ハイ・クライムズ(2002年アメリカ)

High Crimes

そんなに出来の悪い映画とまでは言わないけれども・・・
これはさすがにラストの展開に無理があるだろう。これで一気に映画が崩れちゃいましたね。

一見すると、マジメそうで家庭生活を大切にする亭主だと思っていたトムが
実は10年以上前のエルサルバドルでの大量殺人事件で軍部から指名手配されていた男で、
突如として逮捕されてしまい、世間の常識が通用しない軍事裁判にかけられる姿を、
彼の弁護に奔走する弁護士である、彼の妻を主人公に描いたサスペンス映画なのですが、
まぁ90年代後半からモーガン・フリーマンが出演するサスペンス映画が何本か立て続けにヒットしたせいか、
どうにもどれも一緒に見えてしまうという(笑)、そんなジレンマを象徴するような一本だ(笑)。

おりしもモーガン・フリーマンとアシュレー・ジャッドも、
97年の『コレクター』で共演しており、『コレクター』も本作と同じく、ドンデン返しを描いた映画なため、
どうにも本作が『コレクター』の二番煎じの映画のような気がしてならず、どうにも盛り上がりませんね。

前述した、本作のラストの猛烈な違和感は『コレクター』のドンデン返しと似ていて、
僕はやはり『コレクター』もあまり感心する出来の映画ではなかったのですが、
やはり当時の流行りのせいなんですかねぇ。当時、ハリウッドでもアシュレー・ジャッドは
トップ女優の一人でしたから、やはり彼女のネームバリューで映画化が実現したと言っても過言ではないでしょう。

確かに映画の前半から、常に「この映画、何か“裏”がある」と疑わしき雰囲気はあるのですが、
いっそのこと、強烈な向かい風の中で、無罪を勝ち取ることの難しさを描いた方が良かったですね。
(って、そんなテーマにしてしまったら原作を完全に無視することにはなるのですが・・・)

劇中、ウソ発見器に関するエピソードなどもあるのですが、
どうも映画の道具としては単発的で活かし切れていませんね。もっとこういったアイテムは機能させて欲しいです。

監督は『青いドレスの女』のカール・フランクリンで、
彼はサスペンス映画を中心に創作活動を展開してきましたが、98年に『母の眠り』なんて、
ヒューマン・ドラマも手掛けており、意外に結構、器用な側面のある映像作家なのかもしれませんね。

個人的には、もうチョット、軍事裁判の不条理な部分について言及して欲しかったですね。
これでは今一つ肉薄し切れていないし、もっともっとヒロインを精神的に追い込んで欲しかったですね。
そのせいか、僕は観ていてずっと気になっていたのですが、映画の緊張感が希薄なんですよね。
それを補うためか、まるでプライバシーも筒抜けになっている描写など、立場的に追い込まれたり、
かなり直接的な脅迫行為を受けたりする危険に遭うエピソードもあるにあるのですが、
イマイチ、映画に緊張感が希薄なせいかスリリングに展開しないし、サスペンスが盛り上がらないですね。

この緊張感が希薄な点と、ラストのドンデン返しの無理矢理感がどうしても気になりますね。
この辺はやはりサスペンス映画としては、致命傷に近い難点のように思えてしまいますね。

それを考えれば、軍部が何故に頑なにヒロインの妨害をするのかも、分かるようで分からないのです。
真実は十分に調査されていなかったのかもしれませんが、おそらく推測はできたはずで、
あれだけ厳粛に軍事裁判を行うのですから、その調査も行われないほどずさんなものと言うには、無理があります。
そういう意味では、ヒロインの亭主に罪がなすり付けられる明確な理由を、何か作って欲しかったですね。

ヒロインを演じたアシュレー・ジャッドは最近でこそ、すっかり映画出演のペースをセーブしてしまいましたが、
本作は彼女の魅力が満載で、疲れた表情でもまるでスッピンのように見せたメイクでも、キレイですねぇ(笑)。

年齢的なものもありますが、やたらと子作りに積極的だという設定もそうなのですが、
当時はおそらく30代の女性のシンボル的な存在として、認知されたのでしょうね。

基本的にできる女性を演じているのですが、独立精神旺盛ながらも無実を信じる夫の弁護のため、
証拠集めに奔走し、軍事裁判のシステムを必死になって勉強する姿が、実に魅力的なキャラクターですね。
それでいながら、次第に直接的になってくる脅迫に怯えながらも、果敢に挑戦していく姿も良いですね。

多少、こういった役柄が彼女の定番になり過ぎた感はありますが、
やはり彼女に一番、似合っているんでしょうね。何度でも言いますが(笑)、僕はこの頃に彼女は
もっといろんなジャンルの映画に出演して、いろんな役柄を演じれば更に飛躍したと思うんですよね。
僕は彼女はこの頃、「10年後にはもっとビッグになっているんだろうなぁ」と期待してたんですがねぇ。
やはり演技派女優としての評価が高まらなかったのが、飛躍できなかった要因ですかねぇ〜。

この映画は特に目的をハッキリさせて欲しいですね。
なんかラストにドンデン返しを作るためだけにある映画という感じがして、映画の本質を見失っている気がします。

確かにかつてこの手の映画が流行した時期がありましたが、
僕はもっと作り手に映画の本来あるべき姿が何であったかを、思い出して欲しいんですよね。
特に本作なんかはドンデン返しがあること前提で進む映画ですから、各シーン演出が疎かになり、
結果として映画が最後の最後まで盛り上がらなかったという印象しか残らないんですよね。

往年に活躍した、サスペンス映画の名匠アルフレッド・ヒッチコックにしたって、
ラストにドンデン返しを見せるためだけの映画であるからといって、それまでの演出を粗末にした作品はないわけで、
しっかりと映画の本質を捉えていたと思うんですよね。確かに映画もドンドン、進化していくのですが、
こういった映画の本質というのは、常に不変だと思うんですよね。それを見失ってはいけないと思います。

『コレクター』から続く、モーガン・フリーマン出演のサスペンス映画が好きな人にはオススメできますが、
雰囲気から作り込むサスペンス映画が好きな人には、オススメできない作品ですね。
ストーリーを深読みする傾向のある人にも、早い段階でラストが予想できるので、興冷めするかもしれません。

(上映時間115分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 カール・フランクリン
製作 ジェシー・ビートン
    アーノン・ミルチャン
    ジャネット・ヤン
原作 ジョセフ・ファインダー
脚本 ユーリー・ゼルツァー
    グレイス・ケイリー・ビックレイ
音楽 グレーム・レヴェル
出演 アシュレー・ジャッド
    モーガン・フリーマン
    ジム・カビーゼル
    アダム・スコット
    アマンダ・ピート
    マイケル・ガストン
    トム・バウアー
    マイケル・シャノン