リベンジ・マッチ(2013年アメリカ)

Grudge Match

言わずと知れた名作シリーズ『ロッキー』で苦悩のボクサー、ロッキー・バルボアを演じたスタローンに、
80年の『レイジング・ブル』で伝説のボクサー、ジェイク・ラモッタを演じて念願のオスカーを獲得したデ・ニーロ。

そんな2人が60歳を超えて、それぞれのセルフ・パロディのように、かつて名勝負を繰り広げながらも、
お互いに私生活が原因で犬猿の仲となり、ボクシング界から離れ年老いて、再びトレーニングを積んで、
リングに上がって対決をしようと、それぞれの家族を巻き込んで展開するスポーツ・コメディ映画。

まぁ、監督がコメディ映画専門のピーター・シーガルがメガホンを取っているので、
観る前からある程度、どんな内容の映画になるかは分かっていたことではありますが、
スタローンにデ・ニーロがこういう内容の映画で共演することになるなんて、予想していなかったなぁ。

この2人は97年の『コップランド』で共演してはいますが、
ここまで大々的に対立構図となる共演は初めてのことで、予想外に白熱した内容にはなっている。
ピーター・シーガルが監督しているので、もっとドタバタした喜劇なのかと思っていたのですが、
実際、内容的にはそこまでコテコテのコメディというわけでもなく、少々、シリアスな雰囲気も強めに表現される。

全米での評判は芳しくなかった作品ですが、僕はこれはこれで“アリ”だと思った。
こう言っては失礼ですが、高齢者になったベテラン俳優が老いても尚、お盛んな姿を観れることは個人的には嬉しい。

下ネタしか言わない耳の悪い老人を演じたアラン・アーキンのキャラクターはどうかとは思ったが、
スタローンのかつての恋人としてキム・ベイシンガーが出演していますが、彼女はまだまだ若々しいし、
肉体派のスタローンはどちらかと言えば寡黙で、演技派のデ・ニーロは気性が荒いという設定が少々意外でした。
そういう意味では、実力あるベテラン俳優の持ち味を生かしながら、新たな魅力を生み出そうとする意図は見える。

半ばお約束ではありますが、2人の老体に鞭打つような痛々しい姿と、
弱音を吐く姿を恥ずかしげもなく見せてくれていて、往年の彼らの姿からは想像できない。
でもね、僕はこれはこれで魅力的だと思うし、彼らもきっと「これでいいんだ」と思って演じていると思う。

あくまで映画の中では、若々しくもボクシングに勤しむ姿を演じているわけですが、
その中の節々に加齢と闘う姿を堂々と演じることで、老いに抗い切れない姿を敢えて演じていると思うのです。
これは僕はスゴいことだと思うし、おそらくこういう姿が彼らが真に迫って表現できる一つのポイントなのでしょう。

『ロッキー』では数々のトレーニング・シーンと、文字通りの死闘を展開してきたロッキー・バルボアを演じ、
毎日冷蔵庫の前でビールジョッキに生卵を入れて表情一つ変えずに飲み干していたスタローンでしたが、
実は本作にもそのパロディがあって、まんまそのまま大きなグラスに生卵を何個も入れて、飲むように指示される。
でもこれがスタローン、どこか微妙な表情をして飲み干すのに苦労するシーンがあって、これが妙に印象に残る(笑)。

基本、コメディ映画なんだけど、ボクシングのファイト・シーンの迫力はなかなかのものだ。
この臨場感や真に迫った空気は、中途半端なものではない。「コメディ映画だから、この程度で」という
作り手の言い訳めいたものも無い。かと言って、映画全体のバランスを崩すような“やり過ぎ”なほどの演出でもない。
言えば、これは丁度良い塩梅だ。ピーター・シーガルがこういう部分を、ここまで器用に出来るとは驚きでした。

体つきとしてはスタローンの体型の維持はスゴいんだけど、典型的な爺さん体型になっていた
デ・ニーロも映画が進むにつれて、どことなく体つきがシャープになっていくように見えて、
そのフットワークも軽く、爺さん同士の商業的なボクシングという域に留まらないシーン演出にはなっている。

