ザ・シークレット・サービス(1993年アメリカ)

In The Line Of Fire

まぁ無難な映画ではありますが...
さすがはウォルフガング・ペーターゼンって感じの、良く出来たエンターテイメントかな。

老いて尚、果敢にハードなアクションに挑むクリント・イーストウッドの
役者魂には感服しますが、映画全体のバランスが良く、2時間しっかり見せてくれますね。
当たり障りのない内容で、ある意味では冒険がないと言われればそれまでですが、
これはこれで職人的な、そう簡単に出来る映画ではないと思いますね。

この年のアカデミー助演男優賞部門は不作だったのか、
本作で悪役を演じたジョン・マルコビッチがノミネートされていますが、
確かにこれはインパクトの強い悪役になっていて、他作品との差別化をキチッと図っていますね。
(ちなみにこの年のアカデミー助演男優賞は『逃亡者』のトミー・リー・ジョーンズが受賞)

監督のウォルフガング・ペーターゼンもハリウッドでの認知度が高まるにつれて、
手がける映画の規模が次第に大きくなっていき、やや方向性を見失ったかのような作品が
本作の後あたりから続いてしまいますが、本作ぐらいが丁度良いですね。

何度かイーストウッド演じるフランクと、ジョン・マルコビッチ演じるミッチの直接対決が
描かれるのですが、スリリングなアクション・シーンをタイトに見せ、緊迫感に満ちています。
それぞれの見せ場が時間配分的にも丁度良く配分されており、映画がダラダラしませんね。
これはやはりウォルフガング・ペーターゼンの上手さだと思うし、この作品ではホントに冴えてますね。

映画の舞台は93年。
30年前の63年にダラスで発生した、当時の合衆国大統領ジョン・F・ケネディ暗殺事件で
現場で大統領の身辺警護を担当していたフランクが年老いて尚、シークレット・サービスとして
秘密捜査や要人警護に就いている中、国家へ恨みを持つ謎の合衆国大統領暗殺を予告する男から
フランクへ挑戦状ともとれる電話が届き、ケネディ大統領を救えなかったという想いを強く残す、
フランクは困惑しながらも、大統領警護を志願する姿をスリリングに描いております。

フランクにとって障害となるものは単純なものではなく、
なかなかボロを出さないミッチだけでなく、フランクの衰えた体力や体調不良も障害となります。

一方で、フランクが相変わらずのプレーボーイという設定で、
これが如何にもイーストウッドらしいキャラクターで、同僚を常にクドくことしか考えていないのが面白かった。
何故に同僚の女性シークレット・サービスのリリーがあんな簡単に父親ほど年齢の違う、
爺さんと恋に落ちるのかが、イマイチ説得力に欠けるような気がしましたが、こういう展開があるからこそ、
イーストウッドが本作に出演してくれたのかもしれませんので、許容せねばなりませんね(笑)。

特にワシントンの庁舎前でフランクがリリーと
「一緒にアイスクリームを食べようよ」と誘い、先にリリーが帰るとき、
フランクが年老いても、「振り返れば、彼女はオレに興味がある」とブツブツ呟きながら、
いざリリーが振り返ると、ホントに嬉しそうにニヤけるシーンが何とも面白いですね。

ミッチはCIAに暗殺者としての教育を受けながらも、
自らの意に沿わない処遇を受け、国に対して絶望し、大統領暗殺を考えつく一方、
フランクはフランクで長年、ずっとケネディ大統領を救えなかった過去を悔い、
その後も職務を継続してきたものの、その負い目からずっと逃れられない苦しみと闘い続けている。

そんな2人がまるで運命に導かれるように、
お互い、認めたくない何かしらの共通点を抱えたまま、対決に導かれる構図が良いですね。

面白いのはミッチが繰り返し、フランクに対して挑発的に電話をかけて、
フランクの感情を逆なでするのが、本作の一つのミソになっていて、従来の悪役像と差別化を図っていますね。
だからこそ本作のジョン・マルコビッチは評価されたのでしょうが、更に変装に変装を重ねて、
正体不明の犯人像を上手く構築できていて、彼の描き方に関してはひじょうに上手かったですね。

中にはミッチの素性や背景をもっと描くべきだったと思う人がいるかもしれませんが、
僕はこの映画の場合は、ミッチを敢えて不明瞭に描くことによって、アクセントを付けられたと思いますね。
これで彼の素性や恨みを持つ背景を語られたら、凡百の悪役と一緒になってしまいましたね。
(正確に言えば、ミッチの素性が全く語られていないわけではなく、あくまで必要最小限に留めているだけ)

ただ、欲を言えば、映画のクライマックスの攻防はもう少し上手く描いて欲しかった。
半ば無理矢理に力業に持っていったような印象があり、その全てをフランクに担わせるというのは、
さすがに違和感がある描写になってしまい、映画の説得力を削いでしまったような気がしますね。

この辺の荒っぽさというのが、ウォルフガング・ペーターゼンらしいツメの甘さって感じで、
もう少しずつ改善されると、傑作になりそうな感じで実に勿体ない気がしますねぇ。

映画のラストシーンも、フランクの家の留守電に録音されていたテープが流れるシーンが
やはり従来のアクション映画とは一線を画すように、気の利いた演出でニクいですね。
本作を通して、ミッチを演じたジョン・マルコビッチは開き直ったかのような芝居で
クセのある悪役のイメージを付けていましたが、映画の最後の最後までインパクトを残しますね。
そういう意味で、やっぱり本作はジョン・マルコビッチのキャスティングは大きかったのかもしれませんね。
(オスカー・ノミネーションはやはり正しい判断だったのかも・・・)

蛇足的ですが、ウォルフガング・ペーターゼンは本作でのアプローチを思い出して欲しいんだなぁ。
00年代以降の監督作はどれもサッパリな出来ばかりで残念な限りなんです・・・。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ウォルフガング・ペーターゼン
製作 ジェフ・アップル
脚本 ジェフ・マグワイア
撮影 ジョン・ベイリー
音楽 エンニオ・モリコーネ
出演 クリント・イーストウッド
    ジョン・マルコビッチ
    レネ・ルッソ
    ディラン・マクダーモット
    ゲイリー・コール
    フレッド・ダルトン・トンプソン
    ジョン・マホーニー
    クライド 草津
    ジョン・ハード

1993年度アカデミー助演男優賞(ジョン・マルコビッチ) ノミネート
1993年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジェフ・マグワイア) ノミネート
1993年度アカデミー編集賞 ノミネート