クローン(2001年アメリカ)

Impostor

これは思わず、笑っちゃうようなラストだったのですが、
かの有名なフィリップ・K・ディックの原作通りなんですね。やや“二段落ち”風にアレンジはしているようですが・・・。

監督は『コレクター』のゲイリー・フレダー。
まぁ個人的には、お世辞にも演出が上手いディレクターだとは思わないし、
物語の構成力もそこまで高くはないと思っているのですが、本作もどことなくチープな雰囲気が漂います。
やはり今回も原作の空気はそこそこ吹き込めているのかもしれませんが、映画的には驚くほどでもありません。

特殊効果やCGも大々的に採用していますから、
製作費もかなりの高額を要した企画だったのですが、アメリカはじめ世界各国で不入りだったため、
かなりの赤字を残してしまった作品となってしまったのですが、僕は一つだけ感心したことがありますね。

それは、前述したフィリップ・K・ディック原作のストーリーを踏襲したことで、
クライマックスの“二段落ち”では、まるで本作の作り手がヤケになったかのように畳み掛けたことですね。
さすがに僕が観る前には到底、予想できなかったオチだったのですが、この力業を押し通したことは
妙な下心を見せて、ラストにドンデン返しを連続させるような昨今の映画界の中で、良い意味での驚きでしたね。
(ゲイリー・フレダーは『コレクター』でこじつけめいたドンデン返しを付けただけに、汚名返上かな)

ただ、やっぱりこの人、基本的には上手くない(笑)。
本作にしても、色々と伏線を張り巡らせて、特徴的なラストを作ったにも関わらず、
このラストの展開に驚愕させられたというより、思わず笑っちゃうような展開になってしまったのは残念ですね。

ゲイリー・シニーズが製作も兼務するなど、かなりノリノリで進んだ企画みたいですが、
フィリップ・K・ディック原作の映画化ということもあり、おそらく映画化したがる人はいっぱいいるのでしょうね。

但し、フィリップ・K・ディックの熱心なファンからは、本作に対する評価は悪くなく、
例えば、02年の『マイノリティ・リポート』よりも原作の世界観を上手く表現できているようで、
ゲイリー・フレダーとゲイリー・シニーズのビジョンは決して間違ってはいなかったようなので、
個人的にはあくまで映画的な内容にするという意味で、決して上手い演出とは言えなかったという感じですね。

おそらく終始、ダークな調子で映画の空気を構成できたことが、
フィリップ・K・ディック原作の世界観を表現できたことにつながったのでしょうが、
もう少し映画的な内容にするために、全体的にもっと起伏を付けた方が良かったと思うんですよね。
ずーっと、同じダークな調子で映画が進むものですから、どうも本来的にはスリリングであるはずの
主人公の追跡劇もあまり緊張感が高まることなく、比較的、ローなテンションで進んでしまったのが残念ですね。
(まぁ・・・原作のファンにとっては、それが良かったのかもしれませんがね。。。)

この映画の大きなミソは、“自分で自分がニセ者かどうか分からない”ということ。
主人公が偽物疑惑がかけられて、逮捕拘束されたことから、何とか逃走しようと目論むのですが、
いざ逃走しても、逮捕拘束されたときに注射された麻薬のせいで、幻覚を見ながら苦しみます。

しかし、彼はあまりに急激に追い込まれた窮地に困惑し、
麻薬による幻覚の作用もあってか、自分で自分の正体がよく分からなくなってしまいます。
これを観客にも体感させた上で、映画を進めたのは正解で、確かに先の読みづらい映画にはなっていますね。

但し、僕の中で物足りなさが残ってしまったのは、
そういう先の読みづらい映画になっていた割りには、ラストのドンデン返しがお粗末に見えたことですね。
おそらく作り手は、一気に畳み掛けるために、このような急転直下なラストを選択したのでしょうが、
これがどうも僕には性急な処理に見えてしまって、もっと落ち着いて撮れば良かったのに・・・と思いましたけどね。

あと、もう一点はビンセント・ドノフリオ演じる捜査官をもっとしっかり描いて欲しかったことですね。
劇中、彼は上司から捜査ミスを叱責されたりするシーンがあり、仕事の質があまり高くはないことを
示唆しているのですが、こういった点は省略せずに、もっとしっかりと描くべきだったと思いますね。
でなければ、クライマックスでの彼の言動に説得力や納得性が生まれてこないんですよね。

ゲイリー・フレダーって、他作品を観ていても同じようなことを感じるのですが、
もう少し映画全体を考えて、各エピソードを構成することに気を配ることができれば、
もっともっと面白いサスペンス映画を撮れそうな気がするんですけどね。今のままでは、どこか片手落ちって感じ。

ちなみに邦題から察するにクローン人間がテーマなのかと思いきや、
原題は「ペテン師、詐欺師」という意味で、確かに正確にはクローン人間ではない。
誰が勝手にこんな邦題を付けたのかと憤慨したくなるのですが、日本の配給会社もよく考えて欲しいですね。
これはもっと他に適切な邦題があったはずだし、本編を観れば、すぐにこの邦題に違和感を覚えるはずです。

それにしても、主人公の妻を演じたマデリーン・ストーは相変わらずキレイな女優さんですね。
90年代前半ぐらいまでは、比較的、規模の大きな映画にも出演していたのですが、
本作あたりから、ハリウッドではあまり目立たない存在になってしまったようで、なんだか残念ですね。

どうやら最近はテレビドラマに活躍の舞台を移したようで、
2011年からのテレビシリーズ『リベンジ』に出演して、高い評価を得たようですが、
近年は女優業よりも映画をプロデュースする仕事に興味が傾いていると記事になっていました。

しかしながら、50代を迎えて尚、その美貌は健在なようですので、
是非ともまだまだスクリーンの世界でも頑張って欲しい女優さんの一人なんですがねぇ〜。

まぁ・・・そういう意味で、本作ももう少し彼女を積極的に登場させて欲しかったんですがねぇ。。。

(上映時間102分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ゲイリー・フレダー
製作 ゲイリー・フレダー
    マーティ・カッツ
    ゲイリー・シニーズ
原作 フィリップ・K・ディック
脚本 キャロライン・ケイス
    アーレン・クルーガー
    デビッド・トゥーヒー
撮影 ロバート・エルスウィット
音楽 マーク・アイシャム
出演 ゲイリー・シニーズ
    マデリーン・ストー
    ビンセント・ドノフリオ
    トニー・シャルーブ
    ティム・ギニー
    リンゼイ・クローズ