インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994年アメリカ)

Interview With The Vampire

アン・ライス原作の『夜明けのヴァンパイア』を映画化した、ゴシック・ホラー。
監督は92年に『クライング・ゲーム』で評価されたニール・ジョーダンで、少々風変わりな映画だ。

映画のエンド・クレジットにもある通り、当初はインタビュー役はリバー・フェニックスのはずでしたが、
撮影前に薬物中毒で急逝したため、本作ではクリスチャン・スレーターがキャスティングされました。
いずれにしても、トム・クルーズは既にスターでしたが、90年代のハリウッドを代表する若手俳優が揃ったわけです。
オマケに子役時代のキルスティン・ダンストも出演しており、今思えば、スゴい豪華で贅沢な映画でしたね。

映画は雰囲気的にはまずまずでしたが、正直言って、物語は僕にはその魅力がよく分からなかった。
映画製作直前に原作者のアン・ライスがレスタト役にトム・クルーズがキャスティングされたことを知って、
公然と批判したものの、完成した本編を観て撤回したそうで、確かに主演のトム・クルーズはスゴく頑張っています

ただ、自分の中では青年ルイを演じたブラット・ピットと、インタビュー役のクリスチャン・スレーターが
どうにもシックリ来なかった。と言うか、原作がどうなっているのか分からないけど、この2人の絡みがあまりに少ない。

これではタイトルになっている“インタビュー”形式を採用することの意味が分からない。
あくまで現代に生きるヴァンパイアを意識させたいということなのだろうけど、もっと2人の精神的なせめぎ合いを
しっかり描いて、敢えてインタビュー形式を採ったことの意味を、2時間かけてしっかりと描き切った欲しかった。

かと思えば、レスタトも映画の中盤からしばらくの間、メイン・ストーリーから退場してしまって、
最後にもう一度戻ってくるという設定で、なんとも微妙な感じになってしまい、後半から登場してくる、
不気味な舞台を率いるアントニオ・バンデラスもどこかホモセクシャルな雰囲気を出すものの、悪い意味で中途半端。
とにかく、どこにフォーカスしたいのか、僕にはよく分からず戸惑ってしまった。この辺は構成をよく考えて欲しかった。
(脚本自体を書いているのが、原作者であるアン・ライス自身であったはずなのですがねぇ・・・)

まるでハーレクイン小説のような雰囲気がある作品ですけど、基本はロマンスを描いた作品ということなのだろう。
そう思って観ると、レスタトがルイに目を付けたのも恋愛感情からという解釈もできるし、吸血行為自体が
愛情表現のうちの一つとも観れる。そうであるがゆえに、あまりヴァンパイアの恐怖心みたいなものは描かれない。

この辺は賛否が分かれるところだとは思いますが、僕には悪い意味でユルく映った部分があったかな。

まぁ、衣装や美術関係は素晴らしいと思う。メイクも生気の感じられない白塗りが異様な感じで、
予想外なほどにトム・クルーズとブラッド・ピットらが吸血鬼を演じることに、違和感を感じさせなかったのは良い仕事だ。
これだけ豪華なキャスティングを施して、特にトム・クルーズは既にスター俳優だっただけに、吸血鬼を演じるというのは
結構なチャレンジングな仕事だったと思うけど、まずは外見を違和感なく作り込むことで、つまらない“粗”を見せない。

陽の光を浴びてしまい、土の塊に還ってしまったかのようにボロボロとなってしまう造詣など、
美しさとも表現できる儚さを表現したことも素晴らしい。94年なのでCGで出来ることは増えてはいましたが、
映像技術に頼り切ることなく、美術関係の仕事が実に素晴らしかったからこそ、こういうシーンが撮れたのでしょう。

そりゃ、この映画のブラッド・ピットを観れば、次のスター俳優の誕生を予期させられるし、
トム・クルーズも全くブラッド・ピットに譲ることなく、吸血鬼を思う存分に演じている感じで、好感が持てましたね。

しかし、そんな主演2人が頑張っていて、子役のキルスティン・ダンストも素晴らしかっただけに、
なんとなく、この本編の盛り上がりに欠ける部分であったり、そもそも構成自体に疑問を感じてしまったり、
不老不死という人類最大のテーマとも言える能力を手にする難しさに、肉薄し切れていないとか、色々と勿体ない。

興味深いのは、レスタトに目を付けられて、自暴自棄になっていたルイが吸血鬼としての命を与えられ、
不老不死を手にして、レスタトが“捕獲”した人間の生き血を吸い、生き永らえながらもレスタトの論理に疑問を持ち、
命を救った女の子クローディアと行動を共にしながら、レスタトが目の前を去り、吸血鬼連中が繰り広げる、
奇怪な舞台劇を見て、思わず「酷いな・・・」と絶句することだ。合わせて言えば、クローディアも意図せず吸血鬼になり、
クローディアも年を重ねることも、老いることもない自分の姿に嫌悪感を抱く姿が描かれていることも興味深い。

完全に吸血鬼としての生き方が定着し、マインドもすっかり染まっているのかと思いきや、
実はルイもクローディアも人間らしさを忘れておらず、むしろ吸血鬼ではなく人間として生きることを希望している。
それを邪魔するかのようにレスタトがいて、そもそもレスタトが吸血しなければ、彼らの運命も狂わなかったはずだ。

