アイ・アム・レジェンド(2007年アメリカ)

I Am Legend

リチャード・マシスンのSF小説『地球最後の男』の3度目の映画化。

過去の映画化作品としては、71年にチャールトン・ヘストン主演の『地球最後の男 オメガマン』が
印象深いのですが、あれはかなりチープなカルトSF映画になってましたから、本作とはかなり趣向が違う。

いや、と言うか...本作はふんだんにCGを使い、無人化したニューヨークの市街地を再現したりと、
かなり内容的には“マジ”な作品なので、チープさとは程遠い緊張感が支配する画面にはなっているので感心した。

監督は『コンスタンティン』のフランシス・ローレンスで、映画の出来としては及第点レヴェルだけど、
これは決して悪い意味ではなくって、破綻なくこの有名な原作を堂々と映画化したことはもっと評価されていい。
得てして、この手の映画は途中からメチャクチャになって破綻してしまうことが多いのですが、本作は見事な仕上がり。
人気スター俳優ウィル・スミス主演ということもあって、話題性抜群ではありましたが、そこに依存することもない。

以前は、より人間に近い吸血鬼のような存在で描かれていた“感染者”の表現についても、
本作ではほとんどゾンビのように超人的な動きをするクリーチャーのように描かれていて、かなり恐怖心を煽られる。

映画は医療を飛躍的に進展させると言われていた、ガン治療薬などでも使われた製剤が
実は人獣共通感染症の原因となる“クリピン・ウイルス”なるものが含まれていて、接種された人間はゾンビのような
風貌に変身していって、狂犬病のような症状を呈し、太陽の光を浴びることができないという奇病を発症していく。

まるで野生動物の食物連鎖であるかのように、お互いに殺し合い淘汰されていくという惨状。
そんな“クリピン・ウイルス”のグラウンド・ゼロであるニューヨークにたった一人で生き残り、感染を免れていた
米軍関係者でありウイルス学の研究者である主人公が、ゾンビたちの襲来に耐えながらも、外部に助けを求めつつ
なんとか“クリピン・ウイルス”の治療薬を見つけ出し、人間社会を取り戻そうと孤軍奮闘する姿を描いています。

まぁ、これはウィル・スミスにはピッタリなキャラクターでよく似合っているような気がしますが(笑)、
おそらく映画が本来的に表現しなければならない世紀末感を漂わせるキャラクターというよりも、やたらと屈強で
賢い行動力のある科学者という役柄なので、“アイ・アム・レジェンド(私は伝説だ)”は少し言い過ぎな気がするけど、
人間臭い71年版のチャールトン・ヘストンよりも、ややヒロイックに表現しているというのは、本作の特徴なのかも。

“クリピン・ウイルス”に感染して、ゾンビのような感染者となってしまった人々は
太陽の光を浴びると死んでしまうので、廃墟と化した雑居ビルの暗がりで、みんなが集まってヒソヒソと生活している、
という設定がなんだかギャグのようですが、そこからバイオハザードばりに襲い掛かって来る迫力は流石の出来。

特に犬などの動物たちも感染するウイルスなので、野生の血を感じさせるほどにワイルドな行動が凄く、
主人公が動物に襲われて、顔の近くで歯をガタガタ言わせるシーンなんて、よく表現したなぁと感心させられた。
こういうCGの使い方は良いですね。この動物も同様なのですが、やはり感染すると群れを作るのですよね。
それが本作で描かれる感染者(ダーク・シーカー)の特徴であるらしく、群れずに一匹狼でいる主人公とは対照的だ。

まぁ、ヴィンセント・プライス主演の本格的な吸血鬼ヴァージョンとして映画化されたものや
前述したチャールトン・ヘストン主演のカルトSFといった個性的な先行映画化作品と比較すると、その特徴の無さに
本作は物足りなく感じられるかもしれません。エンターテイメント性に徹し、万人ウケを狙った部分がありますからね。

強いて言えば、本作で最も特徴的なのは主人公が飼っていた愛犬“サム”の存在でしょう。
犬の本能とも言える行動から、ゾンビたちが潜む廃墟ビルに勇んで入り込んでしまい、“サム”を助けに行くシーンが
なんとも緊張感いっぱいで印象的だ。ここから“サム”については、主人公が大きな決断を下さねばならず、切ない。

この苦渋の決断を描くこと自体、賛否が分かれるところでもありますが、ウイルスに感染したことを悟り、
それまでの生活を支えてくれていた相棒でもある“サム”が感染してしまった悲しみを表現する姿が忘れられません。

確かに人類を絶滅させ得るウイルスによるパンデミックが起こって、ただ一人グラウンド・ゼロに残って、
たった一人で地道に研究して血清を発見して、それを託してパンデミックが終わるキッカケを作ったのであれば、
映画のタイトルにもなっている通り、この主人公は“伝説”と言っていい存在なのだろう。それくらい困難なことですね。

