勝利への旅立ち(1986年アメリカ)

Hoosiers

1951年のアメリカ中西部に位置する田舎町を舞台に、
バスケに熱心な町唯一の高校のバスケ部コーチに就任した、ニューヨークからやって来た中年男性が
閉塞的な町の空気や体質と闘いながらも、バスケの基本を教え込むことによって、
ただ闇雲にゲームをこなしてきたチームに、勝利するためのプロセスを吹き込む様子を描いたスポーツ映画。

確かにこの映画、ひじょうに熱いスポーツ映画であり、
いわゆるスポ根映画ではあるのですが、大袈裟な演出に溺れるわけではなく、
どこか客観的でクールな空気を感じさせる、作り手の姿勢が新鮮味すら感じさせます。

往々にして、お約束のストーリー展開であり、突飛な仕掛けはどこにもないのですが、
これだけしっかりした演出なせいか、「分かっていても、思わず見入ってしまう」という魅力があります。
どうやらデビッド・アンスポーはスポーツを題材にした映画を中心的に製作しているようなのですが、
試合のシーンに随分とこだわりがあるようで、カメラワークも抜群に素晴らしいですね。

特にデニス・ホッパー演じるアル中のシューターが一人でコーチしなければならなくなり、
タイムアウトをとって、選手を集めて指示を出すシーンなんかで、急速にカメラが寄っていくのも印象的。

80年代半ばはジーン・ハックマンもすっかり低迷してしまい、
この頃は出演作を選ばず、来た仕事は全て受けていたかのような皮肉を言われておりましたが、
本作をキッカケに90年代前半に再び、彼の役者としての評価を上げることにつながりましたし、
完全にスランプに陥って、ハリウッドでもトラブルメーカーの烙印を押されてしまっていた、
デニス・ホッパーがアカデミー賞にノミネートされるなど、映画の中での出来事と同様にして、
彼らも再びハリウッドで評価されることにつながったという意味でも、ひじょうに価値ある作品だと思いますね。

バスケの練習として、ひたすら軍隊のようなプログラムを組んで、
すぐに効果が出ないながらも、徐々に試合で成果を出していく過程は実に興味深く、
これはバスケだけの話しではなく、ほとんどのスポーツに共通したことが言えると思う。

しかし、この映画は余分なドラマを一切省き、
基本は試合のシーンで描いていくというアプローチも潔く、映画の見せ方も単純明快で良いですね。
スピードよりもパワーを意識した映像構成で、全体的に実にタフなシーン演出に徹しているのも良い。

この映画に関して、よく言われることなのですが...
ここまでバスケ中心に描き、一切の人間ドラマに言及しなかったのですから、
いっそのことなら、同僚の女性教師とのロマンスも描かない方が良かったように思いますね。
特にメイン・ストーリーに於いて、必要不可欠な要素とも思えず、あまり意味がないシーンと感じました。

それと、もう一点。
映画の途中で、地域住民から主人公を解雇するよう声が上がって、
集会所で何故か選挙が行われ、審議されるなんてシーンがあるのですが、このシーンの処理が上手くない。
一人だけ突出した能力を持つとされるジミーが単独で会場へ現れ、意思表示させるのですが、
「プレーヤーとして復帰したいが、コーチが辞めるなら、オレはやらない」と発言した途端に、
それまで変化を徹底して嫌い、コーチを罵倒し続けた地域住民が、一転してコーチを支持します。

一見すると、説得力があるように見受けられますが、
僕にはこのシーン処理が安直なものにしか見えず、もっと上手いシーン処理があったと思う。

そもそも地域住民もジミーの能力を認めているとは言え、
チームの戦術にまで口を挟み、練習ですら見させろと主張するような地域住民が
この程度でコーチの留任を支持するなんて、にわかに信じ難い話しで、どこか胡散臭い気がする。

どうせ中途半端に描くぐらいなら、この選挙のシーンも僕は省いても良かったと思う。
でも、これはこれで主人公が一度、諦めかけた道を再び取り戻すのに役立つエピソードだから、
粗末に扱うものでもないでしょうから、僕はもっと上手い解決の方法を考えて欲しかったですね。
例えば、地域住民の中に一人でも主人公の良き理解者を作るとか、シューターを絡ませるとか、
何かしらの存在が必要だったはずで、ここでジミーの発言で解決してしまうのは、いささか安直な気がします。

あくまで本作はバスケを題材としておりましたが、
主人公のアプローチや指導方針は強引過ぎるとは言え、僕は物事の取り組みの姿勢として、
とても大切なものを描いていると思いますね。彼のポリシーは決して、僕は間違ってはいないと思います。

今の社会って、稀に“目的と手段を履き違えている”ような取り組みがあったりして、
見てくれだけを固め、中身が伴っていないという例が数多く実在しているように思います。

僕は社会全体として、何処かでそういう風潮を断ち切らないと、
特に日本の場合は一時良かったとしても、長いスパンで考えると衰退の一途を辿るだけだと思います。
何事にも基本があって、その上に様々な要素が積み重なり、初めて応用の分野が成立するはずです。
結果を追い求めるあまり、そのプロセスが疎かになり、取り組みの順序が守られず“その場しのぎ”が横行し、
結局、何も得られないというジレンマを多く見ましたが、悲しいことにそのことに気づいているのは、ごく少数です。

主人公はあくまで「勝利」を得ることが目的ではあったと思うけど、
彼が敢えて守り続けたことは、勝つために必要なプロセスであり、そのためには選手を統率する必要性を
感じていたわけで、それゆえに半ば独裁的に見える体制を敷き、ただ漫然とゲーム形式の練習をしていたのを
基本をミッチリ仕込む方針に変え、戦術もより単純明快なものへと変えていきました。
その苦しい練習こそが、勝利への切符を手にする第一条件であることを彼は知っていたからです。

そういう意味でも、いろんな方々に観て頂きたいオススメの一本ですね。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 デビッド・アンスポー
製作 カーター・デ・ヘイブン
脚本 アンジェッロ・ピッツォ
撮影 フレッド・マーフィ
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 ジーン・ハックマン
    バーバラ・ハーシー
    デニス・ホッパー
    シェブ・ウーリー
    ファーン・パーソンズ
    チェルシー・ロス
    エリック・ギリオム
    デビッド・ニードルフ

1986年度アカデミー助演男優賞(デニス・ホッパー) ノミネート
1986年度アカデミー作曲賞(ジェリー・ゴールドスミス) ノミネート
1986年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞(デニス・ホッパー) 受賞
1986年度インディペンデント・スピリット賞新人作品賞 ノミネート