アイ・アム・レジェンド(2007年アメリカ)

I Am Legend

リチャード・マシスン原作の『地球最後の男』の3度目の映画化。
71年の『地球最後の男 オメガマン』を観ていただけに、「なんで、あんなカルト映画をリメークすんの?」と
勝手に思っていたけど、今回のリメーク作は思いのほか緊張感ある映画になっていて、まぁ良かったですねぇ。

監督は04年に『コンスタンティン』をヒットさせたフランシス・ローレンスで、
今回は迫力ある映像表現のおかげもあって、観客もビックリさせられるシーン演出が多くあります。

ウィル・スミスの出演映画も、正直、出来・不出来の差がハッキリしているイメージが
あったんだけど、本作はそこそこの当たりといった感じで、及第点レヴェルと言っていいでしょう。

この映画を観たのは今回で3回目だと思うのですが...
2021年1月現在、世界は新型コロナウイルスのパンデミックと闘いの真っただ中にあります。
このパンデミックでは、色々なことが明らかになってきましたが、やはり人間の本質が見え隠れしたと思います。
本作は致死率がほぼ100%みたいなウイルスで、ゾンビ化して他者を襲うというウイルスなだけに、
新型コロナウイルスとは同様の見方はできませんが、目に見えないウイルスパニックの恐ろしさが描かれている。

正直、『地球最後の男 オメガマン』とは全然別物の映画という感じで、
本作の方が感染者をゾンビ化したダーク・シーカーとして描き、ハリウッド得意の映像効果を駆使して、
常にいつ襲ってくるか分からない緊張感を画面いっぱいに研ぎ澄ませて表現しており、これはなかなかの出来映え。

特に映画の中盤にある、主人公の愛犬が勢い余って、
暗がりの廃墟ビルに動物を追って迷い込んでしまうシーンで、ライフルにライトを点けて、
主人公が愛犬を探しに行くシーンは良いですね。このシーンが一番のハイライトだったかもしれません。

が、ただ...原作のSF小説のストーリー性を重視している人にとっては、
今回のエンターテイメントに徹した作りは反感をかうような気がしていて、ただただ観客を驚かせようと
映像効果を駆使する姿勢に、ノレない人もたくさんいるかもしれません。そういう意味では、映画化が難しいのかも。

原作を読んでいないので、この原作の精神性などは分かりませんが、
孤独に生き残った人間の苦悩など、きっと映画の中で描くべきポイントは幾つかあるのでしょう。

そういう意味では、本作は主演のウィル・スミスが映画が始まって、
約1時間の間、廃墟と化した大都会ニューヨークの市街地を巡りながらも、感染源(グラウンド・ゼロ)である
土地で血清治療を試みる姿を、たった一人で演じ切るというのは壮大なチャレンジだったと思うんですよね。

凄い細かい部分ですけど、主人公は「誰一人死んでしまったんだ!」と興奮するシーンがあるのですが、
それくらい主人公は孤独感に苛まれ、血清治療に希望を持ちながらも、一方で絶望した側面があったと思う。
それくらい精神的に難しい状況なのは分かりますが、ほとんどの人間が死んでしまったことを嘆くのに、
電気や水道を安定的に届いていて、インターネット回線を使って、治療の様子をビデオ配信するなど、
ライフラインが正常に動いているように描くのは、都合が良過ぎるというか、どこかで誰かが生存していることの
裏返しとしか思えないのですが、主人公がそれに気づかず絶望し続けるには、少々無理がありますね。

ただ、この映画が上手くいかなかったのは、やはり映画のクライマックスでしょう。
このラストは賛否両論になって当然というか、力技で全て解決しようとしたラストで今一つでしたね。
それこそ、ウィル・スミスが冒頭1時間、単独で頑張っていただけに凄く勿体ないラストですね。

映画の冒頭にカメオ出演となったエマ・トンプソン演じる研究者が開発した、
ガン治療薬と、このパンデミックを起こした“クリピン・ウイルス”の関係性もキチッと説明されず、
関連付けが甘いせいか、主人公のネビル博士がどこに目をつけて研究を続けているのか分かりにくい。
このラストにしても、ほぼ研究者や開発者がいなくなった世の中で、血清だけ渡しても、
最終的なワクチン開発に至るまでのプロセスを踏めるのかも怪しく思えて、“希望”があるのかも怪しい。

やはりこういう構図を見ると、この映画はもっと絶望的な内容であった方が合っているのだろうなぁ。

この作品自体は、90年頃にリドリー・スコットが製作権を持って動いていたらしいのですが、
製作費がかさんで断念したようです。何故か幾たびか映画化の話しが流れているようですので、
凄く人気のある原作だということですね。ひょっとしたら、また、20〜30年後に映画化の話しがでるかもしれません。

ただ、個人的にはそこまで魅力的な物語かなぁ〜と疑問には思える。
特に今は新型コロナウイルスのパンデミックを経験した世の中なだけに、今後はこの原作で描かれたことよりも、
ジワジワ広がる恐怖を現実に感じているだけに、感覚が変わっているような気がしてなりません。

映画の冒頭から、まるで狩猟犬を使って狩猟しているかのような主人公。
食糧を得るためにやっていたのか、感染者を捕獲するためにやっていたのか、よく分かりませんが、
この主人公も必ず立ち寄るレンタルショップで、マネキンをナンパしようと悩みを独り言呟いたり、
動物を暗闇の廃墟ビルへ深追いしてしまったり、自分が仕掛けた罠に自ら引っかかってしまったりと、
チョット間抜けというか、ドジに見えてしまうのは残念。もう少し賢い人物に見えるように描いて欲しかったですね。

フランシス・ローレンスもまだまだこれからのディレクターなのでしょうから、
この辺はエンターテイメントとは言えども、もう少し映画全体のバランスをとれるようにして欲しい。
この手の映画の場合は、主人公の描き方によってキャラクターづけが変わるわけで、とても重要なポイントです。

それくらい一人の力でパンデミックを解決するというのは難しいことで、
自分で勝手に I am legend(オレ自身が伝説だ)と言い切ってしまうのはどうかと思いますが、
それくらいハードルが高いことを単独でやる生化学学者なんで、それ相応の描き方をして欲しかったですね。

主人公だけがウイルスに対して免疫を獲得しているというのも、なんだか妙だが、
ダーク・シーカーに襲われる中で、ウイルス感染した犬と思われる動物に至近距離で噛まれそうになる
シーンが何回かあるのですが、あのシーンの迫力はやはり映像技術の進化の賜物と言っていいでしょう。
ただ、これらをもってしても、どこかゲームのような感覚になってしまい、臨場感には乏しかったのも残念かな。

あくまでエンターテイメントとしては及第点で、十分の楽しめるかとは思います。
但し、リチャード・マシスンの原作の熱心なファンとかになると、おそらく不満はいっぱいあるでしょう。
そういう意味でも、頭を切り替えて楽しむくらいの、スイッチの転換がこの映画には必要なようです。

しっかし、これが大ヒットするというのは、ウィル・スミスのマネーメイキング・スターぶりの表れかな。。。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 フランシス・ローレンス
製作 アキヴァ・ゴールズマン
   ジェームズ・ラシター
   デビッド・ハイマン
   ニール・モリッツ
原作 リチャード・マシスン
脚本 マーク・プロトセヴィッチ
   アキヴァ・ゴールズマン
撮影 アンドリュー・レスニー
編集 ウェイン・ワーマン
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ウィル・スミス
   アリシー・ブラガ
   ダッシュ・ミホク
   チャーリー・ターハン
   サリー・リチャードソン
   ウィロウ・スミス
   エマ・トンプソン