ジャスティス(2002年アメリカ)

Hart's War

第二次世界大戦を舞台にした、戦争映画かと思いきや、
実は人種偏見問題を絡めた軍事法廷を描いたドラマになるという、少し予想外だった作品(笑)。

監督は『真実の行方』で注目されたグレゴリー・ホブリットで、
確かに元々はアクション的な趣向よりも、ドラマ描写に重きを置いた演出が得意なディレクターですから、
戦争を題材としていても、こういうストーリー展開になるのは至極当然ではありますが、
映画の序盤の展開を考慮すると、もう少し緊迫感のある映画になっても良かったかなぁとは思いますね。

いわゆる法廷ドラマにジャンルされる映画になるとは思うのですが、
法廷映画特有の緊迫感は希薄な映画となってしまっており、グレゴリー・ホブリットの演出としても、
正直な感想としては『真実の行方』と比べると、映画の出来としては今一つといった感じですね。

映画はドイツ軍の捕虜となった米軍兵たちが、
隣接するロシア人捕虜収容施設で武器類が製造されていることを知り、
まだその事実を把握していない軍部に伝えるため、なんとか脱走して軍部にその事実を伝えようと
目論見るものの、更に捕虜として黒人兵士が収容されたことが捕虜の間で波紋を呼び、
やがてトンデモない事件が巻き起こってしまい、法廷劇へと発展する様子を描いています。

確かに、これは今までありそうで無かったタイプの戦争映画と言っていいと思う。
往年の名作『大脱走』の雰囲気も内包した作品ではありますが、脱走劇はそこまでクローズアップされません。
まぁ法廷劇に注力したこと自体は良かったとは思うのですが、主に映画の後半で描かれる脱走劇が
やや中途半端な形で終わってしまっており、描くならハッキリと描く、描かないなら描かないと、
もっと徹底した方が良かったような気がしますね。これでは、さすがに中途半端過ぎる気がしてなりません。

せっかく、かつてはアクション映画スターとして活躍していたブルース・ウィリス主演作だというのに、
ブルース・ウィリスのアクション・シーンが皆無という、本作の中身がチョット残念なんですよね。

まぁさすがに撮影当時、40代も後半でしたし、
『ダイ・ハード』シリーズでのイメージが強過ぎて、アクション・スター同じ扱いを受けるのを
本人が嫌がっていたという話しもありますから、意図的に体を張る類いの映画を避けていたのかもしれません。

とは言え、もう少し、ブルース・ウィリスも含めて動きのある映画でも良かったかな・・・。

この映画で大きくクローズアップされるのは、
軍事法廷で被告人を弁護人に選出されるハート中尉を演じたコリン・ファレルで、
本作が公開された頃は『マイノリティ・レポート』や『フォーン・ブース』など、次々と大きな企画の映画への出演が
続いていた頃ですから、日本でも注目度が高かったと記憶しているのですが、本作は立派な軍人の息子で
半分、“親の七光り”状態で扱われる青年という役柄だったせいか、比較的、おとなしいイメージですね。

まぁ他作品での彼の芝居を見ると感じられることなのですが、
僕はどちらかと言えば、彼は血気盛んな役柄を演じさせた方が合っているような気がするので、
例えば本作の翌年に出演した『タイガーランド』のような役の方が彼に合っているような気がしますね。

映画の細部に関しては、ブルース・ウィリス演じる大佐がドイツ軍と均衡を取りながら、
微妙な信頼関係を築いていたように描かれるのですが、この2人の関係をもっとしっかり描いて欲しかった。
少なくとも本作を観る限り、この2人の関係は映画の重要なポイントだったように見受けられるのですが、
あまり2人の過去を説明しないせいか、何故、微妙な信頼関係が成り立つのか、納得性に欠けましたね。
(2人の会話を聞く限り、過去に何らかのターニング・ポイントがあったのは明らかなのに・・・)

邦題は『ジャスティス』になっていますが、
どちらかと言えば、本作は「正義」を描いた作品ではなく、「責任」を描いた作品だと思いますね。

実際、コリン・ファレル演じるハート中尉は事件の真実を知り、
ブルース・ウィリス演じる大佐に上官としての「責任」を問います。それが正しい行いか、間違った行いか、
僕にはその答えは判断がつかないのですが、如何に責任感を持って、上官として行動するかという、
テーマに強く肉薄しており、映画のクライマックスの展開には、まずまず説得力を持たせられたと思います。

この辺はグレゴリー・ホブリットの映画に対する誠実な姿勢の表れだと思いますね。
特にハート中尉が大佐を諭し、何とか上官らしい決断をするように説得するシーンは良かったですね。
あれがあったからこそ、本作のクライマックスの展開に説得力を持たせることができたんだと思いますね。

映画の脚本の問題もあったかとは思いますが、
全体的にインパクトに欠ける仕上がりになりかけていただけに、最後に説得力を持たせられたことは
グレゴリー・ホブリットにとっても、大きな収穫であったことは間違いないと思いますね。
(これまでのグレゴリー・ホブリットはシナリオに恵まれていた感が強かったですからね・・・)

ただ、これも敢えて指摘させてもらえば...
もう少し大佐の心がどう揺れ動いたのか、明確な描写があっても良かったかなぁ。
大佐はクライマックスで、とある決断を下すのですが、この決断に至るまでの彼の心理的な葛藤を
もっとフォーカスして描いていれば、映画は更に良くなった気がしますね。まぁ・・・高望みかもしれませんが。。。

かつて捕虜になった兵士たちを描いた作品は、数多く登場しましたが、
本作の捕虜たちの日常に関する描写は、他作品と比べても明らかにユルい。
こういうディティールにこだわる観客は必ずいるので、特に戦争映画にこだわりがある人にはオススメできない。

どちらかと言えば、軍事法廷を描いた作品に興味がある人の方が楽しめる作品でしょう。
(ちなみに脱走をメインテーマとして扱った作品として評価されるのも、この映画の場合はキツい。。。)

ちなみに映画を最後まで観終わってから気づきましたが、
題材のせいもあるとは言え、最初っから最後まで女性が一度も登場しない映画というのも珍しい。

(上映時間124分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 グレゴリー・ホブリット
製作 デビッド・フォスター
    グレゴリー・ホブリット
    デビッド・ラッド
    アーノルド・リフキン
原作 ジョン・カッツェンバック
脚本 ビリー・レイ
    テリー・ジョージ
撮影 アラー・キヴィロ
音楽 レイチェル・ポートマン
出演 ブルース・ウィリス
    コリン・ファレル
    テレンス・ハワード
    マーセル・ユーレス
    コール・ハウザー
    ライナス・ローチ
    ヴィセラス・シャノン