原子力潜水艦浮上せず(1978年アメリカ)
Gray Lady Down
米海軍の原子力潜水艦が他国の貨物船と衝突したことをキッカケに、
海底に沈没してしまい、大勢のクルーを乗せたまま自力航行ができなくなり、残された酸素と破損箇所からの
浸水の恐怖と闘いながら、当時の最新鋭の救助艇であるDSRVの救助を待つ姿を描いたサスペンス映画。
まぁ、70年代にブームになったパニック映画の系譜を持った作品だと思うのですが、
チャールトン・ヘストン主演というのも、その潮流を汲んだ作品ですね。実に男臭い、その臭いがプンプン漂っている。
ただ、こういう言い方をしてしまって大変申し訳ないのですが・・・
映画の企画の面白さの割りに、何故か映画は盛り上がらない。緊張感や緊迫感というのものも希薄で、
具体的に何が悪いと言い難いのですが、どこか映画的ではないというか、まるでテレビドラマを見ているかのよう。
まだCGなんかが無かった時代ですので、ある程度は映像表現に限界があるのは仕方ない。
その分だけセット撮影で工夫して、更に潜水艦が沈んでいく表現をグルッと回転させたりして、コントのようだ。
これは揶揄的に言っているわけではなく、撮影現場で出来る限りの工夫をして、当時の技術を駆使しようとする
作り手たちの意気込みが嬉しい作品でもある。これが90年代ならCGをバンバン使って撮っていたでしょうね。
しかしながら、本作はそれ以外の部分が平坦な感じになってしまっていて、
特に原潜内での人間ドラマがもっと見応えあるのかと思いきや、意外に表層的で盛り上がらない。
例えば、チャールトン・ヘストン演じる艦長とロニー・コックス演じる副艦長との対立関係なども
匂わせるだけ匂わせておいて、そこまで深掘りしないというのが解せないところで、まったく盛り上がらない。
そのせいか、原潜のバランスを整えるために副艦長が命がけで対処するという、本作最大の見せ場もあるのですが、
これもそれまでの軋轢などをしっかりと描かないものだから、この決死の行動が無情にも平坦に描かれてしまう。
これでは演じるロニー・コックスもなんだか可哀想ですよね。中途半端な扱いで。
結局、この映画で目立つのはチャールトン・ヘストンということになってしまって、サイド・ストーリーが全て中途半端。
そこで置き換わるように登場してくるのは、DSRVが出動する前に沈没した原潜の様子を確認しに来る、
特殊任務に就く潜水艇の開発者であるデビッド・キャラダイン演じるゲイツ大佐が絡んでくる時間が長くなってくる。
さすがにゲイツ大佐はそれなりにしっかり絡んでくるのですが、彼のエピソードはなかなか良い。
沈んでしまった海底地形の特殊性、原潜のリスクもあって、ゲイツ大佐が操縦する潜水艇が近くで見守ります。
この潜水艇、かなり小型なのですが、ゆっくりと海底深くまで航行していく緊張感もなかなか上手く表現している。
でも、申し訳ないけど本作の良いところって、このゲイツ大佐に関わるエピソードくらいですね。
この辺は監督のデビッド・グリーンももっと全体像をイメージしながら撮って欲しかったのですが、
個人的には原潜内のパニックや、具体的な危機をもっと映像として明確に描いた方が良かったと思うんですよね。
基本コンセプトとしてはパニック映画にあると思うのですが、本作はハラハラ・ドキドキすることが無さ過ぎましたね。
と言うのも、原潜内は酸素に限りがあることが分かっていましたし、どうなるか分からない状況の中で、
例えば若い通信兵が無線交信できないことに苛立ちを見せていることから分かるように、強く不安な状況なはずだ。
それは、いくら屈強な男たちの集まりとは言え、この絶望的とも言える状況の中では不安が“連鎖”するはずなんです。
艦長に対する不信感だって湧いてきてもおかしくはない状況ですし、そういった精神的なパニックも描けていれば、
当時の技術力のハンデも上手く乗り越えた、パニック映画にできたはずだ。そういうメリハリが無かったのが残念。
それから地上で残される家族と思わしき女性たちの描写も少しだけあるのですが、
これもまた中途半端な描き方しかしてなくって、まるで途中で忘れていたか、放棄したかのような扱いの悪さ。
これもまた、作り手が何をどう思っていたのか分からないが、ここまで中途半端なら描かない方が賢明だった。
救援部隊の中でも、地味に誰がイニシアティブをとるかでもめているというのも興味深い。
特にステーシー・キーチ演じるベネット大佐と、途中から救援活動に加わって潜水艇を操縦することになる、
ゲイツ大佐との間で静かな葛藤があって、これも面白そうなところではあったのですが、これもまた深掘りしない。
単純に原潜をレスキューすることだけで盛り上げようと思っていたのかもしれないが、どうにも“武器”が不足してました。
前述したように、70年代はこの手のB級パニック映画が多くヒットしブームとなりましたが、
さすがに本作が製作された78年には、ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』を世界的にヒットさせていたので、
