幸せの始まりは(2010年アメリカ)

How Do You Know

『恋愛小説家』のジェームズ・L・ブルックスの6年ぶりの監督作。
僕もずっと早く映画を撮って欲しいと願い続けていた映像作家の一人で、久しぶりの新作にワクワクしましたが、
残念ながらのその僕の大きな期待には応えられない、微妙な内容の映画でチョット困ってしまいました(笑)。

映画はソフトボール一筋で生きてきた31歳の独身女性リサを主人公にしたラブ・コメディで、
彼女の恋人でメジャーリーガーのマティは根っからの遊び人で、イマイチ本気の恋愛なのか分からず、
どうしようか迷いがあったところ、父親と貿易会社を共同経営するジョージからデートのお誘いが。
それもまた気ノリしないリサでしたが、純粋なジョージに少しずつ惹かれていきます。

ところがこのジョージ、彼は彼で会社に不正行為の疑いがかけられ国税庁の査察が入って、
共同経営者である父チャールズから“トカゲの尻尾切り”にされる寸前の状態でした・・・。

まぁジェームズ・L・ブルックスって、83年の『愛と追憶の日々』や87年の『ブロードキャスト・ニュース』、
97年の『恋愛小説家』で驚異的な興行収入を叩き出したディレクターだから、別にいいのかもしれないけど、
さすがに前作の『スパングリッシュ 太陽の国から来たママのこと』に続いて大赤字な作品となってしまい、
本人もさすがにコタえたのではなかろうか(苦笑)。これは確かにお世辞にも、“売れ線”な内容とは言えません。

ただ、この邦題を付けた人が一番、よく分かっていて、
確かに映画のタイトルとしては微妙な感じなんですが、映画は“幸せの始まり”を描いているんですね。
何が幸せかという議論もあるのですが、本作はその問題を放棄して、半ば強引に「家庭を築くこと」を
幸せと前提した上で、そのためのスタートラインに立つまでをメインテーマとして描いているように思います。

この映画の大きな焦点は、その“幸せの始まり”をどう掴むか、
どうやって、そのスタートラインに気づくかという点にフォーカスされており、人生の岐路に立たされた女性が
一つの決断を下すまでを描いているような内容で、別にこれがゴールという映画ではありません。

そのせいか、ラブコメっていつもハッピーエンドでゴールってイメージがあるのですが、
少しだけ本作のテイストは違ってて、思わず観客からも「きっと、これから大変だぞォ〜」とツッコミの声が
聞こえてくるかのようで、ひょっとするとジェームズ・L・ブルックスもそう思っていたのかもしれません。

但し、この映画は如何にもジェームズ・L・ブルックスらしい人間主義に満ち溢れた映画で、
「誰が正しくて、誰が間違っている」といったような、類型的な議論には持ち込みません。
例えば、リサの恋人であったマティも比較的、印象は悪かったかもしれませんが、
色々と掘り起こして考えると、そんなに悪意を感じさせるような悪い奴ではなく、むしろピュアなところもある。

自分が終身刑になる可能性があるからと言って、
息子であるジョージに酷い仕打ちを考えたチャールズにしても、「最後の選択」はジョージに残しており、
妻に逃げられ、ジョージを育てるのに苦労したからこそ、独自の子育て論があって、子への愛情はとても深い。

ですから、一様に「コイツは悪人だ!」と決め付けることのできない側面はキッチリあって、
偏った議論に傾倒しがちな映画というメディアの中で、微妙なバランスを保とうとしております。

ところが本作のジェームズ・L・ブルックスの演出としては、
唯一、マズかったかなぁと思わせるのは、今一つ各エピソードの整理がついていないところなんですね。
例えば『恋愛小説家』なんかで凄く上手かったのは、それぞれのエピソードがよく整理されていて、
そのストーリーテリングも“整理しながら進めていく”という、とても上手い語り口で鮮やかでした。

本作も同じスタンスを採りたかったんだろうけど、
例えばジョージとチャールズの親子のエピソードなんかは、過去も含めた複雑な設定にしてしまったがためか、
イマイチ整理し切れないまま、メイン・ストーリーを進めてしまっているし、同じ親子の不和を描くのならば、
別に国税庁の査察が入り、ジョージが逮捕される可能性があるなんて、深刻なエピソードにしなくとも、
この程度のお話しならジェームズ・L・ブルックスほどの手腕があれば、十分に構成できたと思うんですよね。

おそらくもっと整理できた映画になっていれば、映画の印象は大きく変わっていたと思いますね。
ひじょうに分かり易く言えば、これは「何を描きたいのか、よく分からない映画」になってしまっているのです。

まぁ映画のアプローチとしては、『ブロードキャスト・ニュース』とほぼ一緒なのですが、
もう一つ強いて指摘させてもらえば、リサを演じたリース・ウィザースプーンが今一つ輝いていませんね。
個人的にはもっとパワフルに演じて欲しかったし、おそらく彼女のキャラだったら、それができたはずだ。
結局、『ブロードキャスト・ニュース』でヒロインを演じたホリー・ハンターほどではないのですよね。

それゆえ、リサがホントに精神的に弱っているときや、悩んでいるときが強調できないんですね。
なんかいつも似たようなテンションで、突然、キレちゃったりするように見えるものですから、
これではただの理不尽な気分屋さんで、ただ単に周囲を困らせる自分本意主義に見えてしまうかもしれません。
さすがにそれではリース・ウィザースプーンがラブコメのヒロインとしては、輝けないと思うんですよね。
(そうなるとソフトボール・チームで愛される存在という設定も、少しアヤしく見えてくる・・・)

日本でも2011年正月頃から劇場公開されることがアナウンスされていましたが、
僕もあまり強い意識を持っていなかったせいか、気づいたら劇場公開が終了しておりました。
それだけ日本でもヒットの見込みに乏しい作品として、扱いもとても小さかったということ。
でも、この内容ではその扱いの小ささは仕方のない話しかもしれませんね。映画の出来も芳しくないですし。。。

まぁ本作もそうとうな赤字になってしまったらしいのです、
これに懲りずにジェームズ・L・ブルックスは次回作を撮って欲しいですね。
特に『ブロードキャスト・ニュース』や『恋愛小説家』を観る限り、こんなもんじゃないと信じているのだから。

(上映時間120分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジェームズ・L・ブルックス
製作 ジェームズ・L・ブルックス
    ポーラ・ワインスタイン
    ローレンス・マーク
    ジュリー・アンセル
脚本 ジェームズ・L・ブルックス
撮影 ヤヌス・カミンスキー
編集 リチャード・マークス
    トレイシー・ワドモア=スミス
音楽 ハンス・ジマー
出演 リース・ウィザースプーン
    オーウェン・ウィルソン
    ポール・ラッド
    ジャック・ニコルソン
    キャスリン・ハーン
    マーク・リン=ベイカー
    トニー・シャルーブ