グリンチ(2000年アメリカ)

How The Grinch Stole Christmas

これは劇場公開当時、全米でもメガヒットとなったクリスマス・ムービー。

特殊メイクを駆使したジム・キャリーの真骨頂のような内容ではありますが、
これは何よりロン・ハワードが原作に忠実でいながら、凝りに凝って作った世界観という感じなのがスゴい。
ロン・ハワードは、この手の映画を監督していたことがなかったので、このクオリティの高さには驚いた。

やはり90年代のロン・ハワードはハリウッドでも有数のレヴェルの高さであったことの証明だと思うが、
何をやらせても、これだけの仕上がりにできるというのは、やはりロン・ハワードは器用な映画監督なのでしょうね。

なんとなんと、映画の中で自身の監督作品でもある『バックドラフト』のパロディとばかりに、
爆発するシーンを演出するという“お遊び”もあるだけに、彼自身も楽しみながら映画を撮ったことでしょう。

Dr.スースが57年に発刊した『いじわるグリンチのクリスマス』を原作としているのですが、
要するに、フーヴィルという町に暮らす人々が諸手を上げてクリスマスを祝うことを徹底して嫌う、
幼少の頃にフーヴィルの学校で嫌な想いをしたグリンチが、再びやって来たクリスマスのシーズンに
フーヴィルの町からクリスマスの楽しみを奪ってやろうと画策する姿を描いた、ジム・キャリーお得意のコメディ映画。

日本語吹替で鑑賞してしまうと関係なくなってしまうのですが、
本作は英語のナレーション(語り手)としてアンソニー・ホプキンスが担当しているのですが、これもまた良い。

リック・ベイカーが担当したジム・キャリーの特殊メイクも素晴らしいのですが、
特殊メイクだけによらず、フーヴィルの町の見せ方にしても徹底してメルヘンな感じで素晴らしい。
その中でジム・キャリーの少々、毒っ気のあるギャグも見事にマッチするような脚本になっていて、
ただただ子供向け映画という感じでもなく、(勿論、賛否はあると思うが・・・)大人が観ても楽しめる映画になっている。

当時はジム・キャリーの快進撃も少しずつ勢いを失いつつあると言うか、
ジム・キャリー自身も俳優としての路線に悩んでいたのか、少しずつシリアスな映画に出演していた頃で
徐々にシフトチェンジしたがっていたような時期だっただけに、逆に本作のような映画に出演することは
悩んだのかもしれませんが、それでも本領発揮という感じで縦横無尽に暴れ回る内容で、観ていて楽しい。

個人的には、新しいことにチャレンジすることは当然のこととしても、
こういう元々得意だったことって、忘れずに続けて欲しいし、唯一無二の芸として磨くべきだと思ってるんですよね。

いろんな意見はあるだろうけど、これだけ仰々しい演技をしても、
これだけカメラ目線で台詞を喋っても、これだけ特殊メイクと着ぐるみで正体が分からない姿になっても、
「やっぱりジム・キャリーだねぇ〜」と言ってもらえる役者って、そうそう多くはいないですよ。
それくらい、このスタイルは彼の専売特許のようなトレードマークになっているということだと思うんですよね。

そこにきて、ロン・ハワードが構築したフーヴィルの町と、グリンチが暮らす山のデザインが上手く重なります。
電飾で派手にクリスマスのムードを高揚し、フーヴィルの住人たちもメルヘンの世界の人々みたいな様相。
バブルに潤う町であるかのように、クリスマスと言えばプレゼントで、「物」で溢れかえるというのも良い。

そんなフーヴィルの町に嫌がらせするためのグリンチの侵入ルートが、
標高高くまで自動的に運ばれるゴミ捨て場への巨大トンネルというデザインもまた、なんだかワクワクさせるアイテム。
この映画は原作を尊重したからこその内容だったのでしょうが、それを見事に具現化したことに価値があるのです。
だからこそ、それをやり遂げた監督のロン・ハワードの功績はデカいです。もっと評価されて良かったと思います。

グリンチは心に傷を受けたことがキッカケでフーヴィルの人々に復讐と嫉妬心を燃やすわけですが、
実際のフーヴィルの人々は心優しいという設定が少々甘いとは感じますが、それでも「金持ちケンカせず」と
言わんばかりに、グリンチの蛮行を許容する度量の深さを見せるあたりは、クリスマスの雰囲気あってこそかも。