そういう意味では、ルイやクローディアに起こった悲劇であると言っても過言ではないのかもしれない。
ルイはクローディアに恋心を抱いていたのでしょうが、ルイに恋心を抱いていたのはレスタトの一方的なものなのかも。

そう思って観ると、本作が描いているロマンスには当時のタブーに迫った感覚はあります。
これはニール・ジョーダンの強みと言えば強みですが、タブーに迫った恋愛を描いているにも関わらず、
ニール・ジョーダンって問題提起性を持たせて恋愛を描くわけでもなく、独特な美的感覚を持って描いているので、
サラッと上手く描くせいか、割りとスンナリと受け入れられやすく、観易い内容に仕上げられることですね。

個人的には、この映画の冒頭のサンフランシスコの夜の喧騒のシーンがお気に入りで、
このどことなく治安も悪そうな猥雑な空気感(?)が、思わず「何が起こるのだろう!?」とワクワクさせられて、
僕は好きなんですけど...この冒頭から一転して、ルイのインタビューからタイムスリップすると耽美的になる。

タイムスリップしてからの耽美的な雰囲気も良いんだけど、この冒頭の喧騒を生かして、
もっとゾクゾクさせられるような緊張感に溢れる映画が観たかったなぁ。そう出来た内容なだけに、少々肩透かし・・・。

主題歌としてガンズ・アン・ローゼス≠フカヴァー局である Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)を
使っているのであれば尚更のこと、もっと吸血鬼を悪魔的な存在として描くことにシフトした方が面白くなった気がする。

ニール・ジョーダンは破綻した映画を撮る人ではないし、実力あるディレクターだとは思うのですが、
本作はもっとサスペンスに寄った内容でも良かったなぁ。まぁ、原作者のアン・ライスがシナリオ書いた時点で
そこまで大胆な脚色もされないことが明白だったし、ニール・ジョーダンも勝手なことが出来なかったのだろうけど。

そういう意味では、映画のクライマックスにインタビュアーが車を走らせるシーンがあって、
まるで作り手のイタズラのようなシーンがあるのですが、これは現代に蘇る吸血鬼を象徴させるようで好きだなぁ。
このラストに賛否があると思うのですが、ニール・ジョーダンなりに振り切れたように思い切った演出で、
吸血鬼の存在が悪魔のように描かれるラストとなっていて、やっぱり本作はホラー映画なんだと実感させられる。
僕の中では、本作にはこのラストがあったからこそインパクトが残った感じで、印象が多少は良くなったかな。
観る人が観れば、まるでギャグのようなラストで台無しにしているくらいの印象なのかもしれませんがねぇ・・・。

この物語をインタビュー形式で綴ったのは、伝説のように語りたかったという意図があったのではないかと
僕は感じたのだけれども、それならば尚更、インタビューを受けて語るルイの正体はミステリーであって欲しかった。
ルイの正体が吸血鬼であるか否か、敢えてボカして描くからこそ、インタビュー形式を採った意味が強まったと思う。

全体的にこの映画は“答え”をハッキリと描く傾向があるせいか、もう少しボカして欲しかったなぁ。
ルイが200年にも渡る壮大なストーリーを語るということなのだから、適度に謎は謎のままにしていた方が映える。
この辺の塩梅が、ニール・ジョーダンの意向なのか原作者のアン・ライスの意向なのか、よく分からないけれども・・・。

それにしても、ブラッド・ピットとトム・クルーズは本作以降、共演作品がありませんので貴重な作品だ。
まさか、この大スターの2人が共に吸血鬼役で共演しているというのも意外ですが(笑)、既に大スターだった
トム・クルーズに対して、やや遅咲きだったブラッド・ピットは本作の頃から、日本でも注目される存在となりました。
実は年齢差も1歳しか違わず、如何にトム・クルーズが若いときから第一線で活躍しているかも、実感させられますね。

それにしても・・・リバー・フェニックスは当初、インタビュアーとしてキャストされる予定でしたが、
個人的にはルイ役でもハマリそうに見えたなぁ。と言うか、どちらかと言えば、ルイ役を演じてみて欲しかった。
決してブラッド・ピットが悪いわけではないし、彼は彼で甘いマスクのイケメンだけど、レスタトは危険な空気を持つ
青年に興味を持ち、惹かれていたであろうと思うと、ブラッド・ピットよりもリバー・フェニックスの方が適役かもしれない。

返す返すも、リバー・フェニックスの喪失の大きさを実感させられる映画でもありました・・・。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ニール・ジョーダン
製作 スティーブン・ウーリー
   デビッド・ゲフィン
原作 アン・ライス
脚本 アン・ライス
撮影 フィリップ・ルースロ
美術 ダンテ・フェレッティ
音楽 エリオット・ゴールデンサール
出演 トム・クルーズ
   ブラッド・ピット
   スティーブン・レイ
   アントニオ・バンデラス
   クリスチャン・スレーター
   キルスティン・ダンスト
   サンディ・ニュートン
   ドミツィアーナ・ジョルダーノ

1994年度アカデミー作曲賞(エリオット・ゴールデンサール) ノミネート
1994年度アカデミー美術賞(ダンテ・フェレッティ) ノミネート
1994年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(フィリップ・ルースロ) 受賞
1994年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞 受賞
1994年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(トム・クルーズ、ブラッド・ピット) 受賞