イン&アウト(1997年アメリカ)

In & Out

平穏な田舎町グリーンリーフのある高校教師ハワード・ブラケットが、
自慢の教え子であり、今はときめくハリウッド・スターとなったキャメロン・ドレイクが
アカデミー賞を受賞しスピーチで「ハワード先生はゲイだ」と根も葉もないコメントをされたことにより、
マスコミが大挙して押し寄せ、自身の結婚式までメチャクチャになってしまう様子を描いた、
『ワンダとダイヤと優しい奴ら』のケビン・クライン主演によるコメディ映画。

まずまず楽しめる映画だとは思います。
しかしながら、やや甘い話しの運びが、映画の面白さを削いでしまっている感が拭えないですね。

コメディ映画としては及第点だろう。半ばケビン・クラインに助けられている。
特に映画の途中にある、“男を磨くテープ”に翻弄される彼の姿は面白くてたまらなかった。
ただ彼と、ゲイのテレビ・リポーター、ピーター・マロイを演じたトム・セレックの怪演ぐらいしか目立たない。
2人のキスシーンなんて正直、観たくはなかったけれども(苦笑)、
彼らが頑張らなかったら、更に悲惨な出来になっていたかもしれません。

それぐらいにディレクターの個性が感じられない映画になってしまっているのです。
オマケに前述の通り、ストーリーに弱さがある。

品のある演出に努めていますが、個人的にはこのストーリーならば、
もっと動きのある演出にして欲しかったと思うし、何より全体のボリュームが薄いので、
観終わった後は、何だか物足りなさが残ってしまったのが残念でしたね。

実際にアカデミー賞にノミネートされたハワードの恋人を演じたジョアン・キューザックは
相変わらずのコメディエンヌっぷりですが、チョット扱いが悪くって可哀想だったなぁ。
いくらなんでも、道路に出て「アタシは男性欠乏症よォ〜!」と叫ばせることはないだろう。

まぁ上映時間の短さが、良くも悪くも映画をタイトに締め上げていますね。
個人的にはもう少し話しを膨らませても良かったかなぁと思います。
と言うのも、後日談も少しあっても良かったと思うし、それ以前にもう少し練って欲しい。
コメディ・パートをもっと引っ張っても良かったと思いますねぇ。

監督がフランク・オズなわけで、彼は何本かコメディ映画の監督をやってますからね、
もうチョット映画を盛り上げることができたと思うんですよね。
なんだか全体的に無駄を削ごうとし過ぎて、小じんまりとし過ぎた感が強いですね。
だからもっと膨らませれば、映画に厚みも出ただろうし、商業的にも成功したかもしれません。
それだけの要素がある作品なだけに、実に勿体ないんですよねぇ〜。

まぁその短さを利用してか、テンポの良い映画になっていたのは良かったですね。
特にもたつくエピソードも無く、サクサクと映画が進んでいくのには好感が持てました。

僕は映画のオチの付け方が納得いきませんでしたね。
まぁ不当とも言える学校の処遇に不満を感じた地域住民や生徒たちから、
強烈なアンチテーゼを提示されて、学校側がそれに屈するという構図を描きたいわけなのですが、
どうしても僕もいけないのですが...ああいったシーンは現実と照らし合わせて考えてしまいますからね。

まぁ端的に言えば、あんなもんで屈するほど、頑固者(学校)の決意は弱くないだろうと思うわけですよ。
映画で描かれた問題を決着させるには、あまりに弱いオチだと思うんですよね。

そもそもこの映画のアイデアは93年度のアカデミー賞で主演男優賞を『フィラデルフィア』で受賞した
トム・ハンクスのスピーチにあるそうで、彼の高校時代の恩師に感謝のコメントをしたそうで、
その高校教師は自分がゲイであることをカミングアウトしているとか。

この問題となるアカデミー授賞式のシーンはかなり本格的に作られていて笑える。
まるで実際の授賞式会場のようだ。主演男優賞にノミネートされたキャメロン・ドレイクの主演作である
『To Serve And Protect』(ゲイに生まれて)の劇中シーンに始まり、自身の役でゲスト出演した
プレゼンターを務めるグレン・クローズがキャメロン以外のノミニーの一覧を
『くそじじい』のポール・ニューマン、『おいぼれ』のクリント・イーストウッド、
『悪あがき』のマイケル・ダグラス、『沈黙の変態』のスティーブン・セガールを紹介。

密かにマイケル・ダグラスには実際に87年の『危険な情事』で過激なラブシーンを演じた縁もあってか、
笑顔で投げキッスを送るという細かな皮肉を入れるという、芸の細かさ。

まぁ映画好きなら、より一層楽しめるギャグが多いのですが、
いずれにしてもゲラゲラと笑える類いのコメディではないところが、評価の分かれどころでしょうね。
悪く言ってしまえば、何だか内輪を皮肉って、内輪で笑い合ってるような内容であることは否定できません。

「意識すればするほどヤバくなる」、正にそんな内容の映画でしたが、
それにしても結婚式で新郎が「ボクはゲイだ」なんて告白されたら、そりゃ誰だって驚きますわな(笑)。

(上映時間90分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 フランク・オズ
製作 スコット・ルーディン
脚本 ポール・ラドニック
撮影 ロブ・ハーン
音楽 マーク・シェイマン
出演 ケビン・クライン
    ジョアン・キューザック
    マット・ディロン
    トム・セレック
    デビー・レイノルズ
    ウィルフォード・ブリムリー
    ボブ・ニューハート

1997年度アカデミー主演女優賞(ジョアン・キューザック) ノミネート
1997年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(ジョアン・キューザック) 受賞