クリスマスは欧米の習慣とは言え、日本はじめ世界各国で定番化したイベントでもあり、
特別な時期であるからこそ、人間の暖かい心を示すということが尊重されるのは、観ていて悪い気にはならない。
アメリカというお国柄に賛否はあるが、未だにこういう映画がヒットするというのは、懐の深さの表れかもしれない。

この辺は差別がありながらも、差別に対して厳しい社会であるアメリカ特有の
説教臭さが少なからずともあるので、こういうアメリカの表情が好かない人には向かないかもしれませんが。。。

言いたくはないが、日本ではこうはいかないというか、どこか現実主義な発想が先行してしまう。
僕は欧米の方々に、こういう映画を楽しめる環境と遺伝子があるというのが、羨ましいなぁと感じています。
(まぁ、日本でも全米大ヒットの触れ込みのおかげで、当時はヒットしてましたけどね)

未だに欧米ではクリスマス・ソングというのは新たに作られており、
日本以上に特別なイベント感の強い欧米では特別な行事で、だからこそ本作のように御伽噺にもなるのでしょう。
本作は御伽噺の映画化としても、映画作りの大切なことを伝えていると思います。「やるなら徹底的にやれ」と。

映画の内容としては、むしろ原題の方が的確に示しているでしょう。
要するに、「グリンチはどうやってクリスマスを盗んだのか?」ということなのです。
結論としては、ジム・キャリーの超人的な動きがあったわけですが、これもジム・キャリーだからこそ成したワザ。
ジム・キャリー以外の他の役者がやっていては、たぶんここまで魅力的な映画にはならなかったでしょうね。
そういう意味では、あらためて映画の成功にとってはキャスティングというのが、重要であるということを示しています。

特にグリンチ役のジム・キャリー以外に、ビッグネームの役者をキャスティングしなかっただけに
本作の場合は尚更、グリンチのキャスティングがもの凄く重要になったということだと思います。

グリンチはよくよく観ると、かなりドギツいキャラクターではありますが、
それでも大人も子供も揃って、安心して観れるタイプの映画だと思います。残念ながらクリスマス映画の定番には
なれなかった感じですが、良く出来た映画ですので、個人的にはいつまでも大切にしておきたい作品なんですけどね。

ロン・ハワードは翌01年の『ビューティフル・マインド』でついにオスカーを獲得します。
その直前の作品が本作というのも意外な気がしますが、僕は94年の『ザ・ペーパー』の時点で
ロン・ハワードはいつかハリウッドを代表する映画監督になると思っていただけに、いつも彼の監督作品は楽しみです。

本作は作り込みの素晴らしさと、ストーリーテリングの上手さもありますが、
何より相変わらずバランス感覚が優れていて、映画全体を見渡しながら構成している点で安定感がありますね。
これだけの実力があるのに、日本でもそこまで知名度の高いディレクターではないのが残念なのですが、
もっともっと評価されて良いディレクターだと思いますね。更なる決定打となる作品を発表するのを待ちわびています。

だからこそ、本作のような気分転換で撮ったかのような作品が、また映えるんだなぁ〜。

確かにティム・バートンが好むようなタイプの作品ではあるけど、
仮にティム・バートンが撮っていれば、ここまでファンタジックでスマートな映画には仕上がらなかっただろう。
それは、どれだけトータル・コーディネートに優れた監督かで決まる。そういう点で、ロン・ハワードは優れている。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
原作 Dr.スース
脚本 ジェフリー・プライス
   ピーター・S・シーマン
撮影 ドナルド・ピーターマン
美術 マイケル・コレンブリス
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 ジム・キャリー
   ジェフリー・タンバー
   クリスティーン・バランスキー
   モリー・シャノン
   テイラー・モンセン
   クリント・ハワード

2000年度アカデミー美術賞 ノミネート
2000年度アカデミー衣裳テザイン賞 ノミネート
2000年度アカデミーメイクアップ賞 受賞
2000年度フェニックス映画批評家協会賞衣裳デザイン賞 受賞
2000年度フェニックス映画批評家協会賞メイクアップ賞 受賞
2000年度イギリス・アカデミー賞ヘア&メイクアップ賞 受賞
2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(ジェフリー・プライス、ピーター・S・シーマン) ノミネート
2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・リメーク・続編賞 ノミネート