フィリップ、きみを愛してる!(2009年フランス)

I Love You Phillip Morris

実際に発生した事件をモデルに、
ウソで塗り固めた人生を送った挙句、終身刑が言い渡されたスティーブン・ラッセルの物語を、
彼が愛を捧げたフィリップという男性との恋愛を中心的に描いた、異色のサスペンス・コメディ。

リュック・ベッソンが製作総指揮を担当したことから分かるように、
実は本作、ハリウッドではなくフランスのプロダクションが資金提供した企画なのです。

但し、映画の舞台は主にテキサス州ということで、
彼が最終的に終身刑を言い渡した裁判所と知事も、テキサス州というわけで、勿論、アメリカだ。

まぁさすがにこれが実話だというのには驚いたし、
ユニークなストーリー展開であることは認めるけど、映画としての出来は及第点レヴェルかな。
特に映画の前半は、やたらとハイテンションでグングン、観客を引っ張っていくのが印象的でしたが、
映画の終盤の展開にはやや納得性が欠け、クライマックスもテロップではなく、キチンと描いて欲しかった。

ジム・キャリーも持ち味のハイテンションな芝居を活かしながらも、
今回はゲイという設定と、少しだけシリアスな空気を見事に表現しており、今までありそうで無かった内容です。

が、この映画はアイデアやストーリーの奇抜さに少し溺れてしまった部分があると思う。
と言うのも、この映画を観終わって、最も強く感じたことなのですが、本作の作り手が一番、
どこにフォーカスしたかったのか、イマイチよく分からない内容に陥ってしまっており、これは実に勿体ない。
スティーブンの妻や子供の描き方にしても中途半端で、どうせなら最後まで絡んで欲しかったところ。

それともう一点、どうしても指摘したくなる部分があって...
映画の大きなキー・ポイントとなる、スティーブンの小芝居なのですが、
最後の最後に彼が刑務所で討つ大博打については、いくらなんでも無理があると言わざるをえない。

と言うのも、いくらなんでもあそこまで上手くいくわけないでしょ!?(笑)
いや、これはあくまで映画の話しだから、非現実的であるとか、そういった観点ではなくって、
本作はあんなにいとも簡単に上手く、コトが運べてしまうというセオリーが納得性を持って、
描けていないという点で、いくらなんでもエイズの検査はもっとしっかりやるだろとツッコミを入れたくなります。

僕はやはり、本作にとってこういう粗(あら)は致命的ですらあると思うのです。
もっとスティーブンが幸運にも狙い通りに計画を実行に移せてしまう、彼の運の良さをしっかり描いて欲しい。
IQが凄く高いという設定らしいのですが、そんな彼の知能の高さにしても中途半端で、これでは伝わらない。

もっとも、本来的には彼が大会社でその能力をかわれて評価を上げていくというセオリーなのですが、
その肝心かなめなプレゼンテーションの部分も、消音にして省略してしまうというのはいただけません。

僕はこういうのは映画の納得性を高める上で、とても重要なシーンだから、省略すべきではないと思いますね。

確かに省略の技法って、時に凄い効果を得るのですが、この省略を上手く使えるか否かで、
その作り手の手腕が分かってしまうんですよね。少なくとも、この作り手、本作を観る限り、
映画にとって何が重要なのか?という大きなテーマが、あまり追求できていないのではないかと思いますね。

せっかくジム・キャリーとユアン・マクレガーが気合の入ったキスシーンを演じているのに(!)、
これでは報われないというか、作り手がそういったインパクトにすら依存しているというのが、残念ですね。

とまぁ・・・イマイチに感じられた部分を列挙しましたが、
それでも最低限の機能は果たした作品ですから、それはそれでたいしたもんです(←どっちだよ)。

映画のテンションの作り方もそこそこ上手く、
スティーブンと彼の実の母親のエピソードを終盤で完全に忘却してしまうのはいただけないが、
それでも序盤の彼の生い立ちからスピード感たっぷりに描いているのは好印象で、
クライマックスで急激にシリアスにして、最後にスピードを上げるなど、とても上手く緩急が利いている。
ここまで上手く緩急が利いた作品というのも、最近では珍しいぐらいではないだろうか。

スティーブンが実はゲイだったとあっけらかんと、
妻に告白して、サクッと家族を捨てて、ボーイフレンドと同棲してしまうという流れも、
現実にこんなのがあったらヒドい男ですが、この切り替えの速さが映画のスピードに合っていて悪くない。

そしてスティーブンがヤケになって、家から衝動的に持ってきたインスリンを
次から次へと大量投与して、自殺をはかるなんてエピソードも実に不謹慎なエピソードなのですが、
こんなにコミカルにやられると、こっちも根負けして笑ってしまいますね。あまり気持ちいい笑いじゃないけど。

尚、実在のスティーブンは今も尚、懲役167年の刑期真っ只中で(苦笑)、
一日24時間のうち、23時間は手錠をはめられ独房に押し込められ、1時間だけ手錠を解かれるらしい。
もっとも、彼が犯した犯罪は終身刑が成り立つような罪ではなく、ある意味で不当な判決な気がするのですが、
国や州も彼が不正に釈放されるのを繰り返し、詐欺師としてしか生きていけない現実に手を焼き、
悩んだ末に懲役167年という実質的な終身刑に処するしかなかったというのが、なんだか悲しいですね。
それだけ更生させるというのは、どの国の司法のシステムでも難しいということなのでしょうかねぇ。

ちなみにフィリップは自分の名前を「フィリップ・モリス」と名乗っていますが、
これはあの有名なタバコ会社の“フィリップ・モリス”を皮肉ってるのかなぁ?
(これって偶然にしても、どうしても何か意味ありげに思えるんだけど...劇中では何も触れず・・・)

こういう部分もこの映画って、凄く中途半端なんだよなぁ〜。。。

(上映時間97分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[R−15+]

監督 グレン・フィカーラ
    ジョン・レクア
製作 アンドリュー・ラザー
    ファー・シャリアット
原作 スティーブ・マクヴィカー
脚本 グレン・フィカーラ
    ジョン・レクア
撮影 ハビエル・ペレス・グロベット
美術 ヒューゴ・ルジック=ウィオウスキ
衣装 デビッド・C・ロビンソン
編集 トーマス・J・ノードバーグ
音楽 ニック・ウラタ
出演 ジム・キャリー
    ユアン・マクレガー
    レスリー・マン
    ロドリゴ・サントロ
    アントニー・コローネ
    ブレナン・ブラウン