ハイ・フィデリティ(2000年アメリカ)

High Fidelity

ニック・ホーンビーのクセのある人気小説の映画化。

シカゴで中古レコード屋を経営する30代独身男性が、自身の恋愛遍歴を振り返り、
いつも自分がフラれることを気にして、30代に入って本気になった気の合う女性ローラとの失恋を機に、
今までのフラれたカノジョTOP5を振り返り、あらためてローラの良さを知る音楽満載のコメディ映画。

監督は主演のジョン・キューザックと旧知の仲のスティーブン・フリアーズ。
原作では物語の舞台がロンドンになっていましたが、映画ではシカゴに変更になってましたが、
上手くアメリカ・ナイズされた雰囲気に生まれ変わり、映画はテンポ良く、スマートな仕上がりと感じました。

おそらくこの原作、映画化することは相当に難しかったはずだ。
そもそもニック・ホーンビーは熱狂的なファンがいることでも有名ですが、内容は映画的ではない。

それゆえ、如何にして映像化することで楽しさや醍醐味をだすか、
そして起承転結をキッチリつけて、映画として成立させるかが大きなポイントだったことでしょう。
そこを巧みにクリアできたせいか、本作は劇場公開当時、全米でもそこそこヒットし、評価も高かった記憶があります。

これはスティーブン・フリアーズの演出センスの良さもあったとは思いますが、
映画の題材自体、おそらく映画化に最も情熱を注いでいたのは、製作総指揮としてクレジットされている、
主演のジョン・キューザックで、彼自身が誰よりも映画化を成功させたかったのかもしれません。

確かに彼が演じるにはピッタリの役柄で、世代的にもドンピシャなんでしょうね。
そろそろ真剣に結婚を考えなければならない年代でありながらも、どこか大人になり切れない。
そんな世代の難しさを、当時、既にクラシック化されていた70〜80年代の音楽を中心に綴っていきます。

あくまで映画として考えたとき、本作の大きな特徴は主人公が観客へ向かって、
彼なりの言い訳と本音を吐露することで、映画を強引に進めていく手法でしょう。
そもそも彼は強烈なまでの音楽オタクで、それ以外の面でも我が強い。音楽オタクと言っても、
勢い余って自分で中古レコード・ショップを経営するくらいで、自宅のレコード棚も凄まじい枚数を保有している。

そうなだけに、これまでの人生、財力のほとんどをレコードやCDに費やしてきた人でしょう。
僕も洋楽が大好きで、一時期はほぼ洋楽にお金をつぎ込んでいましたが、さすがにここまでではなかった(笑)。

いやはや、こういう人の金銭感覚や人生の中で大切にしていることって、
一般的な感覚の持ち主とあまりに違い過ぎるので、こういう趣味がない人には間違いなく共感は得られない。
オマケに経営する中古レコード屋、ブートレグ(海賊版)も扱っていることを示唆しているので、
よりディープというか、著作権に厳しく、ブートレグを扱いにくい欧米では、更にマニア向けな店舗だと思う(笑)。

そんな変な人が、延々と失恋について愚痴る映画だから、余計に理解されにくいだろう(笑)。
でも、この映画、モテない人生を歩んできた男性には最高にウケるタイプの映画なのかもしれません。

主人公のレコード店で4年前に週3日のアルバイトとして採用した2人のレコード・マニアが、
いつの間にか毎日、店番に来るようになったというエピソードも面白いが、何よりそのうちの1人を演じた、
ジャック・ブラックが強烈なまでのインパクトを残し、本作で音楽マニアを好演したからこそ、
彼は03年の『スクール・オブ・ロック』の主演への大抜擢があったのかもしれませんね。

映画のラストにマーヴィン・ゲイの名曲 Let's Get It On(レッツ・ゲット・イット・オン)を
大熱唱するのですが、これが吹き替えなのかと疑ってしまうくらいの上手さで、映画の中ではさすがに
吹き替えっぽいけど、どうやら歌自体はホントに彼が歌ったヴァージョンのようですね。

劇中、主人公へ失恋を忘れるためのアドバイスを送るメッセンジャーとして、
ミュージシャンのブルース・スプリングスティーンが本人役で出演しており、これはおそらくジョン・キューザックの
人脈でもあったと思うのですが、この出演は珍しいですね。これまでアメリカ国民の代弁者として、
彼は音楽をやり続けていましたが、本作ではさながらモテない男の代弁者とでも言うべき登場ですね。

ちなみに映画のクライマックスで、誰かにプレゼントするテープづくりについて、
主人公のロブが語っていますが、彼が吐露する気持ちは僕はよく分かりますね(笑)。

ハッキリ言って、余計なお世話な気遣いで、ほぼマスタベーションの世界なのですが...
音楽好きな人って、ああいうテープ作りが好きな人は多いのではないでしょうか?
そして、勝手にこだわって、ほぼ聴く(テープをもらう)人のことを考えず、一方通行な構成にする。
あれって、作ること、テープをプレゼントすることで満足するんですよね。主人公のロブはローラとの恋愛の
集大成を構築するために、ローラのことを想いながらテープを製作するんですが、あれもほぼ自己満足(笑)。

これもまったく、自分勝手な理屈なんですけれども(笑)、
その自己満足なものをプレゼントするということだけで、テープをつくる人は満たされるんですよねぇ。
(いや、中にはキチンと聴く人のことを考えて、しっかりと作る人がいることも否定はしませんが・・・)

この映画って、こういったマニアの勝手な生態を上手く描いていると思います。
どこか一般的な感覚とズレてしまっているので、いつまでも理解されないところはありますが、
最後の最後に擁護するのもいかがなものかと思いますが(笑)、彼らは基本、良い人なんです(笑)。

そんな愛すべきキャラクターが数多く出演しており、
言わば、映画はモテない独身男性へのアンセムを綴っていると言っても過言ではありません。
それを体現した、主演のジョン・キューザックはホントに上手くって、彼の代表作の一つと言っていいくらいだ。

2000年頃は、60〜80年代の洋楽へ敬愛を示したような映画が幾つか作られていて、
僕の中では、凄く印象深い頃なのですが、その中でも本作は有数の秀作で愛すべき映画だと思います。

僕はさすがに週3日のアルバイト契約だったのに、いくら好きだからと言って、
毎日のように店番しに行くなんて、チョットありえない感覚ではありますが(笑)、
近所にロブが経営しているような中古レコード・ショップがあったら、客として通っちゃうでしょうね。
日本でもオンライン配信が浸透したおかげで、レコードやCDのショップって、大手も含めて、
かなり縮小傾向にあるように見えますが、やっぱり店頭で選ぶ楽しみって、ファンにとっては何物にも替え難い。

そういう意味でも、こういうお店は末永く営業していて欲しいなぁ〜。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 スティーブン・フリアーズ
製作 ティム・ビーバン
   ラッド・シモンズ
原作 ニック・ホーンビー
脚本 D・V・デビンセンティス
   スティーブ・ピンク
   ジョン・キューザック
撮影 シーマス・マッガーウェイ
音楽 ハワード・ショア
出演 ジョン・キューザック
   ジャック・ブラック
   イーベン・ヤイレ
   リサ・ボネ
   ジョエル・カーター
   ジョアン・キューザック
   サラ・ギルバート
   リリ・テーラー
   キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
   ナターシャ・グレグソン・ワグナー
   ティム・ロビンス