そういった勇壮なキャラクターにはウィル・スミスはピッタリだ。さすがに『地球最後の男 オメガマン』の
チャールトン・ヘストンが演じたようなカルトSF映画の主人公という枠組みになることはなく、スター俳優である。
これは決して嫌味で言っているわけではなく、本作は企画の段階でこれまでのB級路線を狙う気など毛頭なく、
あくまで規模の大きなメガヒットを狙う作品として製作されたわけであって、映画のコンセプトが全く異なるということ。

そういう意味では、それまでの映画化作品とまともに比較すること自体、無理があるのかもしれませんね。

クライマックスで追い詰められた主人公が選択した決断は、賛否が分かれるところではあるけれども、
ここは開き直って、残された人類のためにと自己犠牲の精神全開というあたりが、如何にもハリウッド流に映る。
こういう役柄をある程度の説得力を持って表現できる俳優は、本作製作当時ではウィル・スミスは適任だったでしょう。

本作で描かれた“クリピン・ウイルス”は実在しませんし、ここまで絶望的な感染症は発見されていません。
しかし、2020年からの新型コロナウイルスのパンデミックを経験した私たちは、多くの教訓を得たことでもあると思う。
“クリピン・ウイルス”ほど狂犬病のような症状で致死性が高く、全員が野生化して淘汰していくようになるのであれば、
逆にここまでのスピードで感染が拡がりにくいかもしれない。ポイントとなるのは潜伏期間でしょうね。長いほど厄介。
多くの感染症が潜伏期間のうちに感染力を持つために、発症前の潜伏期間が長いと感染拡大の原動力になります。

本作製作当時はコロナ禍以前の時代だったので、そこまで細かな描写は求められなかったですけど、
さすがにリアル世界で体験して、しかもまだ記憶が新しいうちですから、今、パンデミックを描いたパニック映画を
製作するとなれば、結構細かな部分の整合性も求められるだろうから、今はハードルが高くなったのかもしれません。
(まぁ・・・いつかはコロナ禍を検証するかのような社会派映画が製作されるのでしょうけどね・・・)

まぁ、そういったパンデミックを本作では人への攻撃を伴うゾンビとのサバイバル劇に置き換えましたが、
感染拡大として都市封鎖など、現実的にはあり得ない策を講じている様子を描いていて、ここは興味深かったけど、
この辺はコロナ禍を経て、観客も相当にアップデートされてますからね。何故か本作を観て、そんなこと考えてました。

結構、絶望的な状況を描き続ける映画であったせいか、さすがにクライマックスでは僅かな希望を描いている。
そこは過去の映画化作品との差別化を図った部分なのでしょうけど、まともに比較できないと言いつつも...
やっぱり強烈なまでの世紀末感と、ある種のカタルシスを感じさせるようなラストではなく、エンターテイメントに徹した
ラストを目の前にしてしまうと、さすがに妙な物足りなさというか...作り手の“冒険”を感じさせないラストに思える。

この辺はフランシス・ローレンス自身がどう考えていたのかは分かりませんが、
どうせなら、もっと個性溢れるSFを追求しても良かったと思うし、良くも悪くも無難に描こうとし過ぎたように見える。
リチャード・マシスンの原作は有名であるがゆえに、そうでなくとも観客の目は厳しくなりがちだったでしょうしね。

個人的に勿体ないなぁと感じたのはゾンビ化した動物や、昼間は暗がりにいるようなゾンビたちの
直接的な攻撃がニューヨークの市街地と思われる場所で次々と展開されるのですが、なんだか臨場感に乏しい。
CGの出来にしても決して悪くはないし、音に関しては優れた作品なんだけど、それでも作り物感は否めない。

映画としてはご都合主義であることは否めませんし、ニューヨークでポツンと一人生き残ったとしても、
ガス・電気・水道などのインフラも普通に使えていること自体、現実的ではないけど、この辺は許容しなきゃダメだろう。
(言い換えれば、これが主人公のほかにも誰かが生存して、普通に生活していることの証明でもあるけど・・・)

ところで、本作はエンディングが2ヴァージョンあるらしいのですが、僕は正規版しか観ていません。
いずれにしても気になったのは、主人公が見つけた血清はパンデミックを終わらせる契機になる発明なのですが、
肝心かなめの実際にパンデミックが終わったのかどうなのか、ハッキリと顛末を描かないというのが妙に気になる。
あまりに中途半端で妙な残尿感がある感じだ。こうなってしまうのであれば、絶望的なラストでも良かったかも。。。

とまぁ・・・どこか物足りなさはありますが、いつやられるか分からない緊張感がたまらない作品で
決して悪い出来のエンターテイメントではないと思う。ただ、後半がもう少し何とかなっていれば・・・と思えてならない。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 フランシス・ローレンス
製作 アキヴァ・ゴールズマン
   ジェームズ・ラシター
   デビッド・ハイマン
   ニール・モリッツ
原作 リチャード・マシスン
脚本 マーク・プロトセヴィッチ
   アキヴァ・ゴールズマン
撮影 アンドリュー・レスニー
編集 ウェイン・ワーマン
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ウィル・スミス
   アリシー・ブラガ
   ダッシュ・ミホク
   チャーリー・ターハン
   サリー・リチャードソン
   ウィロウ・スミス
   エマ・トンプソン