ハンコック(2008年アメリカ)

Hancock

僕はてっきり、ウィル・スミスがハービー・ハンコックを演じた伝記映画かと思ってたんですが、
超人的な動きやパワーがある酔いどれのヒーローを軸に、混乱と彼の活躍を描いたアクション映画だったんですね。

映画としては、良くも悪くも無難に面白い作品だとは思います。
監督はピーター・バーグで、彼は俳優出身で98年の『ベリー・バッド・ウェディング』で監督デビューし、
以降はアクション映画を中心に監督としても活躍しているのですが、ドンドン良くなってきているとは思いますね。

僕は、ジェイソン・ベイトマン演じる慈善事業「オールハート」をプレゼンテーションする実業家のレイが
あまりにお人好しキャラクターで、彼がホントに何をしたいのかよく分からないところが違和感あったのですが、
レイの妻を演じたシャーリーズ・セロンと、主人公ハンコックのコメディ的な絡みなど、面白い部分はありました。

だって、レイのプレゼンテーションを企業の前で熱心に売り込んでも、なかなか現実的ではないのは
当事者ではない私たちでも感じ取れるし、それを真剣に訴えているということ自体、どことなく胡散クサく見える。
まぁ、渋滞中に踏み切りの中に入って車を止めて閉じ込められちゃうくらいなんで、かなりの常人離れしてますがね。

映画の前半からシャーリーズ・セロンは普通の奥さまっぽくはない雰囲気プンプンなので、
ただで終わるキャラクターではないとは思っていましたが、映画の後半ではメイクを濃い目に変えたおかげで
どことなく“スーパーサイヤ人”みたくなって、彼女の正体にも大きなカラクリがあることが明かされていきます。
(何度観ても、やっぱりシャーリーズ・セロンの美貌は目を見張るものがありますね)

あまり重みのある映画というわけではないのですが、軽い感覚で観る分には丁度良い作品です。

と言うか、映画の終盤を除いてシリアスになる部分がほとんど無い映画ですので、まずまず明るく観れます。
ウィル・スミスは人助けをするものの、酔っ払って人々と公然とケンカしたり嫌がらせしたりしちゃうものだから、
メディアはおろか、助けてもらった人からも素直に感謝されないという、ダークサイドな部分を内包していますが、
いくら懇願されレイから説得されたからと言って、素直に刑務所に入るという展開はあんまり納得性が無い気がする。

本作の劇場公開当時から指摘されていたことですが、
映画の前半の良い意味でハチャメチャなキャラクター設定などで突っ走る部分は面白かったと思うんだけど、
元々のシナリオ上、仕方がないとは言え、次第に破綻していく映画の終盤のハンコックのピンチは盛り上がらない。

映画の前半の面白さと、後半のギャップがあまりに大き過ぎるような気がします。
映画の尺自体が短いこともありますが、物語もテンポ良く進んでいくのですが、終りが近づくにつれてトーンダウン。
途中で銀行強盗を邪魔されたことでハンコックに恨みを持つ凶悪犯も登場しますけど、目的もなんだかよく分からないし、
恨みを持って計画を立ててハンコックを攻め立てる過程も、随分な力技で来るので、ここまでやる説得力が無い。

まぁ・・・コミック感覚で観た方がいい映画ではあるので、そんな細かなことまで考えなくてもいいのだろうけど、
せっかく良い“土台”を持った映画ではあっただけに、この粗雑さは勿体ない。要所だけでも、しっかり作って欲しかった。

おそらくですが、B級映画の内容をA級映画のスタッフで製作するというコンセプトだったのではないかと思いますが、
良い意味でB級映画にもなり切れなかったというか、終盤は随分と真面目に構成してしまったのはチグハグでしたね。
どうせなら、映画の前半のハチャメチャ路線で突っ切って欲しかったなぁ。嫌われヒーローであるハンコックを、
冴えない実業家レイがプロデュースするという展開で、映画の最後まで引っ張っても良かったと思うんだよなぁ。
このレイのプロデュースの話しが、映画の終盤にはどっかに行ってしまって忘れられてしまうのが、とても残念でした。

ヒーローをプロデュースするという発想も、現代社会なら無くはないけれども(笑)、
みんなに好かれるように頑張るよりも、徹底して市民から嫌われるヒーローを描く方が、映画として魅力あったかと思う。
決してハンコックと市民の気持ちが分かり合うことはないけど、何故かハンコックは市民の命を救うという妙が良いのに。