映画のラストシーンに、実は“オマケ”があるのですが、これがスゴい面白かった。

97年のホリーフィールドvsタイソンのマッチのタイソンによる耳噛み事件は、
当時、ボクシングに興味ない人にとっても世界的に有名な事件をして報じられていたため、
これは僕も記憶しているところなのですが、この“オマケ”のシーンでプロモーターが2人と対談していて、
ホリーフィールドに「あの件は許したのか?」と聞き、タイソンが怒り始めるというオチがついている。

どうやら09年にホリーフィールドとタイソンは公式に和解しているとのことで、
本作の撮影にも友好的に協力したということなのでしょうけど、これは本作のハイライトと言っても過言ではない。

正直、僕はボクシングに全く詳しくないので知らなかったのですが、
ホリーフィールドって、50歳目前だった2011年までは現役でタイトル・マッチに出場していて、
公式に引退宣言を発表したのは2014年なんですね。マイク・タイソンは収監されたり、散々事件を起こして、
2006年に約20年に及ぶ波乱のボクシング人生に終止符を打ったので、ホリーフィールドの方が息の長い、
ボクシング人生を送っていたようで、オリンピックのメダリストでもありますからね。ボクシング界のレジェンドでしょう。

何故にそういう“オマケ”のシーンを付けたのか、その意図はよく分かりませんが、
これはこれでピーター・シーガルなりのギャグだと考えれば、最後まで明るく終わりたいということだと思う。
しかし、どうせならホリーフィールドとタイソンと対照する形で、スタローンとデ・ニーロの対談も入れて欲しかったな。

余談ですが、80年代から90年代前半にかけてのスタローンは、
マネーメイキング・スターとして明らかに全盛期を迎えていました。日本でも彼の出演作品は全て劇場公開され、
映画会社も資金を投じて、ほとんどの作品を商業的にヒットさせていました。シュワちゃんとスタローンと言えば、
当時のハリウッドを代表する肉体派アクション・スターのシンボルと言っても過言ではなかったと思います。

そんなスタローンも00年代に入ると人気が急激に衰えたように見え、
冴えないB級アクションに出演するイメージが定着してしまい、シュワちゃんは政治家へと転身したため、
彼らのアクション映画が毎年のように席巻する時代は終わったと、一つの時代が終わりを告げたように思っていました。

そこでスタローンは自分のやりたいことを表現する方針に変えたように、
往年の自身のヒット映画でシリーズ化された『ロッキー』や『ランボー』の後日談のような続編を
それぞれ20年近くのブランクを空けて、立て続けに製作するようになり、それらもヒット作となりました。
これはスタローンのサービス精神とも解釈できますが、僕はこれが彼のやりたいことだったのだろうと思う。

そのような中で、『ロッキー』や『ランボー』ではなかなか表現しづらい、
老いとの葛藤やスタローンのコミカルな芝居へのオマージュを、どういった形で表現するかも考えていたと思う。
そこで本作の企画だったわけで、おそらくスタローンにとっても色々とマッチするものであったのでしょう。

そういう意味で、本作のスタッフにとっては最高のキャスティングができたわけですね。
前述したように、スタローンとデ・ニーロがこういうコメディ映画で再共演とは思ってもいなかったけれども、
内容的には映画全体のバランスが良く、僕はそこそこ手堅く楽しめた映画という印象ですね。

さすがにコメディ映画ですので、ボクシングのファイト・シーンにしてもどこかに甘さがある。
でもまぁ・・・過去の後悔を晴らす意味でも、年老いても挑戦し続けることの尊さを説くことが主題なわけで、
それをコミカルに描くことに意義があるのでしょうから、これくらいの甘さは許容されてもいいと思う。

それにしても...ハプニングを敢えてYoutubeにアップロードすることで、
プロモーターが話題を惹起しようとするところが、広告宣伝の主要ツールがテレビではなくなってきたことを痛感する。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ピーター・シーガル
製作 ビル・ガーバー
   マーク・スティーブン・ジョンソン
   マイケル・ユーイング
   ラヴィ・メータ
原案 ティム・ケルハー
脚本 ティム・ケルハー
   ロドニー・ロスマン
撮影 ディーン・セムラー
編集 ウィリアム・ケアー
音楽 トレバー・ラビン
出演 シルベスター・スタローン
   ロバート・デ・ニーロ
   キム・ベイシンガー
   ケビン・ハート
   アラン・アーキン
   ジョン・バーンサル
   アンソニー・アンダーソン
   LL・クール・J