ヒート(1995年アメリカ)
Heat
数人の仲間と共に銀行強盗を繰り返すニールと、彼らを追う刑事ハナ。
この2人の攻防を濃密なドラマ描写によって、静かに綴ったアクション大作。
もう15年近く前の映画ではありますが、劇場公開当時、かなり話題となっていたのを覚えています。
何せ当時の大きな話題と言えば、映画の出来云々よりも、豪華スターの顔合わせでした。
アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロという2大ベテラン俳優のプライドを賭けた共演とのことでしたが、
2人が一緒に映ったシーンはほんの僅かでした。このことが様々な憶測と呼んだのですが、
ひょっとしたら敢えてこういうスタイルにしたのかもしれませんね。2人ともかなり個性が強いですし。
まぁ正直言って、映画の出来としてはまずまずですが、驚くほどの傑作だとは思わない。
3時間近い上映時間を誇る長編ですが、どちらかと言えば、ダレてしまう傾向があって、
映画全体を通してのメリハリに欠け、今一つ盛り上がらないまま映画が終わってしまう感じだ。
男のドラマを強調するためか、女性の描かれ方が全くなっていない。
ハナの妻としてダイアン・ベノーラや、ヘンリーの妻としてアシュレー・ジャッドが出演しているのですが、
彼女たちの行動にまるで説得力がない上、あくまで男たちを盛り立てる裏方的な解釈しかされておらず、
おそらくこの描き方ならば賛否両論になると思いますね。これならば、極端に言えば描かない方が賢明だ。
かなり厳しい言い方をすれば、21世紀を間近に控えた95年という時期に、
何故にこんな古臭い描き方を貫いたのか、僕は正直言って理解に苦しみますね。
劇場公開時、本作一番の“売り”として大々的に宣伝されていた、
映画の後半にロスの市街地で繰り広げられる5分以上にも及ぶ銃撃戦の迫力はさすがだ。
そもそも市街地での激しい銃撃戦を撮ること自体、日本などではありえないことですが、
ハリウッドでもここまで大掛かりな撮影は滅多にないのではないだろうか。
数多くの登場人物が出てきますが、最終的に2人の対決に物語の焦点を絞ったのは正解でしたね。
幾つもエピソードを重ねてしまうと、この手の映画ならかなり混乱させてしまう可能性があります。
ましてやマイケル・マンは群像劇を上手くさばくことを得手としていないでしょう。
それを考えれば、映画の焦点を絞って、見せ易くした方が賢明でしょうね。
ニールとハナを単純比較すれば、ニールの方がずっとカッコ良く描かれている気がする。
もっとも、ハナもかなりクローズアップして描いてはいるのですが、マイケル・マンのロマンを乗せているのは、
ほぼ間違いなくニールの方だろう。それは書店の女性とのロマンスを観れば明らかだ。
ロサンゼルスの街並みの美しさを強調させて撮った上で、
サンフランシスコに生まれ、長くロスで活動を続けるニールと、他所の土地からやって来た女性の恋。
ニールは一見すると、かなり生活に余裕のある家庭持ちの中年男性に見える。
だからこそ若い女性から見れば、かなり魅力的な存在に見えるのかもしれない。
マイケル・マンはこういった若い男にはない魅力をニールに見い出そうとしていると思いますね。
一方のハナは、アル・パチーノが演じたということもあるが、やや過剰に男臭く造詣されており、
かなり泥臭くアクの強いキャラクターのように感じられる。この違いは、対照的でしたね。
できることなら、もう少しハナに関しても中年男性の魅力を見い出すような感じにして欲しかったですね。
マイケル・マンは92年の『ラスト・オブ・モヒカン』で映像作家としてようやっと認められ、
本作のような規模の大きな映画を手掛けるまでのポジションになりましたが、
99年の『インサイダー』でより映像作家として成熟した一面を披露します。
そういう意味で本作はまだ発展途上と言えますね。おそらくもっと凄い映画が撮れるだけの素質があると思う。
マイケル・マンの良いところはロサンゼルスをとても美しく撮れること。
これだけ表情豊かで魅力的な街並みをカメラに収めることのできる映像作家は数少ないです。
僕が彼のような映像作家に憧れるのは、
日本にもこれだけ魅力的な地方都市があるというのに、それらを映画に撮れる人が実に少ないですね。
それが東京でさえも魅力的に撮れる映像作家がいないのですから、悲しい現実だと思いますね。
それから本作でのマイケル・マンは音に対するこだわりを見せ、
実に生々しい銃撃音を録音して、銃撃戦を臨場感たっぷりに描いております。
まぁ男女間の差が作り手の視点の悪さから明確になってしまう難点はありますが、
一方で本作はマイケル・マンの成長途上過程の一本として評価しなくてはいけないなぁと思う。
全体的にもっとタイトにまとめて、簡潔な映画にして欲しいのですが、割愛できないエピソードが多いというのは、
それだけ本作には作り手たちが語りたいエピソードが多く、彼らの想いは強かったということでしょう。
ちなみにアル・パチーノとロバート・デ・ニーロは本作が21年ぶりの共演となりましたが、
09年に本作以来14年ぶり3回目の共演が公開されるそうで、今から楽しみですね。
一部では不仲説も根強く残っておりますが、プライベートでは何度も交友があるのが報じられていますからね。
次こそはガップリ共演した映画が期待できるのではないでしょうか。
(上映時間170分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 マイケル・マン
製作 マイケル・マン
アート・リンソン
脚本 マイケル・マン
撮影 ダンテ・スピノッティ
音楽 エリオット・ゴールデンサール
出演 アル・パチーノ
ロバート・デ・ニーロ
バル・キルマー
ジョン・ボイト
トム・サイズモア
ダイアン・ベノーラ
ウェス・ステューディ
エイミー・ブレネマン
アシュレー・ジャッド
ハンク・アザリア
ナタリー・ポートマン
デニス・ヘイスバート
テッド・レビン
ミケルティ・ウィリアムソン
ウィリアム・フィクトナー
ケビン・ゲイジ