既に本作のようなB級パニック映画というジャンルの作品自体が、時代遅れなものになっていたのかもしれません。
特撮技術の進展など、映像技術も日進月歩で進化していたこともあり、
SF映画自体の在り方も変わりつつあった時代ですね。80年代にはこういう映画はほぼ作られなかったですからね。
50年代からハリウッドでトップスターとして活躍してきたチャールトン・ヘストンは、『猿の惑星』以降はSF映画に
活路を見い出して、本作のようなB級パニック映画にも好んで出演してましたが、大きな転換期だったのでしょう。
チャールトン・ヘストンは80年代以降は俳優活動が停滞してしまい、次の路線を見つけられなかった印象ですね。
しかし、本作で描かれる衝突事故は不注意もあったような感じで描かれますが、
原潜が海底に沈んでいくというのは、実に怖いことですね。本作もてっきり、原子力潜水艦という着想点を生かし、
放射能漏れの危機も描かれるのかと思いきや、多少なりとも政治的な問題もあってか、それは全く描かれません。
この後にスリーマイル島の原発事故とかもあったので、ひょっとするともう少し後に作られていれば、
少し違った視点から構成されていたかもしれませんね。後々、『Kー19』などを見ていると、尚更そう思います。
(78年当時で、原子力潜水艦の放射能漏れ事故を描いていたら、かなり先見的な映画になっていたでしょう・・・)
映画の出来自体があまり良くなかったことに加えて、映画のカテゴリー自体が少々時代遅れ気味、
とまぁ・・・後ろ向きな感想が先行してしまうのですが、この辺で一区切りついた作品としては価値があるかもしれない。
ラストシーンでは、『ポセイドン・アドベンチャー』のラストほどの「やっと終わった・・・」という感覚はないけれども、
それでもチャールトン・ヘストン演じる艦長が、生還した喜びを噛みしめ、死んだ仲間を想う表情がなんとも絶妙。
ここで徹底した艦内のパニックが描かれていれば、それぞれのエピソードに膨らみがでただろうし、
「やっと終わった・・・」と言えるだけの到達感が湧き上がるラストになっただろうと思えるだけに、なんとも残念でもある。
少々穿った見方をすれば、当時、最新鋭の救助艇だったDSRVの宣伝のような映画にも見えなくはない。
生前のチャールトン・ヘストンは生粋の共和党支持者で、全米ライフル協会の会長であったことで有名ですが、
チャールトン・ヘストンの意思とは無関係ながらも、このシナリオには米軍への忖度も含まれていたかもしれません。
次々とクルーに襲い掛かる、様々なパニックみたいな映画を期待されるとツラいけれども、
ある意味ではこれだけ静かに事態が悪化していくというのは、この事故の現実を反映しているのかもしれません。
そういう意味では、結構、地味な映画です。セット撮影に工夫を凝らしているので、撮影現場は楽しかったでしょうが、
そのユニークさが映画の中身には反映し切れず、物足りない内容になっているため、ある程度の前情報は必要です。
それともう一つ不思議なのは、実はこの映画の中で遭難したクルーたちが食事をとるシーンがないことです。
このような状況に陥ると、酸素は勿論のことですが、どれだけ栄養を摂れるかということと、
エネルギーを無駄に使わないかということが、生き延びるポイントになってきます。自力で外に対して、
何も手を打てる状況にないのであれば尚更のことで、中の食糧事情はどうなっていたのかが気になりましたね。
まぁ・・・衝突後はあえなく海底に沈んでいったわけですから、自力航行不能に陥り相当揺れたわけで
まるで大嵐の日に出航して、大揺れ航海に出てしまった長距離フェリーに乗ってしまったみたいなシチュエーションで、
キッチンや食堂はスゴい在りようだったとは思いますが・・・。これって、結構、重要なファクターだったと思うのですがね。
個人的にはこの邦題も嫌いになれないくらい、ストレートな邦題なんだけれども・・・(笑)
ただ、敢えて言うなら、『原子力潜水艦浮上せず』というよりも、この内容なら『原子力潜水艦浮上できず』だな。
余談ですが、救援隊の兵士として『スーパーマン』でブレイクする前のクリストファー・リーブも出演している。
ほぼチョイ役に近いくらい登場シーンが多くはないのですが、その端正なマスクはこの頃から目立っている。
(上映時間110分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
監督 デビッド・グリーン
製作 ウォルター・ミリッシュ
脚本 ジェームズ・ホイッテカー
ハワード・サックラー
フランク・P・ローゼンバーグ
撮影 ステヴァン・ラーナー
編集 ロバート・スウィンク
音楽 ジェリー・フィールディング
出演 チャールトン・ヘストン
デビッド・キャラダイン
ネッド・ビーティ
ステーシー・キーチ
ローズマリー・フォーサイス
ロニー・コックス
クリストファー・リーブ
スティーブン・マクハティ
ドリアン・ヘアウッド
マイケル・オキーフ