イン・ザ・ベッドルーム(2001年アメリカ)

In The Bedroom

おそろしく地味な映画ではありますが...
これは末恐ろしいほどのパワーを持った、将来性のある作品だと思います。

映画は都市部の大学に入学した大学生の青年が、
夏休みに帰省し、漁業のアルバイトをしている最中、2人の子持ちの人妻と恋に落ちたことから、
やがてはトンデモない破滅的な出来事へと導かれてしまう様子を描いたヒューマン・サスペンス。

監督は本作が初監督作となったトッド・フィールドで、
06年に『リトル・チルドレン』を撮っているが、まだ2作品しか撮っておりません。

しかし、本作を観る限り、トッド・フィールドは力のある映像作家だと思いますね。
とてつもなく悲壮な物語で、あまりに酷な現実をまざまざと見せ付けられるストーリーなため、
いくらでも感情的にストーリーテリングを展開することができたのですが、そこは最小限に留め、
とにかく映画の序盤から、感情を抑制に抑制を重ねて、ドラスティックな映画になることを阻止しています。

そんな中で、出演者たちには徹底して台詞に出さない芝居に徹しさせ、
人間の内面、そして人間の本質的な部分をさらけ出すように描いているのが見事ですね。
これは力のあるディレクターでなければ、成立しえないアプローチだったと思います。

幼い頃から一人息子を厳しくしつけてきた母親。
それをなだめるように、どんなときもツラくはあたらない父親。お互いにバランスをとっていたのですが、
結果的に生み出したものは、意思の強い息子であり、暴力的な亭主の高圧的な振る舞いから、
愛する人妻ナタリーと彼女の息子たちを守りたいと燃え、トンデモない“事件”へとつながってしまいます。

もうこうなってしまうと、息子を両親が止めることはできません。
息子も自分で何事も判断せねばならない年齢になり、ナタリーに深入りしていくのです。

決して快くは思っていなかった両親であったものの、
愛する息子の気持ちを強く否定することはできず、母親がいつものように諭しても、
もはや息子は聞く耳を持ってはいませんでした。この状況は良くも悪くも、親子関係を象徴しています。

この映画、キャスティングの素晴らしさが如実に表れていて、
特に母親を演じたシシー・スペーセクは出色の名演技と言え、父親を演じたトム・ウィルキンソンも良い。
この2人は、映画の後半で思わず高ぶった感情を抑えられず、少しだけ口論してしまうシーンがあるのですが、
これが本作で唯一、登場人物の感情が爆発してしまうシーンであり、最も強いインパクトがありました。

感情に身を任せて怒鳴ってしまったものですから、
思わず相手を責めることばかりを考えてしまい、お互いを傷つけることを言い合ってしまい、
映画は次第に危ない空気を帯びていきます。ここで本作のトッド・フィールドがひじょうに上手かったところは、
一旦、両親の和解を描き、映画を必死に落ち着けようし、再び映画の雰囲気を元に戻したことですね。

そしてそこからは、クライマックスへ向けて、再び助走を始めるという構成になっているんですね。

それから、久しぶりにオスカー・ノミネーションを受けたマリサ・トメイも良い。
僕も昔から彼女のファンでしたが、この頃からチョットくたびれた人妻の雰囲気がよく出ている(笑)。
最近でも、『その土曜日、7時58分』とかでも似たような雰囲気の人妻役でしたが、
元々、実力のある女優さんなのですから、もっともっと活躍して欲しいですね。
(個人的には、ロマンティック・コメディのヒロインとかでもっと活躍して欲しかったが...)

映画の後半で母親が通うコーラス隊の練習の後にナタリーが現れ、
母親に話しかけ、無言で聞き流していたものの、思わずナタリーを平手打ちするシーンも印象的で、
これこそ映画でしか表現できない、実に“映画らしい瞬間”だったと思うんですね。
やはりこういう映画にしかできないシーンを作れた作品というのは、とても強いですね。

こういう映画に出会うたびに、キャスティングの重要性を認識させられますね。
おそらく本作はこの3人が配役されていなければ、上手くいっていなかったでしょうね。

但し、最後のまとめ方はもう少し上手くやって欲しかった。
少なくとも、かなり重たいテーマ性を持った作品であったにも関わらず、
突如として性急に映画を終わらせた感はどうしても拭えず、良い意味での余韻が全く無かった。
個人的にはナタリーの存在を最後にもう一度、触れて欲しかったし、「家族」だけの映画という位置づけに
溺れるべきではなかったと思うんですね。もっと複雑な感情を持って、訴求する内容にすべきだったと思います。

そう、この映画、あまり強く訴求するものがなくって、物足りなさがあるんですよね。
急転直下なラストを迎える作品ですから、多少、仕方のない部分はあるのですが、
何か一つでいいので、強く観客の心を突き動かすような、訴求するテーマが欲しかったですね。

ホントにこのクライマックスさえ、もう少し上手くまとめることができていれば、
本作はもっと凄い傑作になっていたであろうと思えるだけに、少し勿体ないのですが、
それ以上に、僕は本作を初めて観た時に、トッド・フィールドという映像作家が誕生したことに、
この上なく楽しみな感情を抱きました。そうなだけに、そろそろグレイト・ムービーの誕生に期待したいですね。

また、このタイトルも巧妙で、息子の部屋に何か大きな秘密があるかと思いきや、
どちらかと言えば、両親の寝室で作られる雰囲気に、大きなポイントがあったんですね。

最後に映画の主題とは関係ないのですが...
どの国でも司法の大きな落とし穴があるんですね。いくらなんでも、あんな程度の裁判で、
明らかに反省が見られない男が、“故殺”扱いで罪が短くなるなんて、誰だって納得できませんって。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 トッド・フィールド
製作 グレアム・リーダー
    ロス・カッツ
    トッド・フィールド
原作 アンドレ・デュバス
脚本 ロバート・フェスティンガー
    トッド・フィールド
撮影 アントニオ・カルヴァッシュ
音楽 トーマス・ニューマン
出演 トム・ウィルキンソン
    シシー・スペーセク
    マリサ・トメイ
    ニック・スタール
    ウィリアム・メイポーザー
    ウィリアム・ワイズ
    セリア・ウェストン
    カレン・アレン

2001年度アカデミー作品賞 ノミネート
2001年度アカデミー主演男優賞(トム・ウィルキンソン) ノミネート
2001年度アカデミー主演女優賞(シシー・スペーセク) ノミネート
2001年度アカデミー助演女優賞(マリサ・トメイ) ノミネート
2001年度アカデミー脚色賞(ロバート・フェスティンガー、トッド・フィールド) ノミネート
2001年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(トム・ウィルキンソン) 受賞
2001年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(シシー・スペーセク) 受賞
2001年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2001年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞(シシー・スペーセク) 受賞
2001年度アメリカ映画協会賞主演女優賞(シシー・スペーセク) 受賞
2001年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞監督賞(トッド・フィールド) 受賞
2001年度フロリダ映画批評家協会賞主演女優賞(シシー・スペーセク) 受賞
2001年度インディペンデント・スピリット賞主演男優賞(トム・ウィルキンソン) 受賞
2001年度インディペンデント・スピリット賞主演女優賞(シシー・スペーセク) 受賞
2001年度ゴールデン・グローブ賞<ドラマ部門>主演女優賞(シシー・スペーセク) 受賞