アトランティスのこころ(2001年アメリカ)

Hearts In Atlantis

凄く良い映画だと思うんだけど、なんだか惜しいなぁ。。。

決した恵まれた家庭環境とは言えない中、
11歳の日々を友達と共に全力で過ごしていた少年が、自宅の2階に引っ越してきた
風変わりな老人と心の交流を交わすうちに、精神的な成長を遂げていく姿を静かに描いたヒューマン・ドラマ。

監督は96年に『シャイン』を発表し、高く評価されたスコット・ヒックスで、
如何にも彼らしい静かな語り口で、見事に上手く緩急の付いた内容になっていて好感が持てる。

ただ、一つ思うのですが...
デビッド・モース演じる大人になった主人公が登場する後日談が、どうしても必要だったのだろうかということ。
決して映画の価値を損ねたりはしていないけれども、僕はどうしても必要だったという気はしなかったですね。
特に映画のクライマックスに後日談に帰ってくる構成が、今一つシックリこなかったかな。

ベタではありますが、主人公と老人の別れのシーンがなかなか良かっただけに、
僕個人の感覚が先行した意見ではありますが、あのまま映画は終わった方が良かったと思いますね。

そもそもこの企画は、スティーブン・キング原作、ウィリアム・ゴールドマン脚本という、
もの凄く贅沢なものだったはずで、スコット・ヒックスも随分と恵まれた企画となりましたね。
映画のエンド・クレジットにもあったように、当初、カメラ監督を担当していたピョートル・ソボチンスキーが
撮影途中に他界してしまったため、ノン・クレジットではありますが、複数人が担当しました。

撮る人が変われば、映画のカラーも変わってしまうことがあるのですが、
見事に画面の統一感は保たれており、この辺は上手く配慮されていますね。

主演のアンソニー・ホプキンスは好演ですが、
僕の勝手な偏見なのですが、なんとなく突然、サイコ・キラーに変身しそうな雰囲気があるのが怖い(笑)。
子供時代の主人公と話してたりするシーンでも、突然、襲い掛かるのではないかと余計な心配をしてしまいます。

彼が演じる老人のキャラクターは終始、ミステリアスに描かれており、
常に“陰”を意識させる描写はお見事でしたね。語らない美学を感じさせる描写です。
これはスコット・ヒックスの美学みたいなものにも共通しているのでしょうが、見事な手法だと思いますね。

彼を最後まで明快なキャラクターとして描かなかったせいか、
これが映画の大きな武器になりましたね。やっぱり映画も戦略的に撮らなければなりませんね。

今までスコット・ヒックスの監督作を全て観てきたわけではありませんが...
この映画を通して、僕が強く感じたのはスコット・ヒックスのビジョンがハッキリと映画に投影されていること。
これは正直、ひじょうに大きいですね。これって、良い映画の条件の一つだと思うんですよね。

それと、子供の目線が活きた内容なのにも好感が持てますね。
僕は大人になった後の主人公の描写は無理をして描く必要はないと思うんだけど、
勿論、メインストーリーである少年時代のエピソードは悪くないと思っていますし、
その良さを支えているのは、子供の目線を活かしていることにあると思うんですよね。
(この少年時代を演じたアントン・イェルチンは見事な好演です)

それと、主人公のガールフレンドの女の子の存在も抜群に上手いですね。
オテンバ少女とはよく言ったものですが、確かにこんな娘(こ)なら、思い出に残りますねぇ(笑)。

いや、でもこれは映画にとっては大切なことでして、
ガールフレンドを上手く描けたからこそ、映画の終盤のエピソードも全否定できないんですよね。
何故、全否定できないかって、それは素晴らしい思い出だからこそ、意味があるからなんですよね。
何故、スコット・ヒックスが後日談を描いたか、実際に観ればその意味が分かるかと思います。

まぁ同じスティーブン・キング原作の映画としては、
『スタンド・バイ・ミー』にサスペンスのセオリーを僅かに匂わせた内容という感じですね。

往々にして、この手の映画というのは、
ヴォリューム感のある2時間を越えるような内容になりがちなのですが、
本作は一切の無駄を許さない作りで、よく考えられて編集されており、分量的にも丁度良いですね。

だからこそ、勿体ないんだよなぁ。。。
スコット・ヒックスって、どちらかと言うと寡作な映像作家で、あんまり積極的に撮る人ではないんですよね。
個人的には『シャイン』や本作を観る限りでは、もっともっと観たい映像作家の一人なのですが、
ハリウッドに渡って来てからも、あまり発表作が多くないのが残念でなりませんね。
(どうも...今はドキュメンタリー・フィルムを中心に創作活動を行っているみたいですね)

どうでもいい話しではありますが...
劇中、少年時代の主人公が「不味い」と言いながらも飲んでいるドリンクの正体が気になる(笑)。
冷たく冷えていて、瓶に入った飲料でコーラのようなイメージなのですが、
アンソニー・ホプキンス演じる老人も旨そうにゴクゴク飲んでるけど、彼もまた「美味しい」とは言いません。

僕が幼い頃はまだギリギリで、瓶に入ったジュースを売っている自動販売機が
古い施設なんかにはあったので、ああいう感覚が何となく懐かしいですねぇ〜。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 スコット・ヒックス
製作 ケリー・ヘイセン
原作 スティーブン・キング
脚本 ウィリアム・ゴールドマン
撮影 ピョートル・ソボチンスキー
    アレン・ダヴィオー
    エマニュエル・ルベッキ
編集 ピップ・カーメル
音楽 マイケル・ダナ
出演 アンソニー・ホプキンス
    ホープ・デービス
    デビッド・モース
    アントン・イェルチン
    ミカ・ブーレム
    アラン・テュディック
    アダム・ルフェーヴル
    トム・バウアー