ザ・プロフェッショナル(2001年アメリカ・カナダ合作)

Heist

リタイアを考え始めている大泥棒ジョーは、黒人の相棒ボビー、便利屋ピンキー、妻フランといつもの大仕事。
ところが十分な分け前をよこさず、無理難題ばかりを押し付ける転売屋バーグマンと対立してしまう。
海外への高飛び前に大仕事をもう一回とばかりにジョーはバーグマンと手を組み、空輸される金塊強奪を計画。
仕方なく仲間に入れることになったバーグマンの甥であるシルクはどうしようもない男で、使い物にならない。
そんな中でジョーが何とかして、大金を手にして海外へ高飛びしようとする姿を描くクライム・サスペンスです。

とまぁ・・・ストーリーだけを読めば、どこにでもあるタイプの映画で、実際、完成品もそんな感じですが(笑)、
映画の雰囲気としては、手堅いが悪くないものと思いますね。これは大人な映画だと思う。

監督は脚本家として高名なデビッド・マメットですが、演出家としての手腕はなかなかのもの。
特に映画の終盤の流れとして、スイスへ空輸される金塊をどのようにして強奪するかを描いた、
一連のシークエンスは見事に構成されており、ジョーたちが再び空港を訪れるシーンにはニヤリとさせられる。

演じるジーン・ハックマンは04年に俳優業引退を宣言して、
今現在はスクリーンの世界から離れてしまいましたが、本作ではまだいぶし銀の活躍と言っていいぐらいだ。

ただ、この映画の難点は映画の売りの一つである、ドンデン返しを作り過ぎたことかな。
さすがに映画の後半に差し掛かると、あまりに連続し過ぎる“裏切り”の連続に、違和感を感じざるをえない。
それだけでなく、こういった展開は過剰になり過ぎると、映画を完全に壊してしまう可能性があり、
デビッド・マメットにとっても、かなりのギャンブルだったと言わざるをえない。

本作の大きなキー・マンとなるのはジョーの妻フランなのですが、
彼女に関する描写が今一つ一貫性に欠けるのが残念。彼女を演じるレベッカ・ピジョンは実生活での
デビッド・マメットの妻らしく公私混同かと思っていたら(笑)、あながち彼女の芝居は悪くない。
だけど、本作の中での彼女の位置づけという意味では、クールで感情の介入を許さない仕事人かと思いきや、
最終的には若い男との一夜を楽しんだことを肯定するかのような行動をとるわ、
とてもじゃないけど、賢いとは言えない行動に走るわで、映画の序盤から彼女の描き方に一貫性が感じられない。

まぁ言わば、彼女はファム・ファタールなわけなのですが、
色仕掛けという観点からいっても、カメラに映る彼女の姿だけでは、その魅力が伝わりにくい。
だから、もっと彼女に関しては冷酷非情な側面を強調して描いて欲しかったですね。
アッサリと若い男に乗り換えようとする彼女の行動には、まるで納得性が感じられなかったですね。

ただ、70年代はこういう映画が多かったのですが、
最近はこういうクライム・サスペンス系統の映画がめっきり人気が無くなってしまい、
こじつけの連続のような作品が増え、良質な作品が出なくなってしまいましたから、何となく嬉しいですね。

まぁそれはオーソドックスな作りにしたことが、逆に功を奏したのかもしれませんね。

冒頭、市街地の宝石店を襲撃するシーンがあるのですが、
このシーンの運びの良さ、ジョーたちの仕事の鮮やかさの撮り方が良かったですね。
もっとも、このシーンでジョーが致命的なミスを犯し、引退を強く意識するようになるのですが、
襲撃開始の合図から宝石店への侵入、そして金庫の破壊へと続く展開の描き方は、ひじょうに良かったですね。

ジーン・ハックマンが凄腕の泥棒という設定ではありますが、
例えば彼のような存在感ある役者なら、バーグマンのような悪の親玉的なイメージのある役どころを、
ドッシリと演じてもらっても良かったと思う。けど、敢えて彼はジョーのような荒々しい役をチョイスしています。
真意は分かりませんが、まだまだ荒々しい役を演じてしまうおうとする、彼の気概が嬉しいですね。
(それだけに04年の俳優業引退宣言が残念ではあるのですが...)

ただ「強奪」を意味する原題に対して、『ザ・プロフェッショナル』という邦題は芸が無いですね。
デビッド・マメットも彼らしからぬ随分と単刀直入な原題を付けたもんだとは思いますが。。。

本作を観る前に、あまりに高度な頭脳合戦のコンゲームは期待しない方が無難です。
予想外なほどにフットワークの軽い(笑)、二転三転する裏切りの連続の映画なので、
ストーリー上でも緻密な複線を張り巡らした内容というわけでも、頭脳的な犯行に及ぶわけでもありません。

あくまでサスペンス映画としてはオーソドックスなスタイルを貫いておりますので、
奇抜でトリッキーなストーリー展開なんかを過度に期待しない方が無難かと思いますね。
そういった意味でサスペンス映画としての面白さというのは、残念ながら希薄だと思いますね。

前述したように個人的にはオーソドックスなスタイルが嬉しい反面、
これが本作最大のウィークポイントでもあると思いますね。
サスペンス映画の醍醐味を持たせられなかった原因は、このオーソドックスなアプローチにあります。

サスペンス映画好きな人よりも、今尚、日本にも数名いると言われる(笑)、
ジーン・ハックマンの熱狂的なファンには声を大にしてオススメできる作品と言った方が、適切かも(笑)。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 デビッド・マメット
製作 アート・リンソン
    エリー・サマハ
    アンドリュー・スティーブンス
脚本 デビッド・マメット
撮影 ロバート・エルスウィット
音楽 セオドア・シャピロ
出演 ジーン・ハックマン
    デルロイ・リンド
    ダニー・デビート
    サム・ロックウェル
    レベッカ・ピジョン
    リッキー・ジェイ