アイ,ロボット(2004年アメリカ)

I, Robot

人気SF小説家、アイザック・アシモフが描いた近未来サスペンス。

映画は2035年、家庭向けロボットが大量生産され、一般家庭でもロボットが使われ、
環境保護や安全性の観点から、車は全てがオートパイロット、ガソリンは燃料として使われない、
全てがタッチパネルで操作される時代という前提で、2035年という未来が描かれています。

僕にとって、2004年って、ついこの前の話しという感覚だし、
当時、大学4年生でしたが、本作はそれなりに期待されて劇場公開されるメジャー作品でした。

ただ、僕は観る前の勝手な先入観もあってか、
正直言って、本作はそこまで期待していた作品ではなく、積極的に観たいとも思っていませんでした。

いざ、劇場公開から数年が経過して、本作を観る機会があったので鑑賞したところ、
思いのほか、しっかりと良く出来た映画に仕上がっていて、もっと早く観るべきであったと後悔すらしました。
起承転結もハッキリとしていて、映画全体のテンポも良く、それなりに充実したアクションもあって楽しませてくれる。

当時はウィル・スミスもハリウッドを代表するスター俳優になっていましたし、
ハリウッドのプロダクションお得意のVFXバリバリの、視覚技術に頼ったSF映画かなぁくらいにしか、
思っていませんでしたが、これは単なるイベント映画というわけではなく、しっかりと中身のある映画だ。

アイザック・アシモフは数多くの著作の中で、ロボットを登場させており、
本作で描かれていますが、人工知能を搭載したロボットが、もしも人間のように感情を持つようになったら・・・
という仮定で、自身の小説を構成していたことがありました。それら著作の中で、彼が提唱していたのは、
かの有名な“ロボット工学三原則”というやつでして、これが彼の小説のキー・ポイントであることが多い。

1.ロボットは人間に危害を加えてはならない。
2.ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。
3.ロボットは1〜2に反する恐れがない限り、ロボット自身も守らなければならない。

本作で描かれた未来では、例えば、「オレを殺せ!」と言われたときに
生じる論理的矛盾をつくということが論点になっていて、映画でもその原則をしっかり踏襲しています。

ロボットは古くから研究対象で、いち早い応用技術化が望まれていましたが、
思いのほか進展が早いとまでは言い切れません。得てして、技術進展の速かった分野というのは、
行き詰まるまでの速度も速く、分野全体が廃れてしまうリスクも高まってしまいますので、
そこは難しいところかと思いますが、例えば介護ロボットなどは少なくとも20年前には、
その実用化のトピックスは既に出ていたはずですが、未だ一般化された状態とは言い難く、
少なくとも本作で描かれたような2035年を迎えることは、かなり難しいと考えられるのが現状です。

それだけロボットの技術というのは、ゆっくりと醸成されてきていると捉えれば、
“花が咲く”時代になれば、目覚ましい進展を遂げることになるのかもしれず、期待したいところです。

特に日本は超高齢化社会と言われており、これからは労働者人口が減る一方です。
昨今は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受けて、また情勢が変化してますが、
例えばリクルートの状況などは、2010年くらいを境にして、一気に日本では引く手あまたの状況に変化しました。

それは団塊の世代が労働者人口から抜け、定年延長、70歳代の就労人口の増加があれど、
それでも追いつけないほど、労働者不足のベクトルに加速しながら、日本は進んでいます。

よく話題になりますが、(外国人)実習生にしても郡部では制度を使わないと、会社がもちません。
人手不足、後継者不足による“黒字倒産”も目をつくようになり、特に製造業の分野では
今後はロボットなど機械化を大胆に進められない企業は、生き残っていけないだろうという見方もあります。
要するに、“人間でなければならない仕事”は人間に、“人間でなくともできる仕事”は機械に任せようということです。

単純作業や危険作業などはしっかりとメンテナンスさえすれば、機械の方が得意な場合もありますからねぇ。
しかし、これら機械化の組み合わせも一つの技術であり、その管理をするのは人間であるということです。
本作で描かれたように、ロボットが人間を超えて活動し始める社会になると、大変な社会になる懸念があります。
(最も心配なのは、便利さ・危険リスク回避にかまけて、何もできない人間が量産されることですが・・・)

本作ではUSロボティクス社という巨大企業のロボット製品が登場しますが、
これらロボット製品の中枢機能を有する“ヴィキ”と呼ばれる、人工知能が描かれます。

よく、こういう中枢となる人工知能がSF映画で登場してくることが多いのですが、
これはこれでアイザック・アシモフの発想なので仕方ありませんが、AI(人工知能)の現実での使い方は
こういった大型の中枢に据えるというよりも、最近は検査装置だとか選別装置でAIの導入が目立ちますね。
いわゆる「学習」していくという機能は、必ずしも“0か1”ではない世界で必要なコンテンツなんですよね。

こういった現実世界での流れは、しばらくは変わらないのではないかと思っています。

映画としては、そんなUSロボティクス社に勤務する、
技術者でありカウンセラー的存在でもある女性として、ブリジット・モイナハンが出演してますが、
本作の中では彼女が存在感あって良い。ウィル・スミスにしても同様ですが、
本作はCGで表現された、ロボット相手のアクションということもあって、凄く難しかったと思う。
そんな中でも、ロボットに個人的感情を寄せながらも、主人公の疑念を理解していく姿を上手く演じています。

ブリジット・モイナハンはこの頃、何本か規模の大きな映画に出演するチャンスを
得ているのですが、エージェントが悪かったのか、半ば“添え物”のようにしか扱われない作品が多く、
ハリウッド女優としてブレイクすることはできませんでしたが、本作では十分に見せ場が用意されています。

どちらかと言えば、優等生的な映画ではありますが、
凡百のハリウッド映画に埋もれてしまうのは、チョット勿体ないと思えるくらい、面白い作品だと思います。
おそらく監督のアレックス・プロヤスのアプローチ自体も、とっても良いものだったのでしょう。

そういえば、最近は医療の世界でもロボットの導入が進んでいますけど、
医療用ロボットを映画の題材としたら、なんか面白い映画が撮れそうですねぇ〜。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 アレックス・プロヤス
製作 ジョン・デービス
   ウィック・ゴッドフレイ
   トファー・ダウ
   ローレンス・マーク
原作 アイザック・アシモフ
原案 ジェフ・ヴィンター
脚本 アキヴァ・ゴールズマン
   ジェフ・ヴィンター
撮影 サイモン・ダガン
音楽 マルコ・ベラトルミ
出演 ウィル・スミス
   ブリジット・モイナハン
   ブルース・グリーンウッド
   チ・マクブライド
   アラン・テュディック
   ジェームズ・クロムウェル
   シャイア・ラブーフ

2004年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート