インソムニア(2002年アメリカ)
Insomnia
正直言って、最初にこの映画を観たときはあまり印象が良くなかったのですが、
2回目、3回目と回数を重ねるごとに、映画の良さを感じ取れるようになってきましたね。
監督は00年の『メメント』で世界中の映画ファンを熱狂させたクリストファー・ノーランで、
僕としては『メメント』よりも本作の方が良い出来の作品ではないかと思えるようになりましたね。
映画はアラスカの田舎町で発生した殺人事件の捜査に、
不正捜査の疑いで内務調査部から目を付けられているロサンゼルス市警のドーマーとハップが
ヘルプするために赴くシーンから始まり、映画のエンディングまで舞台を移さずに終わる。
周知の通り、アラスカ州のような緯度の高い地域だと存在する白夜。
映画の主人公ドーマーはトンデモないミスを犯したことも重なり、彼の精神状態は更に悪化し、
慣れない白夜が続く毎日に、不眠症を発症してしまい、正気を失ってしまう姿を描いています。
一見すると、殺人事件の捜査を遂行する男の物語かと思いきや、実はドーマーの物語なのです。
本作が劇場公開された際、人気俳優ロビン・ウィリアムスが初の本格的な悪役に挑戦したことが話題となり、
彼が役者としての幅を広げていくキッカケとなった作品で、確かに彼なりに奮闘しているのですが、
さすがに本作の主題が違う部分にあるせいか、彼がいくら頑張っても、やっぱりアル・パチーノには及ばない。
この映画、とにかくアル・パチーノが眠そうな表情をしていて、
ぶっちゃけた話し、観客の眠気をも誘う可能性が極めて高いような気もするのですが(笑)、
やはりこういった芝居をアッサリやってのけるというのも、長年の経験の賜物なのでしょうね。
実際、この映画のドーマーは彼が演じていなければ、ここまで魅力的な映画にはならなかったでしょう。
但し、僕のような、とにかく叫びまくるアル・パチーノの“絶叫演技”が大好きな人にはオススメできない(笑)。
そういう観点では、本作、まったくもって不発なので、まるでファンの欲求を満たせないと思います。
余談ですが...それにしても白夜って、想像しただけでもイヤだなぁ〜(笑)。
まぁ数年前にデンマークに2週間ほど滞在したときも、5月で高緯度地方でしたので、
当然のように昼の長さが猛烈に長く、朝は4時前には太陽が照り付け、夜は10時頃まで明るいという、
日本で言う「昼が長い」という感覚とは比べものにならないぐらいの、昼の長さは体験したことがあります。
僕はこの体験の時点で、やや戸惑いを感じましたからねぇ。夜の10時頃まで明るいってのは良いけど・・・。
いくらカーテンなどで部屋を閉め切って寝ても、さすがに限界があります。
それが白夜なら、24時間ずっと太陽が沈まないわけで、これは想像を絶する世界ですね(笑)。
ただでさえ、内務調査部から目を付けられて、同僚の造反も気になっているドーマーにとっては、
この白夜という条件は、彼にとっての更なる負担以外の何物でもなかったことでしょうね。
当然、仕事時間帯である昼間は眠たいわけなのですが、やはり外界が明る過ぎることと、
体内時計が完全に狂ってしまったことにより、睡魔には襲われても、眠りにつけることはありません。
結果、3日間一睡もできないドーマーなわけですから、正常な判断などできるわけがありません。
映画はそんな不眠症の盲点に目を付け、サイコ・サスペンスのテイストも強調しているわけです。
但し、半ばクリストファー・ノーランは物語の中央に置かれる事件の謎解きを
放棄してしまっているような感じで演出しているせいか、ミステリーを期待する人にはオススメできない。
この映画は前述したように、不眠症によって精神的に混乱していく様子を描いた映画でしかない。
『メメント』はややアイデア一発に頼った部分がある映画であることは否定できませんでしたが、
本作は真正面から正攻法に撮った映画であり、この演出スタイルに僕は好感を持ちましたね。
ドーマーの混乱を執拗に描くことにより、映画を成立させたことは大きな収穫ですらある。
僕が最初にこの映画を観たときは、この平坦な作りにイライラさせられてしまったせいだと思う。
但し、その向こう側にクリストファー・ノーランのホントの狙いがあって、それが終盤でジワジワと効いてきます。
クリストファー・ノーランは05年の『バットマン ビギンズ』を任されて、
更にハリウッドを代表する気鋭の映像作家として、確固たる地位を確立しようとしています。
(2010年の『インセプション』も、奇抜な発想の作品として実に高い評価を得ています)
本作なんかを観る限り、ひじょうに高い演出能力を有したディレクターだと思いますので、
僕としては本作のようなスタンスを常に意識し続けて、アイデアに溺れることなく創作活動を続けて欲しいですね。
特に本作なんかは個性派俳優も数多く出演しており、キャストのコントロールもそう容易ではなかったはずだ。
そこを上手く“交通整理”し、映画全体のバランスを実に上手く取れたことに、ひじょうに大きな価値がある。
僕は本作をクリストファー・ノーランが次のステージへと進んだ作品として、評価したいですね。
ちなみにアラスカでドーマーらが滞在するホテルでは、
土地の名物食材であるオヒョウを使った料理がメインとのことで、イタリア風だのギリシア風だのと、
やたらオヒョウ料理ばかりが並び、ドーマーも皮肉たっぷりに「デザートもオヒョウなのか?」と言う始末。
アラスカ州は海産物が豊富なはずで、日本の食品会社とも取り引きがある水産加工所も多いはず。
特にアラスカ・サーモンは有名で、イヌイットの人々から伝わるトナカイの肉も食べられるはずで、
別にオヒョウ料理しか出てこない土地ではないはずで、もう少し食環境は良いはずです(笑)。
(上映時間118分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 クリストファー・ノーラン
製作 ブロデリック・ジョンソン
ポール・ジャンガー・ウィット
アンドリュー・A・コソーブ
エドワード・マクドネル
脚本 ヒラリー・セイツ
撮影 ウォーリー・フィスター
音楽 デビッド・シュリアン
出演 アル・パチーノ
ロビン・ウィリアムス
ヒラリー・スワンク
モーラ・ティアニー
マーチン・ドノバン
ニッキー・カット