突撃隊(1961年アメリカ)

Hell Is For Heroes

ドイツ軍と壮絶な闘いが繰り広げられたジークフリート要塞戦にて、
いつ帰還できるかとワクワクしていた部隊に、再び前線に出ていくように言われた兵士たち。
軍部から左遷されてきたリースを中心に、僅か6人という少人数部隊がトーチカで待つことになり、
ドイツ軍からの攻撃に必死に耐えながらも、信念を貫き、闘う姿と戦地の狂気的側面を描いた戦争映画。

監督は名匠ドン・シーゲルで、主演はスティーブ・マックイーンという豪華な布陣。
しかし、何故か低予算映画な感じで、日本でも知名度は上がらず、ドン・シーゲルのB級映画路線を象徴する作品だ。

僕はこの映画、凄く面白いユニークな作品だと思う。
まずは主演のスティーブ・マックイーンがどことなくカッコ悪いキャラクターなのが良い。
彼は60年の『荒野の7人』で一気にブレイクし、アメリカを象徴するヒーローとしてスターダムを駆け上がりますが、
映画俳優としては、やはり抜群にカッコ良い役柄ばかり演じてきたようで、本作はかなりの異色作だ。

良く言えば、「戦地では頼りになる男だ」という評価になるかもしれないが、
寡黙に頑固に生きる姿を貫きながらも、結構、ドジを踏むというか、必ずしも良い結果を生んでおらず、
ドン・シーゲルも意識的に彼を必要以上にカッコ良く描かないようにしており、どこか稚拙に映る部分を残している。

それだもの、左遷はさせられるは勝手な行動を非難されるわと、どこか踏んだり蹴ったりだ。
これだけ観ると、従来のマックイーンの出演作品と比べると、随分と毛色が異なる様相だ。

61年というハリウッドの時代性を考えても、カラー撮影が当たり前になりつつある頃で、
勿論、まだモノクロ撮影映画はありましたけど、規模の大きな戦争映画ではカラー・フィルムが主流だったことから、
別にドン・シーゲルの映画監督としてのランクを考えると、カラー・フィルムとして仕上げることはできたはずだ。
でも、本作は敢えてモノクロ撮影にした感じだ。これは頑固なドン・シーゲルが、敢えて低予算を選択したかのようだ。

いつもはナイスガイを演じるスティーブ・マックイーンも、かつては勲章をもらいながらも、
仲間を暴行した嫌疑がかけられ左遷され、すっかり斜陽な存在になってしまった兵士を演じており、
本作ではどちらかと言えば、アウトローなマックイーンのシルエットがデフォルメされている。

要所では、ピシャッと頼れる姿を演じてはおりますが、
ドン・シーゲルもどこか屈折した側面を感じさせるように描いており、これはこれで戦争の暗部を描いていると思う。

これはアウトローなスティーブ・マックイーンというよりも、
ダークサイドな部分を表現したスティーブ・マックイーンという意味で、異色な出演作品なのかもしれません。
既にハリウッドでも名の知れた俳優だっただけに、このような作品に出演すること自体、貴重なことだったと思います。

小隊の一員としてジェームズ・コバーンが出演しておりますが、
彼は本作ではあくまで脇役キャラクターであり、そこまでの存在感の強さは感じられませんね。
マックイーンとジェームズ・コバーンが夜間にほふく前進していくシーンで、地雷を探りながら進む緊張感が素晴らしい。
おそらくこのシーンと、衝撃的なクライマックスは劇場公開当時としてもインパクト絶大だったことでしょうね。

劇場公開当時、実際にどう扱われたかまでは分かりませんし、
今となってはマイナーな存在の映画ですので、本作の影響力の大きさは分かりませんが、
当時は大作志向の余波が残っていたはずですので、本作はどちらかと言えば、異端な存在だったと思いますね。

そういう意味でも、このクライマックスの唐突さを観ると、
本作はニューシネマ寄りの志向を持った作品のようで、ドン・シーゲルとしても野心的な企画だったのでしょう。
60年代前半はヨーロッパ映画界ではハリウッドに先駆けて、ニューシネマ・ムーブメントが隆盛していただけに、
本作の斬新なスタイルはハリウッドの潮流よりも、ヨーロッパ映画界の潮流を感じさせますね。

そう思て観ると、確かにスティーブ・マックイーンからいつものカリスマ性は感じられませんが、
一方で人間臭く、チョットした屈折した感覚があって、周囲から一目置かれるほどの力を見せずとも、
一種近寄りがたいオーラを出しながら、映画の最後の最後でドカンとデカいことをやってのける姿自体、
やっぱりニューシネマに登場するキャラクターそのものなのかもしれません。計算され尽くした感じがします。

映画の中で描かれるのは、トーチカでお互いに作戦を探り合うために、
盗聴し合っているということで、ドイツ軍から盗聴されていることを知った途端に、デマ情報を流すために
「適当に喋れ」と指示して、延々と漫談のように一人で話しをするシーンがあって、これは印象的でしたねぇ。

当然、現代の手法よりはかなりアナログな方法ですが、第二次世界大戦でも既に“情報戦争”だったわけですね。

ドン・シーゲルは敢えて低予算路線を選択したかのようだと前述しましたが、
当時は莫大な予算を投じた戦争映画というのも、数多く製作されていたことも事実ですので、
やはりアナログな手法でありながらも、チョットとした工夫を重ねて撮った戦争映画というのも、
一つのスタイルとして“有り”でしたし、事実、それができたからこそドン・シーゲルは評価を上げていき、
70年代には確かな手腕を認められ、安定的に質の高い作品を発表し続けられるディレクターになれたのでしょうね。

そういう意味でも、本作はドン・シーゲルにとっても、とても重要な作品であったはずなのです。
60年代後半からは、どちらかと言えば、エンターテイメント性の高い映画を好んで手掛けており、
おそらく当時からそういった映画を撮りたいという意向はあったはずで、そういった企画を実現できるポジションを
確立するためにも、本作のような仕事で評価を上げていくことが、当時のドン・シーゲルにとっては先決だったのでしょう。

ちなみに何故か本作には歌手のボビー・ダーリンが出演している。
ちょうどこの頃、歌手活動に並行して、映画やテレビで俳優活動を行っていたようですが、
出演作品はそう多くはないだけに、本作のような映画は貴重な存在なのかもしれませんねぇ。

いずれにしても、マックイーンのファンなら必見の映画でありますが、
いつものマックイーンのイメージとは異なるだけに、異色な作品と言うことができます。
ダーク・サイドなマックイーンも悪くなく、どこか破滅的な姿勢が大きなアクセントになっています。

トーチカをめぐる小隊の闘いという、“戦争”という大きな視点で見てしまうと、
どうしても軽視されがちな“小さな戦闘”を、ここまでクローズアップして描いたドン・シーゲルの功績は大きい。

(上映時間90分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ドン・シーゲル
製作 ヘンリー・ブランク
原作 ロバート・ピロッシュ
脚本 ロバート・ピロッシュ
   リチャード・カー
撮影 ハロルド・リップスタイン
音楽 レナード・ローゼンマン
出演 スティーブ・マックイーン
   ジェームズ・コバーン
   ボビー・ダーリン
   フェス・パーカー
   ハリー・ガーディノ