ハドソン・ホーク(1991年アメリカ)

Hudson Hawk

当時、ハリウッドでも88年の『ダイ・ハード』の世界的な大ヒットのおかげで、
アクション・スターとしてトップクラスの活躍をしていたブルース・ウィリスが自ら原案して、
自ら主演も務めて、自由奔放に好き放題に描きたい世界観を撮った、アクション・エンターテイメント。

当時のブルース・ウィリス主演作としては、異例というほどにコメディ色が強く、
シリアスだったり、ハードボイルドに撮られてきたブルース・ウィリスのアクションも、
奇想天外、底抜けに明るくPOP、そしてハイテンションに彼のアクションを構成したことは、とても珍しい。

監督は89年に『ヘザース/ベロニカの熱い日』のマイケル・レーマンで、
結果的に本作は商業的にも大失敗してしまったので、全ての失敗を被らされたみたいで、
なんだか可哀想な結果に終わってしまったのですが、演出自体はそこまで悪くはないと思う。

映画は凄腕の窃盗犯ハドソン・ホークを主人公として、
彼が10年もの刑期を終えて、シャバの世界へ戻ってきた途端に彼の能力に目を付けたあらゆる人物が
彼に美術品泥棒を強要し、彼が出所してからの楽しみにしていたカプチーノを味わう暇も無いほど、
急転直下、拉致されて無理矢理、ローマへ連れて行かれて騒動に巻き込まれる様子を描いています。

ハッキリ言って、これは完全にブルース・ウィリスの趣味としか言いようがない内容。

まるでミュージカル映画さながらに歌いながら美術品泥棒を鮮やかに行ってしまうという発想も、
スラップスティックな展開でハドソンが次から次へと危機をかわしていく様子を巧みに描いている。
おそらくブルース・ウィリスが原案の映画ということもありますが、かなりノリノリで撮影していたのでしょう。
本編を観るからに、明らかにブルース・ウィリスは楽しそうにしていて、やたらとテンションが高い(笑)。

残念ながらキャスティング含めて、製作費4000万ドルという莫大な費用がかかってしまったがために、
全世界でも興行収入が1000万ドルを越えたのがやっとというところで、結果的に大赤字な企画に終わってしまう。
その結果責任をマイケル・レーマンがとらされたイメージが強いのですが、これは連帯責任でしょう(笑)。

どこかズレた感覚を持ちながらも、泥棒に関しては超一流とも言える凄腕で、
良くも悪くもタイミングが悪い男で、何故か悪党はハドソンの身の回りに寄って来る。
そんな姿を前述したように、ミュージカル映画ばりにスピード感、そしてダイナミズムを感じさせる
画面になるはずだったのですが、出来上がった映画は思いのほか、広がりを持てず終わり、失敗だったのかもしれない。

でもね、僕は実は好きなんだよなぁ〜、この映画(笑)。

あまり罪の無い失敗作だと思うんですよね。
まぁ、ブルース・ウィリスが楽しそうって時点でニヤリとさせられるのですが、映画のテンポもそこまで悪くない。
底抜けの明るさには、良い意味でのパワーが感じられて、おそらく撮影当時は作り手に迷いは無かったのではないか。

当時のブルース・ウィリスは『ダイ・ハード2』なんかも世界的なヒットを飛ばした直後だったので、
さすがにここまでライトな感覚で見れるアクション映画という時点で、当時の映画ファンには馴染みが無かったというか、
どこか物足りない、そして感覚的にこのテンションに馴染めないところがあったのかもしれませんね。

でも、自分でバンドをやって、
音楽好きを自認するブルース・ウィリスの趣味も全開で、往年の名曲を知っているのは勿論のこと、
何故か収録時間を覚えているという、実に変わった知識があって、それを仲間とクイズしながら、
危険な泥棒という犯罪行為にあたるという発想そのものが、とっても楽しいじゃないですかぁ!(笑)

個人的にはマイケル・レーマンも、もっと個性を出して、自由に映画を撮ったら良かったのに・・・とは思うけど。
(おそらく、この映画の撮影現場はブルース・ウィリスがかなりのイニシアティヴを握っていたと思われる)

この映画の中で特に嬉しかったのは、ジェームズ・コバーンが楽しそうに悪役を演じていること。
かつての戦争映画に出演していたときによく見たようなコスチュームで、嬉々として演じているような感じで、
思わず機銃掃射でもするのかと思いきや、ブルース・ウィリスとの対決では、まさかの素手でのファイト(笑)。
しかし、まるでリタイアした悪党のような風格を出していた割りには、随分と強いというアンバランスさ(笑)。

ジェームズ・コバーンは80年代は持病との闘いもあり、俳優活動はかなりセーブしていて、
彼の存在感自体もハリウッドで薄くなってきていたせいか、本作のような活躍は嬉しいですね。
ちなみに90年代のジェームズ・コバーンは98年の『白い刻印』でオスカーを獲得するなど、完全に復活しました。

映画は良くも悪くもユルく、僕はあながち嫌いではないのですが、
おそらくこういったユルい空気感が賛否両論になっているような気がして、往年の古き良き映画の良さを
近代のアクション映画に吹き込むみたいな、ブルース・ウィリスの趣向自体が理解されなかったのかもしれません。
それがジェームズ・コバーンのキャスティングなどにもつながっているようにも思いますが、とても勿体ないですね。

欲を言えば、悪い意味で全体的にあざといというか、狙い過ぎな側面もあるかもしれない。
それは夫婦でハドソンに仕事を依頼する金持ちとして、リチャード・E・グラントとサンドラ・バーンハードが
出演しているのですが、2人してキッチュな感じのキャラクター造詣に徹しているのが分かるのですが、
どうも、映画全体の特徴づけとなるキャラクターにはなりえなかったようで、どことなく中途半端な気がする。
狙い自体は悪くないと思うのですが、この中途半端さはおそらく、最後の“しぶとさ”が無かったからだろうと思う。
やはりこういう映画の魅力って、倒すのに困難な悪役がいるということがつながることは、否定できないでしょう。

但し、何度も繰り返しますが...個人的には酷評するほど悪い出来の映画ではないと思います。

たぶんブルース・ウィリスは、本作がヒットして評価されたのなら、
私財を投じてでも、続編を製作するつもりだったのでしょうね。そんな狙いも見えるラストの作りとなっています。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 マイケル・レーマン
製作 ジョエル・シルバー
原案 ブルース・ウィリス
    ロバート・クラフト
脚本 スティーブン・E・デ・スーザ
    ダニエル・ウォーターズ
撮影 ダンテ・スピノッティ
音楽 マイケル・ケイメン
    ロバート・クラフト
出演 ブルース・ウィリス
    アンディ・マクダウェル
    ダニー・アイエロ
    ジェームズ・コバーン
    リチャード・E・グラント
    サンドラ・バーンハード
    ドナルド・バートン
    フランク・スタローン
    デビッド・カルーソ

1991年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 受賞
1991年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ブルース・ウィリス) ノミネート
1991年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(リチャード・E・グラント) ノミネート
1991年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演女優賞(サンドラ・バーンハード) ノミネート
1991年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(マイケル・レーマン) 受賞
1991年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(ブルース・ウィリス、ダニエル・ウォーターズ、ロバート・クラフト、スティーブン・E・デ・スーザ) 受賞
1991年度ゴールデン・ラズベリー賞この10年ワースト作品賞 ノミネート