HACHI 約束の犬(2009年アメリカ)

Hachiko : A Dog's Story

この映画、初見時は印象があまり良くなかったのだけれども、
2回目に観たら、少し印象が良くなりました。重ね重ね、日本人的な感覚がまともにハリウッドで映画化されたことに
驚きを禁じ得ないのですが、製作にリチャード・ギア自身が絡んでますので、彼の興味も強かったのでしょう。
(リチャード・ギアは熱心なチベット仏教信者で有名で、日本も大好きなようで何度も来日してますからね)

久しぶりにラッセ・ハルストレムの監督作品を観た気がしますが、
どこか独特な感覚のあるラッセ・ハルストレムのカラーは、本作では控え目というか弱い気がします。

本作はかの有名な渋谷駅前の“忠犬ハチ”の物語を、アメリカを舞台の物語に焼き直して、
ご主人様が他界しても尚、孤独にいつもの駅で主人の帰宅を待ち続ける犬を描き続けるヒューマン・ドラマで
犬好きで日本好きなリチャード・ギアはシナリオを読んで涙したらしいが、こういうのって海外の人にも通じるんですね。

結構、この映画で描かれたことって日本人的な感覚であって、
欧米の方々が愛玩動物にどういう感情を抱いているのか、そして人間に忠実であり続けることを
どう捉えているのかが分からなかったので、そもそもこの物語の良さを共有できたのか、自分の中では疑問でした。

ただ、少なくとも映画で描かれている世界観としては、とっても良く描けていますね。
映画は87年の日本映画『ハチ公物語』のリメークなので、あまり驚くようなエピソードはありません。
映画の中身的には、犬好きにはたまらない作品でしょうね。キャストとして抜擢されたワンちゃんも、スゴい演技力。

何度も繰り返し、愛犬ハチと大学教授パーカーの交流を描き続け、
映画の終盤でもハチがパーカーに抱きつくシーンを何度もリフレインするのを観ると、作り手も意識的に
ハチの記憶を描き、叶うことのないハチの願い、そして強い忠誠心の尊さを本作のメインとして描きたかったようだ。

そういう意味では、作り手たちは本作のストーリーの良さをよく理解しているようですね。

ただ、映画の前提となるハチが子犬のときに日本の住職からアメリカへ送られ、
アメリカ側では誰も管理しているような感じではなく、ほぼ放置されていたような状態だったことが謎で、
映画の中で詳しく語られていない。まぁ、パーカーとの出会いが奇跡のような描かれ方をしているので、
ここは作り手もあまり説明する気はなかったのでしょうが、映画の前提条件が謎なままなのはいただけない。

ラッセ・ハルストレムもいつもなら、個性の強い部分があるのですが本作はマイルドな仕上がりで、
あまり特徴がない映画になっているというのが予想外で、個人的にはもう少し彼のカラーを出しても良かったと思う。

とは言え、現代社会の意味する「ペットは家族の一員である」ということを見事に象徴していますね。
いつしかペット葬というものも定着しましたが、古くは自分の祖父母の飼っていたマルチーズが死んだときも
幼心に凄く悲しい出来事であって、ホントに家族が亡くなったという感覚なのだなと感じていたことを記憶しています。

ハチのように真の忠犬はなかなかいないと思いますが、ペットとは言え、濃密な時間を長く共にしますからね。
ましてや現代では室内飼いのペットが大半になってますから、余計にペットの存在が大きくなっていきますよね。

本作はそういった感覚をさり気なく醸成していった感じで、お涙頂戴という感じではなく
とても建設的な映画ではあったと思うので、作り手が安直な映画作りをしていない証拠であったと思います。
もう一つ加えて言うなら、ハチの視点で描くというのが良かったですね。色盲である犬の世界を実に上手い
タイミングで挿し込んでいて、これまでの動物映画には無い発想だったのではないかと感じ、これも感心しました。

ただ、パーカーを駅で待ち続けるシルエットはもっと強調して描いて欲しかったなぁ。
こうして待ち続ける姿が周囲の興味関心を引いたからこそ、渋谷のハチ公の銅像が出来上がったわけで
映画の終盤はもっと駅で待ち続ける姿を、長く描いても良かった。季節の変遷をCGで表現したのはどうもなぁ・・・。

やはり銅像になるくらいですから、あのシルエットが本作の基本になるべきなんですよね。
あの忠実に待ち焦がれる姿が、人々の心に訴えるものがあったわけで、ハチの象徴でもあるわけですよね。

リチャード・ギア演じるパーカーが退場するのが、予想外なほどに早かったから尚更のこと、
あの待ち続ける姿を描くことの意味が大きかったと思うのですが、あの待つ姿よりも周囲の人間模様に
スポットライトを当てたかったようで、個人的にはどうにもシックリ来ないというか、ここはハチに集中して欲しかった。

