31年目の夫婦げんか(2012年アメリカ)

Hope Springs

結婚31年目にして、夫婦生活として倦怠期に入ってしまい、
夜の生活が無いことに危機感を抱いた妻が、夫の休暇期間を使って、
夫と共にカップル・セラピーを受診して、新たな出発を期す姿を描いたヒューマン・コメディ。

監督は06年に『プラダを着た悪魔』を世界的にヒットさせたデビッド・フランケルで、
本作でも『プラダを着た悪魔』に続いてメリル・ストリープを起用して、今度は夫婦の危機を描きます。

ある意味で、映画の冒頭からビックリさせられる。
そりゃ、メリル・ストリープの年齢は知っていますので、特に驚かないはずではあるのですが、
さすがにいつも女優としての、メリル・ストリープを見てきただけに、すっかり体格が良くなって、
どことなく冴えない表情を浮かべるメリル・ストリープのあまりに生々しい姿に、女優魂を感じさせます。

まぁ、決して悪い出来の映画ではないし、
作り手が描きたいこと、本作のテーマはよく分かるのですが、正直、観ているのが終盤までキツかった。

勿論、現実に長く結婚生活を共にしていれば、“波”はあるだろうし、
時の経過に従って、夫婦のあり方、お互いの立ち位置だって変わってきて然るべきものでしょう。
お互いに年をとっていくわけで、性に対する考え方、スキンシップ、価値観だって変わってくるものです。

こういうセラピーがあるのは知っていますが、所詮は正解など無いのでしょう。
上手くいくためのヒントを得ることぐらいしかできないと思うのですが、それでも価値はあるものです。
本作を観ていても分かるのですが、結局は本人たちが解決するしかない問題なのでしょうし、
時間が解決する類いのことでもあるような気がします。しかし、お互いに悪い意味で放置すべきではない。

そういう意味で、本作で描かれた夫婦はとても真摯に、その問題に対峙したと言っていいと思います。

一見すると夫を演じたトミー・リー・ジョーンズなんか、
如何にも堅物そうなルックスで、とっつきにくそうな感じではありますが、
それでも妻があからさまに危機感を抱いていると悟ったせいか、彼ができる範囲によく頑張っています(笑)。

でも、そうなだけにこの映画は観ているのが、少しキツかった・・・(苦笑)。
多少の覗き見精神というか、こういう夫婦生活の問題が映画のテーマになることはよくある話しですが、
できることならパーソナルな話しなので、触れられたくないテーマなだけにその必死さを笑うのはキツいなぁ・・・。

当人たちには大事な問題なはずで、
セラピーで“課題”を与えられて、あれやこれや試すのですが、本人たちは必死そのもの。
しかし、必死になればなるほど、その一つ一つの葛藤で観客を楽しませようとしても、チョット難しいですね。
これは感性の問題でもあるのでしょうが、パーソナルな問題だけに執着してしまったのは賛否が分かれるかな。

特に映画館で四苦八苦したり、少々、“やり過ぎ”な感が否めないエピソードが多かったなぁ。
それと、トイレでのバナナのエピソードなんかも、冷静に観てしまうとなんだか痛々しい・・・。
そういう意味では、トミー・リー・ジョーンズもメリル・ストリープもよくこの仕事を引き受けましたね(笑)。

デビッド・フランケルとしては、おそらく倦怠期の夫婦を描いたコメディ映画にしたかったのでしょうが、
あまり“やり過ぎ”てしまうと、映画の狙いが果たせなくなってしまうという典型に陥ってしまったようですね。
やはりコメディ映画ですから、セックスの話しだけに終始せずに、夫婦のいろんな問題を描いて欲しかったですね。
正直言って、この映画のメリル・ストリープを観て、「なんで、この映画でここまで頑張るの?」と思ってしまった・・・。

そりゃ、結婚生活が31年も続けば、いろんな軋轢はあるでしょう。
お互いに文句をつけたくなるところは、いっぱい出てくるでしょうし、第一、お互いに年をとってしまいます。
場合によっては子育てや介護の問題、浮気やリストラなど、和解しがたい問題だって起こりうる。

それを考えれば、この映画で描かれたエピソードに物足りなさを感じたのは事実ですね。
全体的にはそれなりに体裁を整えているし、大きな破綻はないように映画は完成している。
しかし、どこか...僕はこの映画から、どうしても妙な違和感を映画の終盤まで拭えませんでしたね。

それが解消されたのは、予定調和と思えるところはありますが、
エンド・クレジットで描かれた、第二の結婚式のエピソードでこれはホントに良いシーンになっている。

多くの観客の予想を裏切ることなく映画はフィニッシュしますが、
この第二の結婚式は、事前の予想を遥かに上回る素晴らしいシーンと言っても過言ではなく、
映画を最初から観ていて思わず感じてしまったのですが、チョットこの映画には勿体ないぐらい良い出来だ(笑)。

まぁ・・・チョット大袈裟かもしれませんが、デビッド・フランケルはこのラストを描けただけで収穫だったのかも。

というわけで、デビッド・フランケルが映画のアプローチをもう少し見直していれば、
もう少し、気持ち良く観れるコメディ映画になっていたと思うのですが、どうも居心地が悪い部分があったなぁ。
残念ながら日本ではレイティングの対象になってしまった理由も、なんとなく頷けてしまいます。
別に万人ウケする映画でなければならないということはありませんが、あまりにアプローチが悪いというか、
全体的に笑いのポイントに上手さが無く、ただただ下世話な話しで終わってしまった感が強いんですね。

そういう意味では、違うディレクターが撮っていれば・・・と思えてしまうんですよね。
『プラダを着た悪魔』を観る限りでは、デビッド・フランケルはもう少しデキる映像作家だと思っていただけに、
アプローチの悪さが影響して、居心地が悪いコメディ映画になってしまった点は、期待ハズレでしたね。

ただ、一つだけ言えることは、本作はアメリカでは酷評されていないということ。

ということは、セックスレスであれば夫婦でいる価値はないと考えている人が多いのではないか?
日本ではそれに代わる新たな“愛の形”があるのであれば、それはそれでいいじゃないかと考える人が
多いのではないかと思うのですが、セックスレスが夫婦の危機という捉えになる価値観だからこそ、
本作のような描きた方がある程度、許容される環境があるのではないでしょうかねぇ。

しかし、それは僕だけなのかもしれませんが、
ある種の強迫観念のように、それが夫婦のプレッシャーに変わってしまうようで、
今現在の僕の価値観から言っても、そんな夫婦関係は嫌だなぁ〜と思えてしまう。
これは少し安直な言い方なのかもしれないけど...やはり“お国柄”の違いは大きいのかもしれませんね。

そのせいか、一方的に自分の価値観だけで論じるのは、いかんなぁ・・・と考え込んでしまいました(笑)。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 デビッド・フランケル
製作 トッド・ブラック
    ガイモン・キャサディ
脚本 ヴァネッサ・テイラー
撮影 フロリアン・バルハウス
編集 スティーブン・ワイズバーグ
音楽 セオドア・シャピロ
出演 メリル・ストリープ
    トミー・リー・ジョーンズ
    スティーブ・カレル
    ミミ・ロジャース
    エリザベス・シュー
    ジーン・スマート
    ダミアン・ヤング