しあわせのパン(2011年日本)

劇場公開当時、札幌のとあるビルの壁にデカデカと広告が貼ってあったことが
記憶に新しいのですが、僕はこの映画、何かずっとピントがズレたまま終わってしまったように観えました。

おそらく作り手には作り手なりに、撮りたいビジョンはあったのだろうとは思いますが、
映画の最後の最後まで、どこか乗り切れない雰囲気が漂い、“大人のメルヘン”としても収まりが悪い。

北海道は洞爺湖近くの月浦地区を舞台に、夫婦でカフェを経営する男女を主人公に、
春夏秋冬と一年を通じて、このカフェを訪れる人々との交流を描いているのですが、
もっと寓話的に描いても良かったと思うし、別に実在の月浦地区にこだわらなくても良かったと思う。

つまり、本来的には月浦地区という地域性にこだわり、映画化したにも関わらず、
本編の内容は別に月浦でなくとも成立しうる映画になってしまっている時点で、僕はダメだと思うんです。

物語を彩る風景は勿論のことですが、洞爺湖近辺という地域性を感じさせる内容ではなく、
映像への収め方として何一つ意図を感じさせない、「ただ撮っているだけ」という感じなのがとても残念だ。
同じ「ただ撮っているだけ」というのも、本能的に何かしらの作為を映像に与えるものであればまだ違うけど、
この映画の作り手は、映画というメディアの本質が何なのか、映画であることの必要性について、
何か考えて本作を作ったのか、僕にはその“創意”というものが全く感じられなかった。

これって、僕は映画にとって最も大切なものと言っても過言ではないと思うんですよね。

そもそもこの映画の設定として、とっても不思議なのは主人公2人の関係。
チョットだけビックリしてしまうのは、この映画でその答えが唐突に語られることで、実は夫婦だと語られます。
札幌からやって来た夫と、東京で暮らしていた妻が、出会って、何を思ったのか縁もゆかりもない土地、
洞爺湖にほど近い月浦地区で、手作り感いっぱいのログハウスで、パン屋を営むということ自体が不思議だ。

別に映画なので、現実的にありえる・ありえないは、個人的にはどうでもいいことなのだけれども、
僕がいつもそういう目線で映画を観ているというのは、現実的にありえない設定であっても、
力強い監督のリーダーシップで、観客にそんな違和感を帳消しにさせ、どんな非現実でも納得させて欲しい。

僕はこれこそが映画の作り手の力量だと思うんですよね。良い出来の映画はここが必ずちゃんとしている。

ホントは地域に根差した映画という位置づけを狙っていたのだろうと思う。
その証拠に本作は北海道では、1週間ほど早く先行して劇場公開されており、映画会社の作戦だろう。
でも、同じ北海道に根差したというのなら、『探偵はBARにいる』シリーズの方が遥かに根差しているだろう。
そう思わせるくらい、映画の内容として洞爺湖が生かされないし、月浦地区のロケーションも生かされない。

脇役キャラクターを光らせようとする意図はよく分かるけれども、残念ながらそのほとんどもハズレ。
あがた 森魚演じる、カフェの常連であるおじさんの存在もどこか狙い過ぎな感が否めないし、
カフェに郵便を届けに来る郵便局員が、いちいちヒロインに「キレイですね」と声をかけたりと、
ある意味で気味悪がられるぐらいのキャラクターを、この映画の特徴として描くには、さすがに無理がある。
この辺が本作の作り手の感覚のズレがあって、僕の中では映画の最後の最後まで埋められなくて困った(笑)。

結果として、自分と合わなかった点ばかりで気が引けるのですが、
映画のエピソードのヴォリュームの割りに上映時間の尺が異様に長いのも、どうしても気になる。

特に映画の中盤以降は完全に中ダルみしてしまい、
月浦の夏を描いた若い男女のエピソードはまだしも、秋の父親と女の子のエピソード、
冬の老夫婦のエピソードに至っては、メリハリが感じられず、映画自体が完全にダレてしまっている。

正直言って、これでは映画の価値が損なわれてしまっていることが否めません。
せっかくヒロインとして原田 知世をキャスティングできたというのに、どこか「ただ映っているだけ」に見えてしまう。
このあたりの問題というのは、僕は作り手の問題が大きく、映画製作の前の時点で対処すべき問題が多い。

現実世界の出来事として描くには、あまりに非現実的な世界に見えるし、
ファンタジーとして描くには、作り込みが甘く、映画の雰囲気もしっかり出来上がっていない。
これでは全てがどっちつかずの中途半端。何もかもが機能せず、映画を撮る以前の問題だったという気がします。

個人的には、月浦で過ごしていたら不思議な力がはたらいて悩みが解決するという、
その土地柄が持つ不思議なエネルギーに着目すべきであったと思う。そこをカフェが提供するパンに
置き換えてしまったがために、映画の“武器”となるべき要素を最初っから捨ててしまった感が残ってしまう。
本来、カフェで作るパンこそ、月浦のパワーを引き立たせるアイテムとなるべき存在だったはずなのに、
この映画の作り手は、その逆をやろうとしていて、見事に失敗してしまったように思えてなりません。

大泉 洋の北海道での知名度を頼った部分も大きかったように思いますが、
この内容であれば、もっとローカルに愛される内容でなければ、映画は光らないと思います。

せっかく北海道を舞台にした映画を企画してくれただけに、ホントに勿体ないと感じています。
特に洞爺湖周辺はかつて、“洞爺湖サミット”が行われたポテンシャルの高い土地であり、
もっともっと色々な土地の“表情”をフィルムに収めて欲しかったし、作り手の愛着を感じさせる作りにして欲しかった。

否定的な意見ばかりが占めてしまったが、もっとメルヘンのように描いてしまった方が
映画が光り輝いたと思っています。そういう意味で、“料理法”を間違えた映画という印象が拭えません。

ちなみに月浦地区は、洞爺湖温泉から洞爺村の旧市街との間にある地区。
何故にこの地区に注目したのかは分かりませんが、近くにウインザーホテル洞爺もあり、
他にも今流行りのオーベルジュもあるようで、ひょっとすると本作のモデルとなったところもあるのかもしれません。

であれば尚更、洞爺の魅力を発信できる映画に仕上げて欲しかったですねぇ・・・。

なんてたって、洞爺湖は08年にサミットの会場となったこともある土地。
もっと、この地域の魅力を伝えるに十分なロケーションを生かした映画にして欲しかったなぁ。

(上映時間114分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 三島 有紀子
製作 豊島 雅郎
企画 鈴井 亜由美
脚本 三島 有紀子
撮影 瀬川 龍
美術 井上 静香
衣装 宮本 まさ江
編集 加藤 ひとみ
音楽 安川 午朗
出演 原田 知世
   大泉 洋
   森 カンナ
   平岡 祐太
   光石 研
   八木 優希
   あがた 森魚
   中村 嘉葎雄
   渡辺 美佐子
   中村 靖日
   池谷 のぶえ