このリチャード・ギアは実際にかなりの犬好きらしく、本作の撮影にあたっても犬がかなり懐いたらしい。
確かにそれがよく分かるほど、リチャード・ギアはよく似合ってましたね。小屋でマッサージを試みるシーンは
なかなか板についていました(笑)。脚本を読んで出演を即決しただけあって、なんだか楽しそうに演じている。

僕も犬種によってどうだとかは、詳しくは分かりませんが、
秋田犬って、飼い主への忠誠心も強くて従順というイメージがあります。但し、闘犬として利用されていた
歴史がある秋田犬なだけに、相応に闘争心があって、気性が荒い側面もあるというから僕の中では意外でしたね。
そのせいか秋田犬が発生させてしまう事故って多いらしく、その多くが日常の躾の甘さに原因があるそうだ。
(とは言え、動物って言葉が通じないせいか、躾ってスゴく難しそうだな・・・というのが僕の中での印象...)

そういえば、本作は不可解なことに全米で劇場公開される直前になって、
アメリカでは劇場未公開となることに変更になったそうです。その理由は未だ明かされていないのですが、
内容的にヒットが望めないとでも判断されたのでしょうか。でも、本作の評判は良かったそうなのですがね・・・。

一時期はハリウッドでも監督する作品は片っ端から高い評価を得て、
次々と全米でも拡大公開されていたラッセ・ハルストレムの監督作品でしたが、この頃は既にその勢いが無かった。
2000年頃のラッセ・ハルストレムと言えば、アカデミー賞にも近いディレクターという印象でしたからねぇ。
そうなってしまうと、おのずと監督作品のクオリティも落ちていくような気がして、なんだか残念ですね。
(まぁ、正確には勢いが無くなったからこそ監督作品の評価が下がり、規模の大きな企画を任されなくなるのだが)

個性ある映画を撮るディレクターなだけに、もう一花咲かせることを期待したのですがね・・・。

実在のハチは、渋谷駅前で飼い主であった大学教授を待ち続けたのですが、
その大学教授が急死してしまったため、飼い主が帰ってくることはありませんでした。渋谷駅前で待ち続ける最中は
渋谷駅の駅員などがハチの世話をしていたらしく、それも本作で描かれていて、かなり忠実に映画化しています。

残念ながら全米では劇場公開されなかったようですが、
ここまで忠実に映画化したというのは、ハリウッドのプロダクションもこの物語に強い魅力を感じている表れでしょう。

忠犬ハチの物語は古くから、日本人の心に触れた物語として愛されていただけに、
こういう物語が国際的にも評価を得て、実際に映画化されたという事実は僕はとても大きなことだと思います。
個人的には素直に嬉しいし、物語の舞台をアメリカに移しても、オリジナルをかなり尊重されたというのは特に嬉しい。

しかし、ハチはご主人の死後、10年間もの長期にわたって渋谷駅でご主人の帰りを待っていたというから驚きだ。
人間でここまで忠誠心、というか忍耐力の強い人はいないだろうし(笑)、これが秋田犬の特徴なのでしょうね。
前述したように闘争心も強いですから、飼い主に何かがあれば闘うことも辞さないという、凄まじい忠誠心です。

まぁ、ハチのエピソードは美談とは限らないと批判的なことを主張する論調もあって、
単に渋谷駅前の焼き鳥を目当てに来ていただけとか、駅にいる人からもらえる餌目当てとか、諸説ありますがね。。。

実際はどうであれ、僕はこういう動物の姿を尊いと感じる人の感情は大事だと思うし、
理屈で説明できることだけではないと思う。そういうことを描くと、ついつい感動の押し売りのようになりますが、
本作はそのギリギリのところまで上手くやって感じですね。映画全体のバランスを上手くとっている印象です。

以前なら、こういう映画にここまで揺らがなかったのですが、
ここにきて感じ方が変わってきたということは、やっぱり自分が年をとった証拠なのかな・・・(苦笑)。

(上映時間93分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ラッセ・ハルストレム
製作 ヴィッキー・シゲクニ・ウォン
   ビル・ジョンソン
   リチャード・ギア
脚本 スティーブン・P・リンゼイ
撮影 ロン・フォーチュナト
編集 クリスティーナ・ボーデン
音楽 ジャン・A・P・カズマレック
出演 リチャード・ギア
   ジョアン・アレン
   サラ・ローマー
   ケイリー=ヒロユキ・タガワ
   ジェイソン・アレクサンダー
   エリック・アヴァリ
   ダヴェニア・マクファデン