グリーン・カード(1990年アメリカ・フランス・オーストラリア合作)

Green Card

独身者は入居できない、立派な庭園があるアパートを借りるために、
違法な仲介業者を介して、アメリカ国内永住権(グリーン・カード)を得ることが目的の
フランス人と偽装結婚するものの、不審に思った移民局が調査しに来る様子を描いたラブ・コメディ。

ハリウッド女優のアンディ・マクダウェルをヒロインに据えて、
相手役のフランス人には、フランス映画界の名優ジェラール・ドパルデューというキャスティング。
そして撮ったのは、オーストラリア出身でハリウッドで活躍するピーター・ウィアーという多国籍な作品だ。

最初に言っておくと、映画の出来自体は悪くないと思います。
映画の最後は上手くまとめたけれども、ただ...その過程を見ると、なんだか首を傾げる部分が多い。

コミカルさを出したかったのだろうけどれども、このヒロインとフランス人の間に
ロマンスが生まれるということ自体、にわかに信じ難いというか、説得力が無いように感じられる。
だいたい、いくら“予習”であるとは言え、「生理はいつ?」なんて、あまりに不躾で「なんだコイツ?」状態でしょう。
このような性格のヒロインなのに、あの時点で「もういいわ!」と激怒しなかったというのが不思議なくらいです。

ましてやアンディ・マクダウェル演じるヒロインは、人付き合いよりも植物が好きという感じで、
恋人との関係性を見ても感じますが、彼女は誰でもそう簡単にオープンに仲良くできる感じではなく、
どちらかと言えば人見知りな感じだからこそ、突然、こんなことを言われても動揺しないなんて、信じられない(笑)。

アリバイ作りにバカンスの写真を撮ったり、“おのろけ”な様子を写真に撮ったりしているうちに
反目し合っていたはずが、お互いに仲が良くなるというのは分かるけど、さすがに恋をするというのは無理がある。
ピーター・ウィアーもこういった無理があるなぁと感じる部分を、緩和する“策”を講じていられれば良いのだけど、
本作を観ていると、そういったカバー策は特に無く、いきなり夜にベッドでヤキモキするシーンになってしまう。

このストーリーの発想は悪くないと思うし、お互いに写真を撮り合って、
ナンダカンダで楽しそうに、お互いの状況を予習する姿はどこか微笑ましく、これをキッカケにお互いの“バリア”が
消えていって、次第の距離が近づいていくという基本的な部分は良かったのですが、もっとジックリ描いて欲しかった。
そう、いかんせん2人のロマンスについては、作り手も少し強引な部分があって、ムードを高められていないです。

細かな部分を観ても、あのアパートの警備係もあまりに変だし、
色々と言いたいことはある。但し、この映画の場合は「終わり良ければ、全て良し」ということなのでしょう。

確かにこの映画のラストシーンは、どこか切なく、ほど良く甘く、印象に残る終わり方だ。
それをジェラール・ドパルデューが演じるのですから、どこかフランス映画の雰囲気を感じさせる。
これら全てをピーター・ウィアーなりに反芻して、彼の演出の良さがほど良くマッチして、良い終わり方をしている。

劇場公開当時、本作はかなりヒットしたようで、それは当時の時代性もあったでしょうけど、
当時の女性を中心に本作がウケたというのは、なんとなくですが分かるような気がします。

現実に永住権(グリーン・カード)を得るために、偽装結婚するケースは数多くあり、
実際に摘発されて強制送還になった事例は多い。アメリカに限らず、先進国を中心に多いようだ。
さすがに各国に偽装結婚を仲介する業者がいるのかは知りませんが、これはビジネスモデルとしては確かに成り立つ。

まぁ・・・外国人から見たアメリカを描いたという点で、如何にもピーター・ウィアーらしい視点がある作品だ。
ここまで順当なロマンスを描いたというのも珍しいが、それでも芯の通ったものを感じさせる骨太さだ。

やたらと「鼻が大きい」と言われるジェラール・ドパルデューは相変わらず大柄で印象的ですが、
ヒロインを演じたのがアンディ・マクダウェルという、とっても自然体でナチュラルな魅力を持った女優さんなのも良い。
少々、ジェラール・ドパルデューがギラギラしてますので(笑)、アンディ・マクダウェルの存在が上手く中和します。
そういう意味では、この2人のコンビが絶妙で、本作の成功の秘訣はこのキャスティングだったかもしれませんね。

