イン・グッド・カンパニー(2004年アメリカ)

In Good Company

全米でもそこそこ話題となりながらも、日本では何故か劇場未公開扱いで終わったドラマ。

長年、ニューヨークのスポーツ雑誌社の部長として勤務していた51歳のマイホーム・パパが、
会社が大企業に買収されたことをキッカケに、親会社から派遣された26歳の若者の部下として働くことになり、
雑誌社内では経費削減と称した、人員削減(リストラ)を敢行して戸惑う姿を描いています。

この映画の凄いところは、まず一つキャスティングでして、
主演のデニス・クエイドは勿論のこと、彼の18歳の大学生の娘を演じたスカーレット・ヨハンソンといい、
ノー・クレジットですが、親会社の経営者を演じたマルコム・マクダウェルとそれなりの資金力を擁した作品です。

映画の出来としては、そこまで悪くはないと言うか、むしろ優れた仕上がりと言っていいと思う。
あまりに生真面目というか、堅実過ぎる傾向もありますが、ハリウッドお得意のヒューマン・ドラマになっている。
個人的には本作が日本で劇場未公開作品扱いのままスルーされてしまった理由が、ホントによく分かりません。

ポール・ワイツの監督作品としては、随分と真面目でハートウォーミングな仕上がりですが、
本作はサラリーマンとして働くという意味でも、家庭を守る立場という意味でも、とても大切なことを描いていると思う。

本作で描かれる経営者はしきりにシナジー効果を訴えてますが、
M&Aで会社を大きくしていくという発想が主流になってきた昨今にあっては、
グループ企業でシナジー効果を出して、全体で大きなグループとなっていくことはよくあることです。
本作ではグループ企業間のシナジー効果を、時に肯定されないこともあるというニュアンスで描きましたが、
M&Aで企業の経営者が期待することは、シナジー効果を創出するということに他ならないようです。

そのためには健全にシナジー効果を上げられるM&Aを成立させることが
企業の経営者に求められることで、どだいまともにシナジー効果を上げられないケースもあるので、
必ずしもM&Aが成功への道のりであると言い切ることもできないのですが、この辺は経営者の手腕だろう。

企業の経営者は方策を考える立場にはありませんが、
やはり従業員へ道標を示す経営者でなければ、誰もついていくことはないだろう。
規制緩和が進めば進むほど、色々な企業が乱立することになり、生き残り競争が激化してきています。
その中で、こういった道標を適切に示すことができない経営者もいて、企業経営に失敗する事例も多くあります。

これは間違った見識かもしれませんが、
個人的には企業経営者の意識というのも、規制緩和で株式会社が設立し易くなればなるほど、
企業の質の低下は免れないというか、著しく悪質な企業も誕生しうることは否定できないと思います。

それはシナジー効果にしても、あくまで健全なものであればいいのですが、
何が何でもシナジー効果となってしまうと、時に企業はおかしな方向へと進んでしまうことも危惧されます。

映画の原題にもなっている、“グッド・カンパニー”ということですが、
これは経営者にとっての“グッド・パンパニー”、従業員にとっての“グッド・カンパニー”が違うということもあります。
短期的な対処、中長期的な投資、企業には色々な局面がありますから、それぞれの局面で経営者は悩みます。
ただ、これは持論ですが、僕は最終的には経営者は必ず、従業員にとっての“グッド・カンパニー”を
目指さなければならないのだろうと思う。これはどういった企業でも、共通したテーマなのだろうと思います。
企業の大きな意思決定にあたる部分は経営者が行いますが、実質的に企業の原動力は従業員なのですから。

従業員にとっての“グッド・カンパニー”が実現できてこそ、永続的に発展する企業と言えるのでしょう。

企業は常に時代に合ったマーケティングを求められますが、
需要を掘り起こすことは、そう容易いことではありません。色々な手法が開発されて、
かつては無かったことがデータ化されますが、結局は人の心理に依存する部分が大きいのかもしれません。

そうであるがゆえ、時代の進化に合わせるがゆえ、いつしか時代の進化について行くことが目的になり、
むしろ企業として不採算なことをやり続けて、結局、得られるものが極めて少ないという事例もあります。
それは本作でも描かれていますが、いくらネット社会が浸透したとは言え、ネット広告にやたらと投資しても、
目的とする経済効果は得られず、投資過多に悩まされるということも現実には起こり得ます。

まぁ・・・こう言っては、凄く失礼な放しではありますが...
ポール&クリス・ワイツ兄弟の映画で、そこまでシリアスに考え込む必要はないのかもしれませんが、
本当の意味での“グッド・カンパニー”とは何なのか、という大きなテーマについて考える良いキッカケになりますね。

ところで、欧米の企業は実力主義であると言われているが、
本作で26歳の若者が買収先の会社で51歳のオッサンの上司になることが主題になっていましたが、
ナンダカンダ言って、欧米でもこのような事例は少しばかり奇異な出来事として捉えられているのかもしれませんね。
あり得ることだとは思うのですが、やはり現実レベルで考えると、お互いに結構やりづらいでしょうね(笑)。

特に51歳のオッサンも、別に社会人としての能力が無かったわけでもなく、
前身の会社ではそこそこの地位を与えられ、誇りを持って働いていたとすると、
それなりにプライドがあるだろうし、社会人としての経験も26歳に負けるということはないかもしれない。

経験が全てとまでは言いませんが、やはり経験に優るものって、実に数少ないと思うんですよね。

「過去」に囚われていては、「未来」を作ることはできませんが、
「過去」があってこそ「今」があるわけで、そこから「未来」を築くということには変わりありませんから、
「過去」に学べない人間に、「未来」はないと僕は思うんですよね。だからこそ、こういうシチュエーションは難しい。

お互いに認め合って、歩み寄れるからこそ、良い仕事ができる環境が整うわけで、
言ってしまえば、オッサンの上司となる26歳の若者も、上司である以上は部下に良い仕事ができる環境を
与えなければなりません。特に社会人としてある程度、成長しているはずの51歳のオッサンが部下であれば尚更。

そういう難しさも、本作を観て、痛感させられましたねぇ。
おそらく、こういったことが日常的になる社会が、もうそこまで来ているのでしょうから。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ポール・ワイツ
製作 ポール・ワイツ
   クリス・ワイツ
脚本 ポール・ワイツ
撮影 レミ・アデファラシン
編集 マイロン・I・カースタイン
音楽 スティーブン・トラスク
出演 デニス・クエイド
   トファー・グレイス
   スカーレット・ヨハンソン
   マーグ・ヘルゲンバーガー
   デビッド・ペイマー
   クラーク・グレッグ
   フィリップ・ベイカー・ホール
   セルマ・ブレア
   フランキー・フェイソン
   タイ・バーレル
   コリーン・キャンプ
   マルコム・マクダウェル