イン・アメリカ/小さな三つの願いごと(2002年アイルランド・イギリス合作)

In America

『マイ・レフトフット』などでハリウッドでも成功を収めたアイルランド出身のジム・シェリダンによる、
自伝的内容の映画化で、自身の家族を連れてアメリカへ移住した際の経験談を交えている。

そう派手にブチかましてくれた映画というわけでも、
正直言って、ひじょうに優れた作品というほどでもないのですが、ひじょうに手堅い映画ですね。
時間そのものは短いけれども、ジャイモン・ハンソウ演じるマテオとのエピソードはなかなか胸に迫るものがある。
露骨に観客の涙を求める類いの映画ではないと思いますが、それなりの訴求力を持っていますね。

細部にわたって、気の配られた良い演出だし、僕にとっては好感の持てる映画でしたね。

全米では当初、さほどヒットする見込みのない作品であるかのように扱われていたものの、
上映が始まった途端に、評論化筋の高評価を得て、徐々に上映規模を拡大させていきました。
おそらく本作はジム・シェリダンが故国アイルランドから家族を連れてアメリカへ渡ってきた頃の実体験と
推察されますが、将来が確約されていないどころか、現状の生活もままならない不安定さが、
主人公家族の根底に存在しながらも、(例え表向きだけであっても...)前向きに頑張る姿が眩しいですね。

まぁお世辞にも家族の父親であるジョニーは褒められた男ではないと思う。
不治の病により失った息子が心の中にいて、2人の幼い娘と気丈な妻との3人暮らしながらも、
アイルランドでの生活を捨て、俳優としての成功を夢見てニューヨークへ渡って来る。
しかし、別に経済的な当てがあったわけでもなく、住居として選んだのはスラム街の汚いアパート。
ジャンキーやヤクの売人が公然と出入りし、夜も物騒な絵に描いたような危険地帯である。

ニューヨークでのオーディションにも受からず、家賃や子供たちの学費の捻出も難しい中、
立ち寄ったお祭りのゲームコーナーで「子供への面子のため」と言い、多額の現金を散財する。
申し訳ないけど、家族を養う主(あるじ)としての自覚が備わっているとは、お世辞にも言い難い。

ただ、それでも彼らのキャラクターが魅力的に映っているのは、日々の生活に必死な彼らの健気さゆえだ。
ジム・シェリダンのこのビジョンは映画を撮る上で、決して間違ったビジョンではなかったと思いますね。
彼自身、本作の脚本を実の2人の娘と一緒に書き上げたらしく、彼らなりの愛着があってのシナリオだろう。

えてして、こういう私的感情の強い映画というのは感傷的な内容に陥りがちなんだけど、
本作はそういう感じではなくって、むしろ映画にこめられたメッセージとして前向きなのが抜群に良い。
その前向きさというは、ラストの月に向かってマテオにお別れを言うシーンに象徴されていますね。
確かに父親のジョニーはまだ心に引きずりながらも泣きながら「さよなら」と言っているように見えますが、
それまでの彼ならば言うことができなかった台詞なだけに、これはこれで一つの進歩と言えると思いますね。
(結局は子供たちの方が強かったというわけなのですが。。。)

やたらとナレーションを使う映画には賛同できないんだけど、
一目瞭然のことを言えば、長女をストーリーテラーとして起用した映画として、このナレーションは悪くないと思う。

そして本作で何度も登場してくる不治の病で他界したフランキーの存在が、
映画の最後でビデオカメラに映る映像として登場してくるのには好感が持てる。
こういう形で紹介された人物の多くが、映画の中では映像として紹介されないケースが多く、
「どんな子だったのだろうか?」と疑問に思う心を満たしてくれないことが多いですからねぇ。

確かに映画を最後まで観終わってないと、冷静に評価できないところだけど、
本作の場合はフランキーを映像として紹介して、正解だったと思いますね。

それにしても幼い娘たちがカワイイなぁ〜(笑)。
特に次女のアリエルがジム・シェリダン自身、「まるで天使のようだ」と語った気持ちがよく分かる。
どうやら本作の後、本作的に子役として映画界で活躍するようになったらしいですね。
そんな展開も思わず期待しちゃうぐらいのインパクトある、可愛らしい存在でしたね。

まぁ主人公家族のやってることは明らかな回り道かもしれない。
けれども、彼らがニューヨークで成功して幸せな生活を手にするために必要な回り道であったことを、
この映画は建設的に積み上げていると思いました。それは前述した父親が長女に問われ、
涙ながらに「さよなら、フランキー...」と言うシーンに凝縮されています。
この回り道が無ければ、彼にはほぼ間違いなく言えなかった台詞であったはずと思います。

惜しむらくは、本作で異彩を放つ存在感としてマテオを演じたジャイモン・ハンスウが評価されましたが、
彼自身のキャラクターに関しては残念ながら掘り下げが甘いことは否めず、もっと掘り下げるべきだったことだ。

確かにラスト、彼にお別れをするシーンは感動的で映画に十分に訴求力を持たすことができた一方で、
主人公家族がマテオと交流を深める描写が不足していて、彼らの感情が高ぶることに対する、
今一つ説得力に欠けることが、本作にとってはたいへん勿体ない欠落だと言わざるをえない。

とは言え、出色の出来と言っても過言ではない作品であることは確かであり、十分に価値のある作品だと思う。
こういう映画は他国から渡ってきた過去のある人にしか撮れない作品かもしれませんね。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジム・シェリダン
製作 アーサー・ラッピン
    ジム・シェリダン
脚本 ジム・シェリダン
    ナオミ・シェリダン
    カーステン・シェリダン
撮影 デクラン・クイン
美術 マーク・ジェラティ
衣装 エイマー・ニ・マオルドムネイ
音楽 ギャビン・フライデー
    モーリス・シーザー
出演 サマンサ・モートン
    パティ・コンシダイン
    ジャイモン・ハンスウ
    サラ・ボルジャー
    エマ・ボルジャー
    ニール・ジョーンズ

2003年度アカデミー主演女優賞(サマンサ・モートン) ノミネート
2003年度アカデミー助演男優賞(ジャイモン・ハンスウ) ノミネート
2003年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジム・シェリダン、ナオミ・シェリダン、カーステン・シェリダン) ノミネート
2003年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞脚本賞(ジム・シェリダン、ナオミ・シェリダン、カーステン・シェリダン) 受賞
2003年度サンディエゴ映画批評家協会賞助演男優賞(ジャイモン・ハンスウ) 受賞
2003年度フェニックス映画批評家協会賞脚本賞(ジム・シェリダン、ナオミ・シェリダン、カーステン・シェリダン) 受賞
2003年度フェニックス映画批評家協会賞主題歌賞(U2) 受賞
2003年度アイオワ映画批評家協会賞助演女優賞(サラ・ボルジャー、エマ・ボルジャー) 受賞
2003年度インディペンデント・スピリット賞助演男優賞(ジャイモン・ハンスウ) 受賞
2003年度インディペンデント・スピリット賞撮影賞(デクラン・クイン) 受賞