殺したいほどアイ・ラブ・ユー(1990年アメリカ)

I Love You To Death

これは地味な映画ですが、ジワジワと面白さが伝わってくるコメディ映画だ。

どうやら1984年に実際に起こった事件をモデルにした映画のようで、
80年代後半は大活躍だったローレンス・カスダンの監督作品ですが、その中でも本作は地味な作品ですね。

ローレンス・カスダンの監督作品の常連であるケビン・クラインが主演なのですが、
本作はほぼ『ワンダとダイヤと優しい奴ら』で演じたオットーと同じような役づくりをしていて、
ルックスも全く一緒なので、思わずオットーのキャラクターだけ抜き取ったスピンオフなのかと思ったくらいだ。
やっぱりこういうコメディ映画で、押しの強いキャラクターを演じさせたら、ケビン・クラインの右に出る者はいない。

映画は繁盛するピザ屋を夫婦経営する夫婦を主人公として、
一見すると近所の世話焼きをしている旦那に見えて、実は片っ端から妻以外の女性と肉体関係を結んで、
浮気しまくっているという事実に気付いた妻が、怒りと失望から母親と共謀して旦那を殺そうと決意するも、
いろんな手を尽くしても旦那が死なず、ついには警察が自宅に踏み込んでくる姿を描いています。

主人公の旦那は、イタリア男で家庭では亭主関白で、妻になんでも命令しまくる嫌な性格。
そんな旦那でも「店では働きまくってくれてるから・・・」と、そんな横暴にも我慢する妻という構図。

ケビン・クライン演じる旦那は見るからに軽薄な感じなのですが、
それを全く不審に思わず、店のアルバイトからの忠告も聞かずに、健気に旦那を信じた結果の裏切りはキツい・・・。

そこで多量の睡眠薬を、何故か夕食に食べるスパゲティにかけるトマトソースに
溶かすという発想を思いついて実行するのですが、薬の溶け具合が悪かったのか成分が反応したのか、
思いのほか睡眠薬としての効果が遅行で、なかなか薬の効き目が現れないというのが、なんだか面白い。

異常なまでの食欲で、トマトソースを大量に消費した結果、
ようやっと昏倒したかのように「気分が悪い・・・」と言って、深い深い眠りにつく。
それからは、店のアルバイトが手引きした、麻薬中毒者コンビなども入り乱れての騒動になるのですが、
結局は深い深い眠りについた旦那に致命傷を負わすことができず、なんだか妻には情も沸いてきます。

結局、この旦那の日頃の振る舞いの悪さ、浮気性な性格に一番、辛らつな反応をしたのが、
映画の終盤にチョイ役で登場してきた、この旦那の実の母親だったというのが、素晴らしいオチだ。

結局、コメディ映画にカテゴリーされますけど、映画は次から次へとギャグを繰り出すわけでも、
コミカルなシーンが連続するわけでも、映画のテンポが強烈に速いわけでもなく、独特なペースの作品です。
それでも、どこかクセになるような味わいのある作品で、最近はこういう映画が減ったなぁ〜と実感しています。

悪い言い方をすれば、本作のローレンス・カスダンは無難に仕上げましたが、
こういうい手堅い仕事をできるディレクターというのも、ハリウッドでもそう多くはないのに、
彼は94年のケビン・コスナー主演でチャレンジした西部劇の大作『ワイアット・アープ』が興行的に失敗し、
あまり積極的に映画を撮らなくなってしまった印象で、脚本家に戻ってしまったのかもしれません。

思えば、『スター・ウォーズ』シリーズや、『インディ・ジョーンズ』シリーズに関わっていた脚本家だったので、
大きなリスクを負って、無理してまで自分で映画を撮る必要はないと考えているのかもしれませんね。
個人的にはシンプルなドラマ、コメディといったジャンルでは手堅い仕事ができるので、まだ撮って欲しいのですが・・・。

それから、映画の中盤にケビン・クラインが夜のディスコに出かけて、
女性をナンパするシーンで、そのナンパ相手が懐かしのフィービー・ケイツというのが、なんとも嬉しい(笑)。

