天国の門(1981年アメリカ)

Heaven's Gate

78年の『ディア・ハンター』で一気に出世したマイケル・チミノの超絶問題作(笑)。

1890年代のワイオミング州で発生した、ロシアや東欧から移民を対象に行われた、
「死刑」という名の大量虐殺を描いた、3時間を大きく超える大作で、今や伝説的な失敗作です。

いやはや、これは結果的には失敗作かもしれないけど、
それはあくまで興行収入上の話しであって、本作でマイケル・チミノが描きたかったことはよく分かるし、
それが実際のフィルムに吹き込むどころか、あまりに強い意欲過ぎたのか(?)、それが大きく空回りした映画で、
少なくとも本作を観る限り、マイケル・チミノに映像作家としての腕が無いわけではないと思います。

が、これ、本編を観れば、何故、大失敗をこいたのか、よく分かると思う(笑)。

当初の製作費は1100万ドル。
しかし、それが結果的には4倍もの費用である、4400万ドルにも上ったそうで、
その内訳は、大量に投入されたエキストラや、当時のワイオミング州の田舎町を精巧に再現した街並み、
大規模なセット撮影に、僅かなシーンにしかすぎない蒸気機関車が疾走するシーンのために、
実際に本物の蒸気機関車を走らせたりと、贅沢の大盤振る舞いをした結果で、撮影も何度もやり直し、
当初予定されていたスケジュールからも大幅に遅れて撮影が完了し、最初はなんと5時間30分だったらしい(笑)。

それを編集で大幅に削って、試写会の時点で3時間30分程度の内容に“短縮”(笑)。

しかし、それでも「長過ぎる」と不評の嵐だったらしく、
いざ鳴り物入りで全米で劇場公開された頃には、2時間30分程度までカットされてしまいました。
今はDVDで3時間30分の“完全版”が鑑賞できるので、ただただ「長いなぁ」とは思いますが(笑)、
当時の2時間30分という内容では、おそらく本作が何を描いているのかも、サッパリよく分からなかったでしょう。

ストーリー的にも、アメリカ開拓史に於ける暗部にスポットライトを当てただけでなく、
実在の登場人物の立ち位置も大きく変わっており、どうやら半ばフィクションのようになってしまい、
アメリカの人々のデリケートな部分を刺激してしまったようで、内容的にかなり反感をかったらしい。

本作は当時の製作会社、ユナイテッド・アーティスツが会社の威信を賭けて、
マイケル・チミノが契約不履行ギリギリまで要求を続けたにも関わらず、全てそれら要求を呑み、
結果的に4400万ドルという当時としては異例の高製作費となってしまいました。

いざ劇場公開となったわけで、
おそらく当時の映画会社の関係者も、『ディア・ハンター』の評価の高さもあって、
本作もオスカーの有力候補と考えて、11月という映画賞レースのメインの時期に劇場公開となったのですが、
史上空前の不入りとなってしまい、鑑賞した評論家からも次々と酷評にあい、僅か1週間で打ち切りになります。

全世界の興行収入が製作費の10分の1も回収できず、
結果として創業60年を超えていたユナイテッド・アーティスツは事実上の倒産に追い込まれ、
配給権を持っていたメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)に買収されてしまいました。

で、マイケル・チミノはハリウッドを事実上、追放されてしまったわけで、
この映画はたくさんの人々にとって、大きなターニング・ポイントとなったことは間違いありません。

確かにマイケル・チミノにも正直言って、非はある。

映像作家としての手腕は確かなもので、本作でもそれは思いっ切り発揮されているけど、
『ディア・ハンター』の頃から感じてはいたけど、時間の費やし方が異常なほどに遅い(笑)。
何の意味があるのかよく分からない、細かな描写にやたらと時間を費やしたり、一つ一つのエピソードを
フルに活かし切ることなく、半ば不完全燃焼で終わってしまうことも目立ち、映画が長くなるのは必然である。

正直言って、3時間30分の“完全版”もかなり贅沢に時間が費やされており、
僕はまだ削れると思うし、その方が作り手の主張ももっとハッキリと伝わったと思う。

映画の冒頭のハーバード大学の卒業式にしても、無駄に20分ぐらいかけて描かれるのですが、
映画を最後まで観通して感じるのですが、あの卒業式のエピソードがそこまで影響力を持っておらず、
あそこまでジックリと描く必要があったのか、マイケル・チミノの意図がどこにあるのかサッパリよく分からない。

でも、時間の費やし方が贅沢と言っても、演出は結構、大雑把なところがある(苦笑)。

編集にしても同様なのですが、上手いなぁと思うところと、
何故、そんな雑な処理にしてしまうのか...と疑問に思わざるをえないシーンが交互にあって、
結果的にマイケル・チミノも“分かっている人”なのか、“分かってない人”なのが判別不能なんですね(笑)。

クライマックスの戦闘シーンの迫力は圧倒的なのですが、
馬車の滑車に足を轢かれたり、戦地に行くまでの橋で路外逸脱してしまう馬車がいたり、
こういう言い方は申し訳ないけれども、映画の本筋にあまり関係がない描写にばっかり時間がかかる割りに、
クリストファー・ウォーケン演じるネートと、主人公エイブリルとの微妙な関係など、肝心かなめの大事な部分に
ほとんど時間を費やさずに、乱暴にストーリーを進めたりと、全体的にチグハグな感覚が残ってしまう。

しかし、僕は敢えて声を大にして言いたい(笑)。
この映画は傑作になり損ねただけだと(笑)。マイケル・チミノの勘違いさえ無ければ、傑作になったでしょう。

いや、もっと言えば、マイケル・チミノが普通に撮っていれば、傑作になっていたでしょう。
『ディア・ハンター』で半ば、大作主義に溺れてしまったというか、長々と撮らなければ気が済まなかったのでしょう。

こういう比較もズルいけど、
デビッド・リーンのような映像作家であれば、同じ大作主義でもこうはならなかっただろう。
やはり長い映画にするのであれば、相応の意味がなければ、ただただ冗長な映画という印象しか残りません。

前述したように、本作での大失敗がキッカケとなり、
マイケル・チミノは実質的にハリウッドを追放状態となってしまいましたが、
本作以降は自由な創作活動ができなくなったせいか、大作主義は影を潜めてしまいます。
そういう意味では、本作での失敗にはそれなりに意味があったのかもしれません。

まぁ・・・あまりに大き過ぎる代償ではありましたがねぇ〜。。。

(上映時間149分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 マイケル・チミノ
製作 ジョアーン・ケアリ
脚本 マイケル・チミノ
撮影 ヴィルモス・ジグモンド
編集 ジェラルド・グリーンバーグ
    ウィリアム・レイノルズ
音楽 デビッド・マンスフィールド
出演 クリス・クリストファーソン
    クリストファー・ウォーケン
    ジョン・ハート
    イザベル・ユペール
    ジェフ・ブリッジス
    サム・ウォーターストン
    ブラッド・ドゥーリフ
    ジョセフ・コットン
    ジェフリー・ルイス
    リチャード・メイサー
    テリー・オクィン
    ミッキー・ローク
    ウィレム・デフォー
    トム・ヌーナン
    ロニー・ホーキンス

1981年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1981年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
1981年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(クリス・クリストファーソン) ノミネート
1981年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(マイケル・チミノ) 受賞
1981年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(マイケル・チミノ) ノミネート
1981年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト音楽賞(デビッド・マンスフィールド) ノミネート