ヒーロー/靴をなくした天使(1992年アメリカ)

Hero

ケチなコソ泥をはたらくバーニーが、
離婚した妻と暮らす子供と会う日に、たまたまテレビキャスターらが搭乗した飛行機の墜落した現場に
遭遇したところから、搭乗者54名全員の人命を救うヒーローになりながらも、
子供との約束をすっぽかしてしまったことと、窃盗で執行猶予中の身であったことから現場を立ち去り、
テレビ局が用意した賞金目当てで、別なホームレスが名乗り出たことから騒動になる様子を描いたコメディ映画。

監督は90年に『グリフターズ/詐欺師たち』で評価されたスティーブン・フリアーズですが、
本作は一転して、コメディ調の映画に仕上げておりますが、映画の出来自体はそこそこ良いと思います。

個人的にはもう少し評価されても良かったと思えるぐらい、
充実した内容だと思いますが、ダスティン・ホフマンとアンディ・ガルシアが共演するなど、
当時としてもキャスティング面でももっと大きな話題となっても良かったと思える企画でもあり、
今となってはすっかり忘れられてしまったような、どこか斜陽な存在の映画であることが不遇にも思えてなりません。

この映画はとってもテンポが良くって、
作り手が描きたいビジョンがハッキリしていて、明快なコンセプトになっているのが良いですね。
確かに大ヒットするような内容ではないかもしれないし、映画賞レースに加わるようなタイプの映画ではないけど、
人を先入観だけで決めつけてしまうことの浅ましさ、正直に生きることの大切さを問う映画として悪くないと思います。

さすがのダスティン・ホフマンの上手さが光る作品になっていて、
今はセクハラ騒動で何かと話題になっているようで、これだけ出来る力量があるだけにスキャンダルが残念ですね。

映画の後半で、ジーナ・デービス演じる女性キャスターのゲイルが
バーニーとホームレスの“ヒーロー”となったジョンの関係性を、事実とは全く逆なことを並べていて、
それを黙って聞きながら、さり気なく彼が見せるリアクションなんかは、相変わらず凄く上手い。

たまたま大雨の夜に車が故障して拾ったバーニーから聞いた話しと、
もらった片足の靴を証拠にして、“ヒーロー”と名乗り出たジョンにしても、ある意味でメディアの被害者かもしれない。

そんな現代社会に翻弄される人々のめぐり巡る数奇な人生を、
スティーブン・フリアーズも明らかにフランク・キャプラのテイストを参考にしたと思われる演出で、
どこかウェルメイドで暖かい映画に仕上げていて、現代に蘇ったノスタルジアの一つと言っても過言ではない。
作り手がどこまで狙って、この仕上がりになったのかは分かりませんが、とっても良く出来ています。

ひょっとすると、現時点でのスティーブン・フリアーズが作った映画で、最高の仕上がりと言ってもいいかも。

ある意味で、この映画は真のヒーロー像を問う内容の映画にはなっているのですが、
例え英雄的行動を行っても、必ずしも報われるとは限らないということを、静かに描いているのは凄い。
そもそもバーニーの場合は、たまたま通りかかったとは言え、墜落した飛行機が炎上しかかっているのに関わらず、
多くの乗客が中にいるという助けを求める声に対して応じた行動自体が称えられるべきで素晴らしいのですが、
彼の価値観としては、そこは重要ではなく、目の前のお金を手にすることと、息子と触れ合うことが重要なのです。

それゆえ、テレビ局がヒーローを求めていても、バーニーは名乗り出ようとはしません。
ここでメディアに振り回されるか、振り回されないか、バーニーとジョンの分岐点が明確になります。

テレビに出演して有名になることよりも、名乗り出たら100万ドル進呈という
テレビ局オーナーの発案を聞いて、初めてバーニーは心が大きく揺れ動きますが、それもあくまで金目当て。
世の中が求めている英雄像とは大きく乖離しているだけでなく、バーニーは金さえ手にすればいいという程度だろう。

旅客機墜落で全員を助けたという英雄と聞くと、メディアは過剰なヒーロー像をかき立て、
世論もよりドラマティックで、分かり易い展開を望むせいか、少なくともバーニーのようなケチなコソ泥が
半分金目当てでテレビに出てくるようなことは、誰も望んでいないわけで、むしろ失望を生むことでしょう。

一方のジョンは、やはり金目当てではあったかもしれませんが、
何より寂しさから、有名になることもホームレス生活を変えるためには必要とばかりに
自ら進んでテレビに出てくることにより、彼は一躍全米トップスターばりに英雄的行動がクローズアップされていきます。

でも、ウソをついて英雄になったとしても、それはそれでツラいもの。
ジョンは心の優しさもありますが、短期的に金を手にすることができるだけでなく、
世論からもてはやされ、過剰なまでに英雄視されることによって、彼は次第に精神的に追い込まれてしまいます。
そこでバーニーが実際に彼の目の前に現れたことに気付くと、ジョンのマインドは一気に崩れてしまいます。

メディアの発信力ということもありますが、当時ですら拡散力は強かったのですが、
今はむしろメディアが弱体化したものもあり、一方でネット社会になると、一般人の手で加速度的に拡散します。
それもボーダーレス。1992年当時では考えられないぐらいのスピードで拡散することを考えると、
これが現代で同じようなことが起きれば、凄まじいスピードで拡散するので、全く違う内容の映画になっていたでしょう。

当時、そこまで予見できていたわけではありませんが、
スティーブン・フリアーズも実に多様な見方ができる演出になっており、とっても器用なディレクターなのかも。

本作で真の英雄とは何かを問うと同時に、メディアを通して世論が過剰なまでにドラマを求め、
分かり易い英雄を求めることと、それを仲介するメディアが英雄の虚構を作ることを助長することによる、
社会の不条理さを実に真摯な姿勢で描いていて、この映画の教訓の一つとしてしっかり描かれている。

良い意味で、この映画は上手く各ピースがハマったという感じで、出来は良いと思う。
ここまで収まりの良い仕事は、そう簡単に出来るものではありません。
シナリオの良さもあったのでしょうが、フランク・キャプラ風の演出が良い相乗効果を生み出したようです。

あまりメジャーな作品ではありませんが、
一見の価値ある作品として、是非とも多くの方々に観て頂きたいと素直に思える映画だ。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 スティーブン・フリアーズ
製作 ローラ・ジスキン
脚本 デビッド・ウェッブ・ピープルズ
撮影 オリバー・ステイプルトン
音楽 ジョージ・フェントン
出演 ダスティン・ホフマン
   ジーナ・デービス
   アンディ・ガルシア
   ジョアン・キューザック
   ケビン・J・オコナー
   スティーブン・トボロウスキー
   スージー・キューザック
   チェビー・チェイス
   トム・アーノルド