さよなら、さよならハリウッド(2002年アメリカ)

Hollywood Ending

これは如何にもウディ・アレンらしい、
皮肉たっぷりの映画ではありますが、今回は少しばかり持ち味を活かしたギャグが不発かな。

映画は別れた妻が裏で働きかけたおかげで、
実に高額な予算を擁した映画の企画の中で、監督として抜擢された、
かつてオスカーを2回受賞した落ちぶれた映画監督が、別れた妻と一緒に仕事をするという
猛烈なストレスが原因でストレス障害による一時的失明を発症してしまいながらも、
仕事を遂行して報酬を得ることを目的に、必死に彼の失明を隠し通そうとする姿を描いたコメディ映画。

映画の邦題を見ても分かる通り、
この映画は長年、ハリウッドのある西海岸地区へ行くことを嫌悪し続けたウディ・アレンらしく、
ニューヨークへの強烈なこだわりと共に、ハリウッドの商業主義との決別を描いた作品であり、
そのラストのあり方についても、「●●があるからいいや」とあまりにシニカルなオチを付けています。

なんかハリウッドの商業主義を批判するがために、
こんな大掛かりな映画を撮るなんて、如何にもウディ・アレンらしい手口ですが(苦笑)、
撮影監督は中国人じゃなきゃダメだとダダをこねたり、音楽監督や美術監督なども指名し、
まるで調和しない撮影現場は大混乱、結局、撮影は上手くスムーズに進みません。

僕はウディ・アレンには、いつまでもくっだらないコメディ映画を撮り続けて欲しいと思っていますが、
本作もその片鱗が見えたのは、少しだけあって、部分的には確かに面白かったとは思います。

例えば、別れた妻エリーと撮影開始する前に一緒にレストランで食事するようセッティングされ、
最初は「オレも仕事だし、いろいろと意見はあるんだ」とエリーに建設的な姿勢であることを示しつつも、
いざ話し始めると、何かにつけてエリーが浮気したことに結び付け、ネチネチと文句を言い始めるという、
男として何とも情けない側面を見せ始める様子が面白く、これは如何にもウディ・アレンらしいなぁと感じました。

本作では色々とスラップスティックなギャグも積極的に採り入れており、
一時的失明してしまったヴァルは映画の撮影セットから転落したり、
今回のウディ・アレンは久しぶりに動きのあるドタバタ劇を撮ろうとする意図もあったのですが、
やはり踏み切れず、チョットだけドタバタ劇を描いて終わってしまいましたね。
これは徹底してドタバタ劇を見せた方が、僕は映画に一貫性が生まれて良かったと思いますね。

そう、この映画で物足りない部分はコメディ・パートの弱さなんですね。
ウディ・アレンの怨念(?)にも似た、特別な感情を感じる作品であるがゆえ、
どうも茶化しきれなかったのか、映画の結末への結び付きもあまりに強引で納得性に欠けるし、
コメディ・パートもニヤニヤし切れない程度のギャグの連発で、吹っ切れていないですね。

まぁこれは同業者にはウケるタイプの映画なのでしょうね。
でも、僕はだからイヤなのです。映画人が映画界の内幕を描くってのは、こういう馴れ合いが感じられて。

まぁそんな意見も汲んでか、
劇中、映画に於ける芸術性と商業性の両立についてウディ・アレンが茶化す一面もあるのですが、
この映画はこのままでは「マスタベーションだ」と揶揄されても、仕方ないかなぁとは思いますね。

これは紙一重の関係ではありますが...
「ホントに良い映画を撮りたい!」とする気持ちと、「ハリウッドを皮肉りたい!」とする気持ち。
このバランスが大事で、後者が前者を越えると、一歩間違えると方向性を見失ってしまいますね。
さすがに本作はウディ・アレンが方向性を見失っているわけではないのだけれども、
どことなく「ハリウッドを皮肉りたい!」とする意図が強く出てしまって、映画が嫌味になってる気がしますねぇ。

あと、もう一点、不満だったのは...
エリーを演じたティア・レオーニがイマイチ輝いていないという点ですね。
ヴァルがエリーを諦め切れないという設定は分かるのですが、そこまでヴァルが彼女のことを想う、
そこまでエリーが魅力的な女性として映っていたかというと、それは甚だ疑問なんですね。

これならば00年の『天使のくれた時間』での彼女の方が、ずっと良かったと思いますね。

エリーを魅力的なキャラクターとして描かずに、
結果的にウディ・アレンだけが目立ってしまったというのは、避けるべき結果だったと思いますけどね。

ですから、この映画の微妙な居心地の悪さは、
ウディ・アレンの自己主張が少し強く出過ぎていることに起因していると感じるんですよね。
それは恥ずかしげもなく、主演女優に誘惑されるエピソードにも、象徴されてるかな。

個人的にはウディ・アレンは監督に専念して、
自分以外の役者にヴァルを演じさせ、客観的な視点から本作を撮った方が良かったと思いますね。
そうすれば、こういった居心地の悪さは生じなかったはずで、違った印象を持てたかもしれません。

さすがにホントにハリウッドに嫌気が差していたウディ・アレンは、
05年の『マッチポイント』を皮切りにイギリスへと活動の場を移してしまいました。

本作もどういった経緯なのかよく分かりませんが、
03年の『僕のニューヨークライフ』と04年の『メリンダとメリンダ』などと共に、
約3年間もの間、お蔵入り状態で一気に劇場公開されるなど、不遇の扱いを受けた作品でもあります。

この扱いの悪さも、段々、ウディ・アレンのブランド力が衰えてきた証拠なのかもしれない・・・。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ウディ・アレン
製作 レッティ・アロンソン
脚本 ウディ・アレン
撮影 ウェディゴ・フォン・シュルツェンドーフ
編集 アリサ・レプセルター
出演 ウディ・アレン
    ティア・レオーニ
    トリート・ウィリアムズ
    ジョージ・ハミルトン
    デブラ・メッシング
    ティファニー・ティーセン
    マーク・ライデル