体のバランスを意識していたようで、コメディのエッセンスは控え目だ。

また、主演のジェフ・ゴールドブラムも地味ながら良い味わいを出しているし、
ヒロインを演じたミシェル・ファイファーも後々の活躍を想起させる、可憐な存在感だ。

でも、この映画が好きな人には申し訳ないが、僕にはどうも冴えない映画に映った。
コメディ映画を中心に撮ってきたジョン・ランディスにそんな注文を付ける方が間違っているのかもしれないが、
僕は映画の中盤まではそこそこ楽しめる雰囲気のある映画だったのですが、それには条件がありました。

「この映画、最後はどんな面白い“アクセント”を付けるのだろうか?」と。

つまりは、どんなに凡庸なストーリー展開であってもいいから、
個人的には本作の場合は、映画の終わらせ方が凄く大事な作品だなぁと感じていて、
如何に魅力的なラスト、或いは少しだけ気の利いたラストというものを期待していたわけでして、
それが本編はあまりに平坦というか、工夫のないラストで良い意味でのインパクトを残せなかった。
それだけが勿体ないなぁと感じられてならず、結果的に映画自体の印象が良いものにはならなかったですね。

言ってしまえば、これは映画の終わらせ方で失敗した作品です。

こう言い出してしまうと、映画に対する注文は他にも出てきてしまうものです(苦笑)。
映画の冒頭、訳も分からずストーリーが一方的に動き出していくのはいいにしても、
映画の最後の最後まで、追跡劇・逃走劇の説明が無く、構図がとっても分かりづらいまま終わるのも残念。

主人公は不眠症に悩まされ、言わば刺激の無い日々にウンザリしていてところで、
突如として目の前に現れた美女に助けを求められ、ずっと一緒にいれば惚れるくらいのことはあるでしょうが、
それでもどんな経緯でイラン人から命を狙われていて、それぞれどんな連中が彼女たちを追っているのか、
多少は映画の中でも、説明的に描く部分は必要だったでしょうね。謎は謎なままというのは美徳でもありますが、
それは例えば、ヒッチコックのように巧妙に考えられた映画であるからこそ成り立つ話しであって、
言っては申し訳ないけど、本作程度の出来であれば、しっかりと構図をクリアにするべきだったと思いますね。

映画の中盤に何故かデビッド・ボウイがイギリスから刺客として登場するのですが、
彼もまた、ジョン・ランディスを支援するための出演だったのかは謎ですが、インパクトある出演でした。
どうせなら、映画のクライマックスに彼も再登場させて、もっと見せ場を作ってあげて欲しかったなぁ。
この頃のデビッド・ボウイは映画にも積極的に出演していた時期なだけに、チョット勿体なかったなぁ。

ジョン・ランディスにも力は十分あると思うんだけど、全体的に工夫が足りなかった。
それは例えば、「あぁ、これはマーチン・スコセッシが撮っていたら、もっと面白い映画になっただろうなぁ」とか、
実際にそれが当たっているかどうかはともかく、そういう風に思わせられちゃう仕上がりっぷりなのが後押ししている。

映画にとって、大事な要点というものを外してしまった作品という印象なのです。
これだけのカメオ出演があったということは、おそらく当時のジョン・ランディスに人望があったのでしょう。
『トワイライトゾーン/超次元の体験』の撮影事故は、当時から憶測も含めると、色々と言われていたようですが、
おそらく映画監督を中心に、彼の非を一方的に責めることは良くないとの擁護的スタンスの表れでしょうね。

そうなだけに、ジョン・ランディスにとっては与えられたチャンスに近かったのでしょう。
であれば、もう少し工夫を凝らした映画であることを期待していたんですがねぇ・・・。

いっそのこと、いつものコメディ路線を排して、シリアスに押しても良かったのかもしれません。
やたらと追跡するイラン人連中をコミカルなコントのように映したりするのを一切やめて、
あくまで観客にとってもストレスがかかる存在であり続けるように描き、もっとスリルを煽っても良かったと思います。
その方がずっと映画のラストもシンプルに描いても、受け入れられ易い展開になったと思うのですが、
妙にコミカルに描いてしまい、逆に自分で自分の首を絞めたかのように、難しくさせてしまったのかもしれません。

ちなみに不眠症とは程遠い私で、今は一日中眠い“ロング・タイム・スリーパー”ですが、
実は小学生のときに一時期、「眠れない」と親に泣きついていたことがありました。
当時としては30分も寝られないと不安に苛まれていたもので、後々、30分ぐらいは寝つけないことなんて、
ザラにあって、大学のときに長期休みで一日中、家にいたらホントに眠れず、気づいたら夜明けだったなんてことも
ありましたが、眠れないと自覚したら不安感が煽られて大変ですね。考えれ考えるほど、脳が動いて眠れません。

おそらく実際の不眠症もそんな状態で、寝てはいけないときに眠たくなったり、
いわゆる熟睡ができなくって、ずっと眠い状態が続くという拷問みたいな状態なんでしょうね。

そういう意味で、一連のスリルから解放された主人公が、
ヒロインともいい雰囲気になって、ようやっと長時間の熟睡ができるというのは、なんとも得難い幸福なのでしょうね。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジョン・ランディス
製作 ジョン・フォルシーJr
脚本 ロン・コスロー
撮影 ロバート・ペインター
音楽 アイラ・ニューボーン
出演 ジェフ・ゴールドブラム
   ミシェル・ファイファー
   デビッド・ボウイ
   リチャード・ファーンズワース
   ダン・エイクロイド
   イレーネ・パパス
   キャスリン・ハロルド
   ヴェラ・マイルズ