そこをプロデュースすることで、市民に好かれようとしてしまうと、ハンコックのキャラクターの魅力は半減する。
そういう意味で、映画の終盤にこのプロデュースの話しがどっかに行ってしまうのは正しい選択だったのかもしれないが、
そうなのであれば最初っから違うベクトルで物語を広げればいい。ハンコックの設定は良いだけに、勿体なかった。

それから、やっぱりヒーロー映画で明確な「正義vs悪党」の構図がないのはキツいと思うんだよなぁ。
本作は前述したように、悪党の掘り下げが凄く甘いから、クライマックスの攻防が全くと言っていいほど盛り上がらない。
唐突に力技で対決が始まって、実にアッサリと解決してしまう。単刀直入に言うと、悪党が弱過ぎるのが致命的だ。
(この映画でハンコックにとっての“強敵”は、ほぼ間違いなくシャーリーズ・セロンでしたね)

「お互いに遠ざかれば遠ざかるほど、近づく力が強まる」という謎のパワーが働くということで、
ウィル・スミスとシャーリーズ・セロンの間にロマンスの香り漂うシーンもあるのですが、これもまた随分と唐突だ。

しかも、シャーリーズ・セロン演じるレイの妻は、レイの連れ子とは言え、子供もいるのでこれは微妙な展開だ。
作り手はごく自然に描いているのですが、エンターテイメントとして観るには、この2人のロマンスは不要だったと思う。
なんか、取って付けたように唐突にロマンスの香りを漂わせるので、思わずただのファンサービスなのかと思っちゃう。
但し、映画のメイン・ターゲットと全体像を捉えると、この展開って安直過ぎるなぁと、僕はあまり感心しなかった。

と、ダメ出しばかりになってしまいましたが、映画の前半はスピーディーで悪くないと思います。
ハンコックのあり得ないパワーと、超人的な動きで列車に跳ね飛ばされる寸前のレイの命を救ったり、
それでも実はハンコックは酔っ払っていたりと、コミカルなアクション映画として最適な作りをしていたと思います。

言葉は悪いけど、この映画はもっと「お●カ映画」に徹するべきだったと思う。
だって、何千年もの時を経て、カップルがいがみ合いながらも運命を交差させ、痴話ゲンカで市街地を破壊して、
市民の顰蹙(ひんしゅく)をかうなんて、典型的な「おバ●映画」ですよね。それなら、もっと大胆にコメディにして欲しい。

これは大きなターニング・ポイントだったと思うなぁ。と言うのも、本作は良いコメディの感覚を持っていると思うから。

ちなみに映画で登場してくる、シャーリーズ・セロンが作るお手製のミートボール・スパゲティが
みんな「美味しい」と言って食べるのですが、随分と庶民的なメニューだ。おそらくボロネーゼみたいなのでしょうが、
ヴォリューム感満点で超人的な動きでエクストラ・パワーを出しまくるハンコックにとっては、最適なメニューかも。

レイの指示で大人しく刑務所に入ったハンコックへの差し入れとして、
タッパーに入ったミートボール・スパゲティを持参するというのは、とっても良いシーンだったと思います。

僕はてっきり、本作のことをアメコミの映画化だと思い込んでいたのですが、
どうやらオリジナル・ストーリーのようですね。映画の風格としては、まんまアメコミの世界観のようです。
映像表現なんかも『アイアンマン』を想起させるような表現で、こういう映画って一つのフォーマット化していますね。

ウィル・スミス主演のアクション映画って、正直、当たり外れが大きい印象があるのだけれども、
ハリウッドを代表するマネーメイキング・スターとして確固たる地位を築いたからこそ、こういう企画ができるのでしょう。
特に00年代に入ってからのウィル・スミスは、ネームバリューで映画をヒットさせていたようなところがあったと思う。

ライトな感覚で観る分には良い作品ではありますし、
無駄にダラダラやるタイプの映画ではないので、良い意味で経済的な映画と言えるかもしれません。

ただ、ピーター・バーグに映画監督としての裁量がある企画であったはずなので、
もう少し何とかして欲しかった部分が多くあったのも事実ですね。この辺が大ヒットしなかった理由かな。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ピーター・バーグ
製作 アキヴァ・ゴールズマン
   ジェームズ・ラシター
   マイケル・マン
   ウィル・スミス
脚本 ヴィー・ビンセント・ノー
   ヴィンス・ギリガン
撮影 トビアス・シュリッスラー
編集 ポール・ルベル
   コルビー・パーカーJr
音楽 ジョン・パウエル
出演 ウィル・スミス
   シャーリーズ・セロン
   ジェイソン・ベイトマン
   エディ・マーサン
   ジェイ・ヘッド
   トーマス・レノン