天国から来たチャンピオン(1978年アメリカ)

Heaven Can Wait

当時、ハリウッドでも勢いのあったウォーレン・ビーティが
ついに監督デビューを飾った作品であり、これは81年の力作『レッズ』への布石となっている。

暴走車の危険運転により事故死してしまった、
アメフトのクォーターバックのジョンが、天国との“中継駅”に案内され、
「これは間違いないでは?」と訴えたところ、実は駆け出しの案内人のミスで起こった
間違いであったことが発覚したものの、もはやジョンの身体が火葬されてしまったことから、
新たな肉体を探して奔走するも、大富豪の肉体を借りて、新たな人生を歩もうとする姿を描いたドラマ。

ウォーレン・ビーティの演出能力は正直言って、そこまで高いとは思えないけれども、
さすがに『レッズ』でいきなりトンデモないリベラルな力作を撮るだけに、その片鱗がうかがえる作品になっている。
ジュリー・クリスティ、ジャック・ウォーデン、ジェームズ・メーソンなど豪華キャストに恵まれた面もあるけど、
クライマックスのシーン演出などは、チョット見るべき箇所がある。そうそう、イージーな映画という感じではない。

特にジュリー・クリスティとウォーレン・ビーティは当時、交際中であり、
71年の『ギャンブラー』で共演してから、彼らの恋愛関係は有名だったのですが、
本作での共演に於いても、すっかり息が合った感じで、またウォーレン・ビーティも自分の監督作品で、
当時の恋人をこういう役で出演させるなんて、ある意味では最高のプレゼントだったのかもしれない。

まぁ・・・おそらく本作でウォーレン・ビーティは、初めての監督作品ということもあってか、
そうとうな苦労を強いられたと想像できるのですが、その中で本作は確かに次を期待させる出来と言っていい。
凡庸な部分もあるが、前述したクライマックスのクォーターバックという言葉に反応して、
思わず主人公に見とれるジュリー・クリスティの空気など、随所に非凡なシーンを残している。

しかし、主人公のジョーはチョットした手違いというか、
ハッキリ言って、案内人の怠慢とも言えるミスのおかげで、勝手に天国へアテンドされるのですが、
間違いだと判明して、慌てて現実世界へ戻った頃には、自身の遺体が火葬されてしまい、
ホントはアメフト選手としてやり残したことがいっぱいあるだけに、自分の肉体に戻りたいのに、
違う人の肉体を借りざるをえない状況に追い込まれるなんて、私なら受け入れらない状況ですね(笑)。

ある意味で、この映画のジョーは実にアッサリと受け入れるのですが、
個人的には案内人のミスも受け入れ、現実世界へ戻ろうとする意思を持つまでに至る過程を、
もっと細かく描いた方が良かったと思いますね。その方が映画自体にも説得力が出たと思います。

いくらジェームズ・メーソンのような名優に説得されたとしたって、
そりゃ・・・納得いくもんじゃないですよ(笑)。おそらくジョーにも、複雑な葛藤があったはずなんです。

そして大富豪の体を借りてジョーは現実世界に戻ってきますが、
会社の経営者として人前に立たなければならず、いきなり状況がよく分からないまま、
経営会議に出席して意見を求められるのですが、これもあまりに上手くいき過ぎる。
あまり時間をかける必要はないけれども、他人の体で生きることの難しさはもっとしっかり描いて欲しかったなぁ。

78年度のアカデミー賞で堂々9部門でノミネートされましたが、
結果的には1部門でも受賞できずに終わってしまうのですが、映画賞レースを賑わせたわけで、
今尚、評価の高い作品ではあると思うのですが、それでも私は81年の『レッズ』を観る限り、
もっとクオリティの高い映画を撮れると思うんですよね。そのせいか、もっと本作も良く出来たと思う。