いや、この時の口説き文句がなかなかニクい口説きっぷりで、
口八丁手八丁に、なんとかナンパして“モノ”にしようとする必死さに感銘を受けたのですが(笑)、
ナンパ相手のフィービー・ケイツはケビン・クラインの実生活での妻というのが、またなんとも・・・(笑)。
既にこの頃、フィービー・ケイツは仕事をセーブして、女優業から遠ざかりつつある時期でしたので、貴重な作品だ。

しっかし、敢えて言いますけどね...
この映画のラストを観れば分かりますけど、なかなか人って変われないので、
元来、浮気性なこの亭主は映画の中で描かれた出来事で、どれくらい変われるかは微妙なところだと思う。

そりゃ、最初の何年間は大丈夫でしょうね(笑)。
ただ、何年も経ってからでも、何かがキッカケとなって“思い出して”しまうかもしれません。
「〜かもしれない」と言ったらキリがないですが、浮気性に関してはなかなか、そう簡単には治らないでしょう。

タイトル通り、「殺したいほどアイ・ラブ・ユー」ということが分かって、
初めて何かを感じるということもあるとは思いますが、調子の良いキャラクターだったら、まだ何をしでかすか・・・。
(そういう意味では本作、ヒットしていればその後の夫婦を描くということで、続編もありえたのかもしれません)

今は亡きリバー・フェニックスが、店のアルバイトの若者として出演しているのも注目だ。
この若者が、トレイシー・ウルマン演じる妻に恋焦がれるという設定も、なんだか無理があるけど面白い。

分かりづらいが、そのリバー・フェニックスが手引きする麻薬中毒者2人として、
ウィリアム・ハートと、若き日のキアヌ・リーブスというのもスゴいキャストだ。一瞬、誰だか分からないけど(苦笑)。
そういう意味では、今になって観てみると、この映画のキャスティングは驚くほどに豪華でしたね。

まぁ・・・旦那がなかなか死なないと言っても、別に人間離れしたことを描いているわけではありません。
本作の解説の中には、「強靭な体力のおかげで死なない・・・」みたいな説明も読みましたが、
本作はそうではなく、殺すにあたって“詰め”の甘いことばかりで、なかなか殺せなかったというのが実のところ。
そうなだけに、現実に起こった事件なのであれば尚更、人の命は重いことの裏返しかとも思います。

ブラック・ユーモアですから、これはこれで賛否分かれる内容かとは思いますが、
僕はこの映画、なかなか良い出来と思いますし、手堅いと思えるくらいの安定感ある作品と思います。
描かれることのメチャクチャさの割りには、映画の骨格自体は全く崩れることなく進んでいきます。
これは作り手の力量の高さとも言えることで、キャスト依存型の映画というわけでもないと思います。

ピザ屋の旦那は、ユーゴスラビア出身という義理の母親とも暮らしているわけですが、
やたらと義理の母親を敵視していて、こんな人間関係で義理の母親との同居が成り立つのが不思議だ(笑)。

しかも、家族でレストランに行って、そこで罵り合いのケンカになるシーンは面白い。
お互いに好き勝手に母国語で文句言い合うなんて、赤の他人が見れば、家族とは思えない迫力だ。
それでも同居するというのだから、いくら義理の家族とは言え、そうとうな覚悟のいる空気感だと思う。
それがストレスなのか何なのかよく分かりませんが、そんな家庭環境で堂々と浮気するイタリア男の厚かましさ。

道義的なことを言えば、浮気はダメだし、浮気されたからと言って、殺すのもダメ。
でも、この映画はブラック・コメディとして、そんなことを言っていては始まりません。
賛否はあると思いますが、前情報をある程度入れて、興味がある人はそこそこハマれる一作だと思う。

(上映時間97分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ローレンス・カスダン
製作 ジェフリー・ルーソー
   ロン・モーラー
脚本 ジョン・コストメイヤー
撮影 オーウェン・ロイズマン
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 ケビン・クライン
   トレイシー・ウルマン
   リバー・フェニックス
   ウィリアム・ハート
   ジョアン・プローライト
   キアヌ・リーブス
   ジェームズ・ギャモン
   ヴィクトリア・ジャクソン
   ヘザー・グレアム
   フィービー・ケイツ
   シェリル・リー