アンディ・マクダウェルも本作あたりから、大きな役がよく回ってくるようになってきましたが、
元々は84年の『グレイストーク −類人猿の王者ー ダーザン伝説』で映画デビューするものの、
あまりにキツいアメリカ南部の訛りが問題視されて、全て吹き替えられてしまったという過去がありました。
本作では、さすがにハリウッド女優としてのキャリアも積まれてきたせいか、都会的な洗練された女性になっています。

やはりフランス映画界の名優ジェラール・ドパルデューと渡り合うのですから、力のある女優さんです。

そんなジェラール・ドパルデュー、本作で初めてハリウッド資本の映画に出演しますが、
本作以降もハリウッドを中心に活動するのかと思いきや、結局、そうはならなかったですね。
本人がどういうつもりだったのか僕にはよく分かりませんが、そうなってもおかしくはなかったのですがねぇ・・・。

ところで、このジェラール・ドパルデュー演じる主人公が作曲家と偽っていたことから、
夕食会に出ていたヒロインの友人の親族から「ピアノを弾いて!」と懇願されて、実は弾けないのに
渋々弾こうとするシーンで、即興で適当に弾いて周囲を“ビビらせた”後に、適当なメロディに乗せて、
フランス語でそれっぽいポエムを読んで、何故かヒロインの友人の母親が感動するというエピソードは面白い。
(最初の即興は、力任せに適当に鍵盤を叩く感じで、ホントにヤバい雰囲気でしたが・・・)

まぁ・・・アメリカ人の視点から見ても、フランス人がそれっぽいことをやれば、
従来の力以上に感動させられるのかもしれませんけどね。今の時代、これも偏見と言えば、そうかもしれませんが・・・。

ところで、偽装結婚は日本でもかつて話題になったことがあったと思いますが、日本を舞台に描いたら、
こうもオシャレな映画にはならないでしょうね(苦笑)。それをオーストラリア人が撮ったというからユニークですね。
ピーター・ウィアーはこういうユニークな視点は持っている映像作家であり、高く評価された作品も多いのですが、
これといった決定打となる傑作も少ないせいか、ハリウッドでも今一つ評価されなかった面はあると思いますね。
でも、僕の中ではピーター・ウィアーの監督作品って、本作のように視点がユニークということだと思うんです。

ピーター・ウィアーも、00年代前半までは多くの監督作を発表していたのですが、
いつしか創作ペースを落としてしまいました。作品の評価も高く、監督として定評がありましたが、
彼のキャリアの中で、決定打となる作品を作れなかったですね。おそらく、彼の監督作品としては、
日本では本作か98年の『トゥルーマン・ショー』のどちらか、というくらい、本作の知名度は低くはないでしょう。

ただ、如何にも90年代前半のトレンディーな時代の映画って感じで、少々、古臭く感じられるかもしれません(苦笑)。
まぁ、今はこんな恋愛映画はなかなか登場しない時代ですので、これはこれで貴重な大切にしたい一作だと思う。

もう少し男女の恋の駆け引きを丁寧に描いていれば、更に良くなったでしょう。
当時はジェラール・ドパルデューもハリウッドを拠点に俳優活動していくのかと思いきや、
今はまさかまさかのロシア国籍ですからね。プライベートでは、かなり尖った性格でもあるのでしょう。

偽装結婚から始まる恋愛なんて、不道徳な映画でもありますが、
そこは違和感を感じさせずに仕上げるなど、上手くピーター・ウィアーがカバーしている。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ピーター・ウィアー
製作 ピーター・ウィアー
   ジャン・ゴンチェ
   ダンカン・ヘンダーソン
脚本 ピーター・ウィアー
撮影 ジェフリー・シンプソン
編集 ウィリアム・M・アンダーソン
音楽 ハンス・ジマー
出演 ジェラール・ドパルデュー
   アンディ・マクダウェル
   ベベ・ニューワース
   ロバート・プロスキー
   グレッグ・エデルマン
   ロイン・スミス
   ジョン・スペンサー
   ジェシー・ケオジャン
   イーサン・フィリップス

1990年度アカデミーオリジナル脚本賞(ピーター・ウィアー) ノミネート
1990年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
1990年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ジェラール・ドパルデュー) 受賞