ラブリー・オールドメン(1993年アメリカ)

Grumpy Old Men

ジャック・レモンとウォルター・マッソーの名コンビが、
幼い頃からの知り合いでいながらも、かつて一人の女性を奪い合ったことが原因で
一気に犬猿の仲になってしまい、以来、隣人同士でありながらいがみ合う近所でも有名な存在。

そんな二人の家の目の前に、奔放な性格の中年女性(未亡人)が
引っ越してきたことから、勝手に恋の奪い合いを繰り広げる姿を描いたコメディ映画。

確か、本作は日本でも劇場公開されて、当時の映画雑誌なんかでも取り上げられていましたけど、
あまり大きく注目されることなく劇場公開が終わってしまった記憶があって、ずっと観たかったんですよね。
95年には、こちらは日本では劇場公開されませんでしたが、同じキャストで続編も製作されています。

ジャック・レモンとウォルター・マッソーの二人が映画で共演すると、
だいたい本作のようにいがみ合う二人という構図になるのですが、私生活ではどこまで仲が良かったのか、
あまり彼ら自身も詳細に語っているのを見たことはありません。しかし、本作でも相変わらず息はピッタリです。

二人とも50年代から映画俳優としてのキャリアはあって、
特にジャック・レモンは既に55年の『ミスタア・ロバーツ』でアカデミー助演男優賞を獲得していて、
59年から続いた名匠ビリー・ワイルダーの監督作品に立て続けに出演し、世界的なスターになっていました。

一方で60年代に入って、思うようにスターダムを駆け上がれないウォルター・マッソーでしたが、
同じくビリー・ワイルダー監督作で66年の『恋人よ帰れ! わが胸に』でジャック・レモンと共演し、
見事にアカデミー助演男優賞を獲得したことをキッカケに、ハリウッド俳優としての地位を確立していきます。

同時にジャック・レモンとウォルター・マッソーは多くのコメディ映画で共演するようになり、
68年の人気作『おかしな二人』をはじめとして、本作に至るまで、3本のコメディ映画で共演している。
(71年にジャック・レモンが監督にチャレンジした『コッチおじさん』で主演を務めたのも、ウォルター・マッソー)

数にすると多くは聞こえないかもしれませんが、
二人の安定した掛け合いは、世界的にも人気があって、年老いてからの共演ではあったものの、
本作の企画を聞いたら、往年の映画ファンもきっと楽しみにしていたはずで、期待値はそうとうに高かったはず。

映画の内容としては、しっかり楽しめる安心の内容です。
ストーリー的な甘さはあるのですが、コメディ映画としては実に手堅いアプローチで、
主演2人が既に年老いているという影響もあるにはあるけど、落ち着いた雰囲気を基調としながらも、
しっかりと確実にコメディ映画としてのセオリーを踏襲した、作り手の力量の高さを感じさせる作品ですね。

映画がどうしてもジャック・レモン演じるジョンの目線が中心的になるので、
映画の途中までウォルター・マッソー演じるマックス爺さんが、少し嫌なキャラクターに映ることはご愛嬌ですが、
相変わらずの美貌を保つアン・マーグレットをヒロインとして据え、見事なまでに翻弄される構図、
そして年甲斐もなく、一人の女性をめぐって、爺さん2人が紳士に良いカッコしようとする姿が、なんとも涙ぐましい。

でも、男って基本的に、いつまで経っても子供ですからねぇ(笑)。
そういう姿にジャック・レモンの笑顔は、なんとも絶妙なまでにマッチするから印象的。

エンド・クレジットで流れる、本作撮影時のNGシーン集なんかもそうなのですが、
ジャック・レモンの父親役でバージェス・メレディスが出演していて、実に豪快な爺さんを演じていて楽しい。
身体はヨボヨボですが、気持ちだけは異様に若くって、自分の結婚式でもないのに花嫁にキスを求めて、
「オイオイ、長い、長い」とツッコミを入れられるぐらい、花嫁に堂々と接吻するトンデモないジジイだ(笑)。

ジャック・レモンとウォルター・マッソーをキャスティングできた時点で、
この映画は半分、“勝利”したようなものではありますが、脇役キャラクターも大切にしているのが実に嬉しい。
(個人的には売店の店主を演じたオシー・デービスにも、もう少し活躍の場を与えて欲しかったが・・・)

しかし、70歳手前になってまでも、腐れ縁なのだろうけど、
幼い頃からの付き合いの仲なのに、お互いにいがみ合って、嫌がらせを続ける関係って、なんかイヤだなぁ(笑)。

いや、それでもエスカレートしない人間関係なら素敵だなぁとは思うのだけれども、
現代社会なら、高い確率でエスカレートして事件につながりそうな気もするし、
第一、静かに余生を過ごしたいと願っている人が多い中で、あんな毎日がドタバタなんて疲れてしまいそう(笑)。

しかし、この映画の主人公であるジョンにしてもマックスにしても、
妻に先立たれ、子供も家にはいないという環境にあって、さすがに寂しいのでしょうね。
心にポッカリ開いた穴を埋めるために、お互いの存在を張り合いにしているようなもので、
だからこそ、マックスの映画の終盤での行動の納得性が出てくるわけで、逆の立場でも同様の行動となるでしょう。

ドナルド・ペトリも、ジョンとマックスの2人のケンカの毎日を
とても優しい眼差し、そして茶化すわけでも雑に描くわけではなく、実に大切に描いている。
これはおそらくドナルド・ペトリ自身、2人の毎日を羨ましく、そして愛らしいと思って描いているからでしょう。

やはり作り手の、そういう想いが強く反映されている映画って、凄く良いですねぇ。

まぁ派手さのある映画ではないし、コメディ映画とは言え、爆笑できるタイプの映画ではない。
思わず微笑ましいというか、ニヤリとさせられる映画で、どちらかと言えば、ハートウォーミングな路線だろう。
予定調和な部分があるのは仕方ないと理解して頂ける人なら、そこそこ楽しんでもらえる映画だと思う。

但し、いくら隣家の気になる美人とは言え、
知らないうちに家に侵入して、勝手に料理を作って、「おかえり〜」はイヤだなぁ・・・(笑)。

この映画、そういう行動をサラッと描いていることが多いのですが、
現実的に考えると、凄い行動をとっているシーンが何箇所かあるせいか、少し違和感は残るかな。
総じて出来はまずまずな映画なんですが、ストーリー的な細部で少し損をしている作品だとは思います。

映画のNGシーンのラストで、ウォルター・マッソーとジャック・レモンが
2人、肩を並べて笑い合うシーンで終わるのですが、2人とも他界した今となっては、より心に響く。。。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ドナルド・ペトリ
製作 リチャード・C・バーマン
    ジョン・デービス
脚本 マーク・スティーブン・ジョンソン
撮影 ジョニー・E・ジェンセン
音楽 アラン・シルベストリ
出演 ジャック・レモン
    ウォルター・マッソー
    アン・マーグレット
    バージェス・メレディス
    ダリル・ハンナ
    ケビン・ポラック
    オシー・デービス
    バック・ヘンリー
    クリストファー・マクドナルド
    ジョン・キャロル・リンチ