イン・ザ・カット(2003年アメリカ)

In The Cut

かつて“ラブコメの女王”とまで言われた人気女優メグ・ライアンが
大胆演技を披露して大きな話題となった、センセーショナルなサイコ・サスペンス。

監督は93年に『ピアノ・レッスン』を発表して話題となった女流監督ジェーン・カンピオンで、
今回は倒錯した性の世界に溺れていく中年女性の姿を描いています。

当初はヒロインの役にニコール・キッドマンにオファーがいっていた企画なのですが、
あまりに過激な役柄であるに加え、ニコール・キッドマンが負傷したことにより降板し、
代役としてメグ・ライアンにオファーが移った話題作なのですが、観る前から不安はありました。。。

いざ観てみたら、その不安が見事に的中しました...。
ジェーン・カンピオンの映像作家としての姿勢に共感できない上、映画の出来自体が良くありませんでしたね。

そして話題のメグ・ライアンの大胆演技、これも正直言って、観ていてキツかったですね。
いや、イメージを脱却したいという気持ちもあったかもしれないし、彼女なりの挑戦だったのかもしれません。
ただ、やっぱり今までの彼女のイメージって強いですからねぇ。。。こんな彼女は観たくなかったなぁ。。。
可能であれば、日本全国のメグ・ライアンのファンにアンケートを取ってみたいですね。

「あなたはメグ・ライアンの性的に倒錯した世界に溺れている姿を観てみたいですか?」って。

まぁ映画の方向性としても、正直言って、何がやりたいのかよく分からない映画ですね。
厳しい言い方ではありますが、画面の緊張感には欠けますし、イマイチ盛り上がらずに終わってしまいます。
連続殺人事件が頻発する軸と、セクシーな刑事と肉体関係を結ぶという軸の2つの軸を基軸にしながらも、
お互いのストーリーの基軸をどう絡み合わせるか、作り手に明確なビジョンが感じられませんでしたね。

この辺はジェーン・カンピオンの感覚的な映画の作り方がよく表れているけど、
僕はもう少し彼女は設計感を感じさせる映画を撮った方が面白いと思う。
さすがにここまで感覚的、かつ感情的な映画を観ると、えらく行き当たりばったりな内容に思えてきます。

特に刑事が突如として、ヒロインをバーで誘惑し始めるシーンなんて、
あまりに単刀直入な展開で、かなり飛躍し過ぎているような気がして、安っぽい感じがします。
(確かに世の中には、ああいう男もいるかもしれないけど、あれは立派な変態だろう・・・)

たいへん申し訳ない言い方ではありますが...
思わずこのシーンを観て、「なに、ジェーン・カンピオンってこういうのに憧れてんの?」と思えてしまいます。

個人的にはヒロインの妹として登場してきたジェニファー・ジェイソン・リーと、
主演のメグ・ライアンの役柄をスイッチした方が映画が面白くなったような気がしますね。
と言うのも、この映画、久しぶりにジェニファー・ジェイソン・リーが良い感じなのですが、
アッサリと途中退場してしまうので、なんだか勿体ないんですよねぇ。
この辺もジェーン・カンピオンがもっと上手く制御したかった部分だと思いますね。

個人的にはもう少し大都会に生きる人々の孤独というアドバンテージを活かして欲しかったかな。
少なくともヒロインのフラニーは決して友人の多い境遇ではなく、職業的にもフリーな部分が多いから、
逆に彼女自身、内面に抱える孤独に悩む部分というのが映画の中で活かせたはずなんですよね。

孤独ゆえ、異性との刺激的な関係を渇望するというのは王道とも言えるセオリーだからです。

言ってしまえば、そういった大都会の大きな落とし穴をどうして積極的に描こうとしないのでしょうか?
これを描いておけば、おそらく映画の問題提起性やメッセージ性はもっと高まったであろうし、
終盤にはカタルシスとも言える境地に到達できたと思うんですよね。だからこそ勿体ないんですよね。

まぁ言うまでもなく、主演のメグ・ライアンはヘアヌードも辞さぬ入魂の熱演。
そんな下世話な話題ばかりが先行するのが残念なぐらいの大熱演と言っていいと思います。
しかしながら、前述したように僕の本音としては...こんなメグ・ライアンは観たくなかったなぁ。。。
あまりの変貌ぶりのせいか本作の後、彼女は女優業の方が完全に低迷してしまいましたね・・・。
(まぁ・・・彼女の低迷の裏にはラッセル・クロウとのスキャンダルもあっただろうが...)

正直、『めぐり逢えたら』やカフェラッテのCM観て、
「メグ・ライアンってカワイイよね」みたいな感覚で本作を観ない方がいいです。泣きを見ます(←大袈裟)。

まぁメグ・ライアンの壮大な冒険は、女優業として考えると、
必要なチャレンジだったのかもしれませんが、結果として「やらない方が良かったね」と言わざるをえない
結果になってしまっているのが残念ですね。これは作り手にも責任があると僕は思いますけどね。。。

映画の緊張感という意味では、犯人探しにイマイチ盛り上がりに欠けるのが致命的かな。
確かに予想外な真犯人の正体ではあるのですが、今一つ映画の緊張感が利いていないせいか、
どうにもクライマックスのサスペンスが明確な盛り上がりに欠けたまま終わってしまいますね。
これでは、どうしてもサスペンス映画としての機能を果たせずに終わってしまって、苦しいですね。

まぁダークで湿っぽい映画が好きな人なら、そこそこ観れるとは思いますが、
よくあるタイプのサイコ・サスペンスを期待されると、いささかキビしい内容かと思われます。

(上映時間119分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

日本公開時[R−15]

監督 ジェーン・カンピオン
製作 ニコール・キッドマン
    ローリー・パーカー
原作 スザンナ・ムーア
脚本 スザンナ・ムーア
    ジェーン・カンピオン
撮影 ディオン・ビーブ
音楽 ヒルマン・オルン・ヒルマルソン
出演 メグ・ライアン
    マーク・ラファロ
    ジェニファー・ジェイソン・リー
    ケビン・ベーコン
    ニック・ダミチ
    シャーリーフ・パグ