TIME/タイム(2011年アメリカ)

In Time

これって要するに、“Time is money”というより、“Money is time”な映画ですよね。

「時間」って、哲学的に言うと、空間的概念だったはずなんだけど、
本作では「お金」という物質に、「時間」が取って代わる存在として描かれていて、
要は「時間」を支配することによって、人間社会を統制する富裕層と、統制される立場の貧困層に分かれ、
まるで『俺たちに明日はない』のボニーとクライドのように、時間泥棒を繰り返す若者たちを描きます。

監督は『トゥルーマン・ショー』などの脚本を書いて高く評価されたアンドリュー・ニコルで、
今までは一風変わった設定で、独特な世界観を基にSFを展開していたアンドリュー・ニコルですが、
本作ではオーソドックスなスタイルに基づいたSFを展開することに路線を変え、基本に忠実な映画にしましたね。

ある種、今回もありえないことではありますが、
「時間」は同じ人間から与えられるもので、ハッキリとした有限資源で尚且つ、
その制限が富裕層が自分たちの都合で決めてしまうという、理不尽な社会的不合理を痛切に批判した映画です。

但し、この映画はやはりメッセージとしてあまり一般化された内容ではなかった点と、
これまでアンドリュー・ニコルが映画の中で描いてきたテーマと比べると、ユニークさで劣る点があって、
やっぱり「時間」を物質化して「お金」に置き換わって扱われるという設定に、どれだけ興味が持てるかが、
この映画の価値を決めてしまっているような感じで、設定以外に魅力を引き出せなかったのが残念ですね。

やはり、もうアンドリュー・ニコルぐらいのキャリアの持ち主になってしまうと、
同じSF映画を撮るのであれば、並みの設定ではストーリーだけの魅力で映画を引っ張るのはキビしいですね。
映像作家として、彼なりの世界観、物語設定のユニークさに加えて、何かもう一つ、“武器”が欲しいですね。
僕なんかは、どうしても彼が97年に撮った『ガタカ』と比べて観てしまいますもんね、本作のような内容だったら。

一時期は全米を代表するアイドルだった、ジャスティン・ティンバーレイクが主演した作品ですが、
もう彼もさすがにジャネット・ジャクソンと騒動になった頃からは、だいぶ落ち着いてきたみたいで(笑)、
05年から本格化した俳優業も板に付いてきましたね。本作への出演に関しては、かなり積極的だったようですね。

ヒロインを演じたアマンダ・サイフリッドって女優さんは、
僕は本作で初めて観ましたが、確かに今後のハリウッドを牽引するような力があるのでしょうが、
どことなく本作での彼女はルックスの時点で、一昔前の浜崎 あゆみを観ているようで、
どうもそのシルエットが僕の中でダブってしまって、妙な違和感が拭えなかったですね(←なんじゃそりゃ)。

おそらく彼女はこれからのハリウッドを背負っていくことを期待される女優さんの一人でしょうから、
もっともっと彼女を引き立たせて欲しかったなぁ。これではジャスティン・ティンバーレイクの一人勝ちって感じ。。。

映画の出来は及第点レヴェルだと思う。
「時間」を「お金」と置き換えた映画というのは、確かに今まで観たことはなかったけれども、
特段、秀でた作品とは思えず、アンドリュー・ニコル監督作への期待値の高さを考えると、物足りないかも。。。

この映画で何より必要だったものは、画面に吹き込まれる緊張感だったはずで、
時間を管理する捜査官としてキリアン・マーフィが出演しているのですが、彼らが徹底して、
主人公たちを追跡するというのが基本設定の映画であるにも関わらず、追跡劇が盛り上がらない。
これはやはり決定的に画面に緊張感が足りないために、彼の追跡劇が盛り上がらなかったわけで、
手に汗握るようなサスペンスがこの映画に存在していれば、おそらく映画に対する印象は変わっていたでしょう。

そういう意味では、実に勿体ない映画だったと思うんですよね。
いろんな要素をブレンドしたい作り手の気持ちを汲んであげたいけど、できることなら清らかなロマンスなのか、
アウトローな2人のロマンスなのか、もっとハッキリさせて映画を構成すべきだったと思うんですよね。
この辺は、珍しくアンドリュー・ニコルが迷いながら映画を撮っているかのような印象さえ受けましたね。

どうも、映画の序盤では誤解されて殺人犯としてマークされた主人公は
母親思いの好青年であり、映画の序盤にはあまりに出来過ぎとは言え、母親との切ないエピソードもあるのですが、
映画が進むにつれて、次第にアウトローな行動に手を染めるせいか、映画の前半での好青年ぶりが
完全に吹き飛んでしまうという構成も、僕個人としては成功だったとは言い難いような気がしますけどね。
(母親とのエピソードはそこそこ上手く作れているだけに、かなり勿体ないことをしたと思う・・・)

少なくとも、映画の前半を観る限り、主人公カップルをアウトロー的に描くべきではなかったと思いますけどね。
映画の後半で金庫破りみたいなことを始めたのを観て、もう完全にボニー&クライドの世界ですもんね(苦笑)。
2人をあくまでアウトロー的に描くのであれば、『トゥルー・ロマンス』みたいな映画を目指すべきだったのでしょうが、
もしそうであれば、映画の前半では主人公をあたかも好青年であるかのように描く必要は無かっただろう。

頭でっかちなことを言うつもりは毛頭ないのですが、
登場人物のキャラクターに関して、映画の前半から一貫した描き方をできていないのは残念ですね。

アンドリュー・ニコルも『ガタカ』や本作のようなSF映画には定評があるけど、
00年代に入っても、『ターミナル』や『ロード・オブ・ウォー』なんかでも十分に楽しませてくれました。
そういう意味では、無理して本作のような題材にはこだわらなくていいんじゃないかと思うんですけどねぇ。。。

日本ではあまり大きな話題にならずに劇場公開が終了してしまいましたが、
個人的にはアンドリュー・ニコルが今後、映像作家としてどういう方向性に向かっていくのか、
今後の創作活動に於けるターニング・ポイントとなる作品になるような気がしますね。

まぁ及第点は超えた作品だとは思いますが、
観る前の期待を大きく超えた作品とは言い難く、アンドリュー・ニコルの今後が少し心配な感じだ・・・。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 アンドリュー・ニコル
製作 エリック・ニューマン
    マーク・エイブラハム
撮影 ロジャー・ディーキンス
編集 ザック・ステーンバーグ
音楽 クレイグ・アームストロング
出演 ジャスティン・ティンバーレイク
    アマンダ・サイフリッド
    アレックス・ペティファー
    キリアン・マーフィ
    ビンセント・カーシーザー
    マット・ボマー
    オリビア・ワイルド
    ジョニー・ガレッキ