まぁウォーレン・ビーティも、本作あたりまではハリウッドきってのプレイボーイとして君臨し、
映画俳優としての活動が中心だったのですが、本作で監督デビューしてからは、
一気に寡作な映像作家としての活動にシフトし、活動のペースも落ちていきます。
87年に製作を兼務し、本作で脚本を書いた盟友エレイン・メイがメガホンを取った『イシュタール』に出演するも、
作品が大ゴケしたり、89年の『ディック・トレイシー』が不評だったりと、数多くの失敗を踏むも、
ハリウッドの大御所として名を馳せ、ここ01年の『フォルテ』に出演したのを最後に一線を退いた模様です。

本作を観ると、映画俳優として80年代以降の活躍も望めたと思うのですが、
本作での監督経験が、彼の中で何かを変えたのでしょうね。そう思うと、一つのターニング・ポイントですね。

結論から言えば、映画の構成としては正直言って、疑問が残る出来ではある。
映画賞レースを賑わせるほどかと言われれば疑問だが、それでもウォーレン・ビーティのキャリアの中では、
本作での監督デビューがとても大きな経験であったことは否定できないし、
前述したように、一つ一つのシーン演出の中では、観るべきものがある作品と言えよう。

主演のジョーをウォーレン・ビーティ自身が演じたことにも賛否はあるだろうが、
そう見当ハズレなキャスティングというわけではなく、また脇を固める名優たちにも大きく助けられている。
特に天国への案内人を演じたジェームズ・メーソン、アメフトのコーチを演じたジャック・ウォーデンは素晴らしい。

ちなみにミスをする新米の案内人を演じたのは、
本作でウォーレン・ビーティと共同監督を務めるバック・ヘンリーで、彼もまた本作で初めて監督となった。
古くからTVシリーズ『それ行けスマート』のシナリオを書いたり、何本か映画の脚本を書いており、
役者としても活動していた、日本ではあまり知られていない多才な人なんですねぇ。

とまぁ・・・本作は製作前は色々と未知数な部分が多かったとは思うのですが、
ウォーレン・ビーティはそういったマイナス材料を、見事に克服して、完成に至った作品なんですね。

この映画で描かれた天国へと導く、案内人という存在は本作以前の映画では
あまり描かれていなかった存在であり、本作以降に天国と現実世界の間に中間地点があって、
そこから天国へ案内人によって誘導されるという展開が、映画で表現されるようになりました。
(スピルバーグの『オールウェイズ』も、本作からインスピレーションを与えられている)

そういう意味でも、価値ある作品と言えるのでしょうね。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ウォーレン・ビーティ
   バック・ヘンリー
製作 ウォーレン・ビーティ
脚本 エレイン・メイ
   ウォーレン・ビーティ
撮影 ウィリアム・A・フレイカー
音楽 デイブ・グルーシン
出演 ウォーレン・ビーティ
   ジュリー・クリスティ
   ジェームズ・メーソン
   ジャック・ウォーデン
   チャールズ・グローディン
   ダイアン・キャノン
   バック・ヘンリー
   ビンセント・ガーディニア
   R・G・アームストロング

1978年度アカデミー作品賞 ノミネート
1978年度アカデミー主演男優賞(ウォーレン・ビーティ) ノミネート
1978年度アカデミー助演男優賞(ジャック・ウォーデン) ノミネート
1978年度アカデミー助演女優賞(ダイアン・キャノン) ノミネート
1978年度アカデミー監督賞(ウォーレン・ビーティ、バック・ヘンリー) ノミネート
1978年度アカデミー脚色賞(エレイン・メイ、ウォーレン・ビーティ) ノミネート
1978年度アカデミー撮影賞(ウィリアム・A・フレイカー) ノミネート
1978年度アカデミー作曲賞(デイブ・グルーシン) ノミネート
1978年度アカデミー美術監督・装置賞 受賞
1978年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
1978年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(ウォーレン・ビーティ) 受賞
1978年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ダイアン・キャノン) 受賞