不機嫌な赤いバラ(1994年アメリカ)

Guarding Tess

気難しい未亡人になった元大統領夫人テスと、郊外の大邸宅に暮らす彼女を警護する
ワシントンから派遣されたシークレット・サービスの中核的存在であるダグラス。

2人は反発し合いながらも、変化を嫌うテスのワガママのおかげで、
ワシントンで要人警護に就きたいダグラスの希望を打ち砕くようにテスはダグラスを指名し続け、
苛立つダグラスはテスに厳しく接し、テスは更に頑固にワガママを貫き通そうとする。

しかし、そんな2人も打ち解けあい、
次第にテスとダグラスの関係が母子にも似たような関係へと再構築され、
待ち構える大きなトラブルにも負けず、闘う姿を描いた実に温かなヒューマン・コメディ。

監督は『ファースト・ワイフ・クラブ』のヒュー・ウィルソンで、
本作は手堅い作りだが、決して凡庸な作りに満足することなく気が配られた、実に良い仕事っぷり。

テスの生活ぶりを象徴するかのように、映画も落ち着いた雰囲気を強調しており、
おそらくいくらでもドタバタと忙しい映画にはできたと思うのですが、最後まで映画の雰囲気を壊さない。
コメディエンヌとしての実績もあるシャーリー・マクレーンですが、彼女もまた、元大統領の未亡人という
イメージを壊さないような気品すら感じさせる存在感で、昨今の出演作としては好演と言えますね。

まぁこの映画は確かにシャーリー・マクレーンをキャストできたことは大きかったと思います。
(それは彼女がゴールデン・グローブ賞にノミネートされたことでも、反映されていますね)

この頃のニコラス・ケイジも、本作のような比較的、小粒なコメディ映画にも何本か出演しており、
翌95年の『リービング・ラスベガス』で評価されて、規模の大きな映画出演のオファーが相次ぎ、
スターダムの階段を上っていっただけに、本作のような作品の存在は貴重だと思いますね。

主人公のダグラスは彼なりに強い職業使命感を持っており、
周囲のテスの警護たちは「波風立てなければ、こんなに良い職業外されないで済むのに・・・」と、
後向きな発言をする中、ダグラスは彼なりにできる精いっぱいの仕事として、
規則を守って、テスの身に危害が与えられないように、リスクをできる限り回避するという
発想に基づいて仕事を組み立てており、言ってしまえば、模範的な職業人だ。

テスは破天荒な振る舞いで、映画の前半は特に多くの方々が
彼女のワガママに苛立つかもしれませんが、彼女は映画の中盤で意味深長な発言をしております。

「元ファースト・レディにこれだけの金をつぎ込んで警護するなんて、税金の無駄遣いよ」

この映画を観る限り、僕も彼女の言っていることは決して間違っていないと思うんですよね。
そして見逃してはならないのは、彼女は決して何一つポリシーなしに反発していたわけではないということ。
まぁ主張の方法が間違えているのだけれども、彼女なりに警護不要を訴えているのでしょうね。

この辺はテスを一辺倒に気難しいキャラクターにしてしまわないかったのは、
映画の作り手として賢明な判断だったと思うし、結果として成功だったと思いますね。
こうしなければ、おそらくシャーリー・マクレーン演じるテスは、ここまで魅力的にならなかったでしょう。

シナリオから丁寧に書かれており、ダグラスの心の揺れ動きなども実に繊細に描かれています。

ダグラスにしても、そんなテスの気持ちを察してか、
そして彼女の人間らしさを感じてか、ダグラスも色々と悩み、状況に適応しようとします。
こうして2人が歩み寄っていくことにより、2人の心の距離は徐々に縮まっていきます。
映画はそんな2人の心の距離が徐々に縮まっていく過程を、実に繊細に描けていますね。

コメディ映画としては定石通りではありますが、
映画がダラダラと長くないあたりも感心しますね。ひじょうに丁度良い、ヴォリューム感です。

監督のヒュー・ウィルソンがコメディ映画を専門に活動している映像作家ですが、
さすがに経験豊かなせいか、映画の配分が良く、全体的なバランスも抜群ですね。
ドタバタ・コメディが好きな人には、調子が合わないかもしれませんが、
僕はこれはこれでコメディ映画として、ひじょうに質の高い作品だと思いますね。

一つチョットしたアクセントになっているのは、
「元ファースト・レディ」としてのテスのプライドですね。これは映画の後半でよく表れており、
自身が主宰する基金でのスピーチで大統領が出席しないことを知り、寂しそうな表情をするのが印象的です。

やはり、かつての栄華というのは、そう簡単に記憶から消えないものなのですよね。
彼女がかつてのVTRのビデオを集めて、夜な夜な見入ってしまうのは、過去に名残惜しさを感じているから。

別に過去の栄華にすがり付こうとしているわけではないのだけれども、
かつての誇りを忘れないようにと、必死に記憶しようとする姿が、何とも切ないですね。

あまりメジャーな映画ではありませんが...
これはひじょうに質の高いコメディ映画として、もっと数多くの方々に観て頂きたい一本です。
(これこそ“発掘”に値する、埋もれてしまった秀作だと思うのですが・・・)

それと、どうでもいい話しではありますが...
ニコラス・ケイジって、この頃から髪の毛が薄くなる兆候が出ていましたね。。。

(上映時間95分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ヒュー・ウィルソン
製作 ネッド・タネン
    ナンシー・グレアム・タネン
脚本 ヒュー・ウィルソン
    ピーター・トロクヴェイ
撮影 ブライアン・J・レイノルズ
編集 シド・レヴィン
音楽 マイケル・コンヴァーティノ
出演 シャーリー・マクレーン
    ニコラス・ケイジ
    オースティン・ペンドルトン
    エドワード・アルバート
    ジェームズ・レブホーン
    リチャード・グリフィス
    デビッド・グラフ