インファナル・アフェア(2002年香港)

Infernal Affairs

映画の作りは若干、粗いところもあるけれども...
確かにこれは思わず、「オッ!」と惹き込まれるだけの魅力を持った作品だ。

当時、ハリウッド最高額でリメークの権利が落札され、
06年にマーチン・スコセッシによって、『ディパーテッド』というタイトルで映画化されたオリジナルで、
香港の裏社会で展開される、香港マフィアと警察の闘いを描いたフィルム・ノワールだ。

まぁストーリーの細かな部分までケアできているか否かで言えば、
後追いなだけあってか(?)、『ディパーテッド』の方が親切な映画だったという印象はありますね。
でも、本作の方がずっとスッキリしたイメージがあって、映画の描写は必要最小限で多くを語りません。
淡々とストーリーを進めていくかのようですが、説明的になり過ぎる傾向を嫌い、映画のテンポも良い。
これは香港映画界に於ける有数のヒット作と言っても、過言ではないでしょうね。

ジャッキー・チェンがハリウッドに渡り、本格的にハリウッドで活躍するようになってから、
香港映画界は明らかに次世代の映画スターを求めていたように思うのですが、
本作のような元気な映画が発表されているうちは心配ないでしょう(笑)。

『男たちの挽歌』を撮ったジョン・ウーも本作の出来に悔しがっているかもしれません。
ガン・アクションに頼ることなく、冷めたようなカラーで統一感ある色使いで映画のドラマを盛り上げます。
フィルム・ノワールに相応しく、徹底してシリアスなテンションで押し通し、作り手の主義主張に一貫性がある。

こういう映画の作り方は今の日本映画界も見習うべき部分があると思いますね。

音楽の使い方も模範的で、映画の雰囲気を盛り上げるのに一役かっていますね。
そしてビルの屋上で潜入警察官と警部が密会するシーンは実に良い雰囲気で、これは良いチョイスですね。
密会現場でいろんなシチュエーションを採用した『ディパーテッド』では、ここまでの雰囲気は出せていません。

本作の好評に応えるように、2本の続編が製作されましたが、
確かにものの5分ほどで語ってしまった10年間のエピソードを描きたくなる気持ちはよく分かりますね。

当時、日本でも有名だったケリー・チャンが精神科医として出演していて、なんだか嬉しくなりました(笑)。
『ディパーテッド』では、ヴェラ・ファーミガが演じて強烈にプッシュされていましたが、
個人的には本作でのケリー・チャンに軍配を上げたいかも(笑)。今、こうして観ると、凄く良いですね(笑)。

それと、不条理なラストのあり方が何とも複雑ですが、これが良かったですね。
キレイ、サッパリ、登場人物を片っ端から片付けてしまった『ディパーテッド』と比べると、
よりフィルム・ノワールのニュアンスを強調するような感じで、僕はこのラストの方が好きですね。
まぁマーチン・スコセッシも上手いリメークをしましたが、基本的にやはりオリジナルに優位性がありますね。

映画のラストに、「長寿とは、この上ない苦しみを与えるものである」とテロップが出ますが、
これが本作の要点と言えますね。とにかくこの映画は生き残る者に苦しみを与えます。
リメークの『ディパーテッド』には、この皮肉がなく、映画に奥深さが出ませんでしたね。
(生き残ることに苦しみがあるからこそ、本作のラストは利いてくるんですよね...)

ただ一つだけ、このオリジナルに注文を付けさせてもらうなら...
恋愛エピソードが物足りないことですね。特にマフィアの内通者として警官を勤める男が、
小説家を志望する女性と交際しているという設定なのですが、彼女が映画の最後で突如として、
交際相手に対する疑念を深めるという展開は、さすがにやや無理があると思いましたね。
もう少し、彼女が交際相手の素行などに疑問を持って、男の本性を垣間見るという流れにした方が、
映画のクライマックスの別離に、強い説得力を持たせられたと思うんですよね。

この辺は敢えて女性キャラクターを絞った『ディパーテッド』の方が良かったかもしれません。
(やっぱし、こういう部分はマーチン・スコセッシ、上手かったなぁ〜)

まぁひたすら『ディパーテッド』との比較に終始してしまいましたが、
どうしても両作を観てしまうと、比較してしまいがちですが、いずれも良さを持った作品と言えます。
しかしながら、本作はオリジナルとしての先駆性、雰囲気を作り込むアプローチなど、秀でた部分が多いですね。

でも、生き残る者こそが勝者というスタンスから描かれた『ディパーテッド』と比べると、
本作なんかの生き残ることの罪深さを描いているという、まるで正反対なことなんですね。
だからこそ、この両作を比較しながら楽しむというのも、一興じゃないでしょうかね。

日本でもヒットしていたことが記憶に新しいですが、
そんな好評価を受けて、2作の続編が製作され、これらもやはりヒットしました。

ある意味では、「情報戦」を描いた映画であることも支持された理由かもしれませんね。
携帯電話はおろか、パソコンなど情報機器を駆使した攻防を描いており、
ある意味で現代社会に即した形で、それがスタイリッシュであるとの印象を与えたのかもしれませんね。

それらが決して無理な形ではなくって、自然と溶け込んでいたのが大きいですね。
この辺が本作の作り手の賢さ、そして本作の強みだったと思うんですよね。
過去に、半ば無理矢理に「情報戦」を描いた映画もありましたけど、その多くが成功していません。
そんな中で本作なんかは、上手く「情報戦」を取り入れることに必然性を見い出していますね。
麻薬取引現場を押さえるために利用する逆探知も、「情報戦」でなければ描けない発想です。

僕は本作にこそ、映画作りの基本、そして映画としての強さがあると思うんですよね。
そう、雰囲気から固めた映画というのは、真の意味で強いということなんですよね。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 アンドリュー・ラウ
    アラン・マック
製作 アンドリュー・ラウ
脚本 アラン・マック
    フェリックス・チョン
撮影 ライ・イウファイ
    アンドリュー・ラウ
編集 ダニー・パン
    パン・チンヘイ
音楽 コンフォート・チャン
出演 アンディ・ラウ
    トニー・レオン
    アンソニー・ウォン
    エリック・ツァン
    エディソン・チャン
    ショーン・ユー
    ケリー・チャン