インターナル・アフェア/背徳の囁き(1989年アメリカ)

Internal Affairs

ロサンゼルス市警の敏腕刑事とされるデニスが、
実は違法捜査を繰り返し、悪事の数々をはたらいてきたことを疑うも、
様々な抵抗勢力と闘いながら、なんとかしてデニスに捜査のメスを入れようとする、
IAD(内務調査官)に迫る危機と苦悩、そして活躍を描いた、スリラー調のサスペンス・アクション。

監督はミュージシャン出身のマイク・フィッギスで、
後に『リービング・ラスベガス』で成功を収める映像作家ですが、本作の時点で良い仕事してますね。

70年代から俳優として活躍し、
82年の『愛と青春の旅立ち』でブレイクしたリチャード・ギアが、悪徳警官という徹底したワルに扮し、
金儲けのためなら人殺しも躊躇しないという、彼のキャリアの中でも突出した悪役でしたが、これも悪くない。
同時期に『プリティ・ウーマン』が日本でも大ヒットしていただけに、これは好対照な映画ですね。

チョット中途半端なクライマックスなので、おそらく賛否両論ではないかと思うのですが、
レイモンドの寝室で唐突にエンド・クレジットに入るのですが、これはそんなに悪くない発想で、
映画にダークな影を落とすイメージで、映画のテイストとしてスリラーの要素を加味することができていますね。

少々、マイク・フィッギスの演出には荒っぽさがあって、
確かに映画の出来としては完璧とは言えませんが、このテイストは僕は嫌いじゃないですね。

この映画で面白いところは、アンディ・ガルシア演じるレイモンドが
「なんとしてでも、悪徳警官を検挙してやる!」と意気込んで、かつての友人である警官を
取り締まるという、とてもやりづらい仕事にチャレンジするわけなのですが、
事あるごとに妻にツラく当たり、暴力まで振るってしまう粗暴な友人に疑問を抱きながらも、
やがてはレイモンド自身もデニスに操られてしまい、同じような精神状態に追い込まれてしまうという点。

アンディ・ガルシアも当時、87年の『アンタッチャブル』などでブレイクし、
日本でも注目を集め始めた頃ですが、本作では残念ながらリチャード・ギアに完全に喰われてしますね。

さすがにリチャード・ギアが映画の中で、ここまでのカリスマ性を発したのを観たことがないので、
僕の中でも意外だったのですが、この映画ではアンディ・ガルシアは完全に喰われていますね。
次から次へと、躊躇なくリチャード・ギア演じるデニスが悪事に手を染めるので、
観ていても、デニスの存在にそうとうなフラストレーションを感じるのですが、そこまでできたことが凄いですね。

そんな手の早い奴だからこそ、ナンシー・トラビス演じるレイモンドの妻キャサリンと
昼食を共にしていた様子を目撃したレイモンドが、思わずキャサリンの不倫を疑うというのも頷ける。
実際にそうなっていても、何ら不思議ではないと観客に思わせることができた時点で、この映画は成功なのです。

僕はマイク・フィッギスがここまで器用な映像作家だとは思っていなかったので、
少し類型的な構図ではありますが、ここまで計算高く映画を撮れていたことに驚きましたね。
思えば、88年の『ストーミー・マンディ』で評価されてハリウッドへ渡ったわけですから、
あの作品が持っていた暗さを特徴として活かせた映画で、活動を進めようと思っていたのは当然のことでしょうね。

まぁ・・・かつて何本かの映画で、
警察の自浄能力を象徴する組織体系として、内務調査官の活躍を描いた作品はありましたが、
おそらく本作は最も、その構図を類型的に描き、スキャンダラスに描くことに成功した作品と言えるでしょう。

レイモンドも直情的なところがあって、ひじょうに単純にデニスに操られてしまうのですが、
お世辞にもデニスも頭の良い悪徳警官という感じでもなく、トンデモない悪党なのに警戒心が薄く、
堂々と悪事をはたらくところが驚きで、特に映画の中盤でエレベーター内でレイモンドに暴行をはたらき、
何事も無かったように立ち去るシーンは、あまりに無警戒に暴行に及ぶもので、少々、ビックリした。

とは言え、そこで言い放ったデニスの罠にレイモンドはまんまとハマるものだから(笑)、
あながちデニスの大胆な行動は間違っていなかったというわけで、お互いにもう少しよく考えるタイプの
警戒心が強い警察官だったら、ひょっとしたら結果は大きく変わっていたかもしれない(笑)。
往々にして、トンデモない悪党の資質に警戒心が強いという点が挙げられるので、
レイモンドとデニスが似た者同士であるという点を強調したいのなら、警戒心をキーワードにして欲しかったかな。

そんなデニス、人殺しをしてでも金稼ぎに走った理由が
クライマックスで明かされるのですが、その理由が納得性に欠けるのは残念かなぁ。

意外にデニスが古いタイプの人間で、その主張内容が彼の真意かどうもよく分からないのですが、
思わず僕は「そんな理由で、ここまでヤバっちいこと、やったのかよォ!」とツッコミの一つでも入れたくなりました。
この辺りは脚本の力も影響するのでしょうが、細部でこういった“粗”は散見される映画ですので完璧ではない。

とは言え、この映画を大きく救っているのはジョン・A・アロンゾのカメラだろう。
上手く夜のロサンゼルスの街の表情を強調して、映画にスリラーのテイストを吹き込んでいる。
これはマイク・フィッギスの演出も大きく助けられていて、本作の大きなポイントとなっている。

元々、僕はリチャード・ギアがそこまで下手な役者だと思っていたわけではありませんが、
本作のような徹底した悪党を演じることができたのいうのは、彼にとって大きな収穫だったと思う。
甘いマスクの持ち主で、日本でも恋愛映画を中心に彼のイメージを作ってきた部分が大きいけれども、
ネチっこくレイモンドの周囲に近づいていく、観客にとってストレスとなる存在に見事になれている。
この映画で見せたリチャード・ギアの存在感は、ホントにインパクトが強い仕事だったと思いますね。

特に映画の序盤で、ウィリアム・ボールドウィン演じる相棒の若い警察官に
喝を入れるかの如く、ビンタを何発もかますシーンからも分かる通り、同僚の警察官を取り込んでいき、
精神的に支配し、デニスの言いなりとなるようにするしたたかさも上手く表現できており、
ある意味で、これはリチャード・ギアが潜在的に持っていたカリスマ性を上手く利用できた結果だと思う。

欲を言えば、映像として“陰”の部分はとても良く撮れているが、
“明”とも言える、ロサンゼルスの昼を映したシーン演出に、強く印象に残った部分を作って欲しかったかなぁ。
どことなく、執拗に作り込んでいたダークな部分と比較すると、見劣りしてしまうのが難点か。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 マイク・フィッギス
製作 フランク・マンキューソJr
脚本 ヘンリー・ビーン
撮影 ジョン・A・アロンゾ
音楽 マイク・フィッギス
    アンソニー・マリネリ
    ブライアン・バンクス
出演 リチャード・ギア
    アンディ・ガルシア
    ナンシー・トラビス
    ローリー・メトカーフ
    リチャード・ブラッドフォード
    ウィリアム・ボールドウィン
    マイケル・ビーチ
    フェイ・グラント
    キャサリン・ホロウィッツ
    イライジャ・ウッド